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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第十五章 王国 対 共和国

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日誌 第百八十六日目  その1

「少し飲みすぎたかな…」

そう思って会場から離れてベランダに出る。

時間は零時を過ぎたあたりだが、まだ勝利の宴は続いている。

まぁ、開始時間が遅かったから仕方ないのかもしれない。

客船新田丸のいくつものホールを使って行われた宴には、三カ国の数多くの将兵が参加し、盛大なものになった。

少し離れたここにまで歌を歌ったり、会話を楽しむ声が聞こえてくる。

まぁ、気持ちはわかる。

勝利の美酒とは実に美味だ。

だからこそ、人はそれを得ようとするのだから…。

そんな事を思いつつ、ベランダから周りの景色に目を移す。

潮風が気持ちいいものの、周りは暗闇に包まれ、光らしきものは近くで一緒に進んでいる艦艇のもののみだ。

それはある意味、自分達以外はいないんじゃないかとさえ、錯覚させてしまう。

なんだか寂しい感じはするものの、それはそれで風情があるかなと思って佇んでいると同じように少し一息入れにきたのだろう。

アッシュがこっちにやってきた。

「よう」

そう言って僕が手を上げるとアッシュはニタリと笑って手を上げた。

「やぁ。今回の主役がこんなところにいていいのか?」

「何を言ってるんだ?今回の主役は、戦場で命を張った彼らだよ」

僕の言葉に、アッシュは苦笑する。

「秘書官の言うとおりだな。君は自分の価値を過小評価している。苦労するな、彼女も…」

「そうかな…。自分では、そうは思わないんだが…」

僕の言葉にますます困ったような顔をするアッシュ。

「過度なのも問題だが、こっちはこっちで問題だな…」

そう呟く様に言うと、じっと睨む様に真剣な表情で見て言う。

「君は、帝国の東部基地と東方艦隊を壊滅し、さらに共和国と帝国の艦隊のまさに今までにない大艦隊を撃退しているんだ。そして今回の事…。君の動きは今や世界各国が注目していると思ったほうがいい。それを自覚しないと、いつか足元をすくわれるぞ」

それはまさに警告だった。

「ああ。わかった。気をつけようと思う」

「それならいい。あと、俺は、君の友人として、力になりたいと思っている。だから、何かあったら相談してくれ」

そう言った後、苦笑して茶化したように言葉を続けた。

「もっとも、互いに肩書きと役職なんかで雁字搦めになっちまっているがな」

その言葉に僕は笑う。

「確かに、それは言える…」

そして二人でしばらく笑った後、アッシュがベランダの柵に手を乗せ、景色を見ながら聞いてくる。

「なぜ、わかったんだ?」

「襲撃に関しての事か?」

「ああ…。共和国が関わっている可能性が低いのはわかっていたが…」

そう言ってアッシュは視線をこっちに向けてじっと見ている。

そこには、答えを知りたい学生のような好奇心が見え隠れしていた。

「そうだな…。まず、僕も共和国の線は真っ先に外した」

「やっぱりか…」

「はっきり言って今のアリシアが主導を握っている共和国じゃありえないと思ったからね」

僕の言葉に、少し目を細めてニヤリとするアッシュ。

その顔には独特の色が見えた。

「ほほう…。なかなか信用しておりますな、彼女を…」

僕は苦笑して言い返す。

「友人として信用できるという事だよ。恋愛感情とかはない」

僕の言葉に、アッシュはくすくすと笑う。

「確かに。サダミチにはあの秘書官がいるからな」

その確信に満ちたアッシュの言葉に僕の顔に熱が篭る。

「な、な、な、何をい、言うんだっ…」

「バレバレだって…」

「バレバレ…なのか…やっぱり…」

僕がそう聞くと、ニヤリと笑いつつ頷くアッシュ。

どうやら僕が大尉をどう思っているのかと言う事は、バレバレのようだ。

「はぁ…」

深々とため息を吐き出すと、アッシュが笑いつつ肩を叩く。

「そう落ち込むなよ」

「いや…。そんなにバレバレだったとは思ってなかったからな…。落ち込むさ…」

「まぁまぁ。でもさ、それなら、別の国の仕業とは思わなかったのかい?」

「思わなかったよ。今回の件、王国と共和国のそれぞれの商業船団の被害が違いすぎるからね。片や被害ゼロで、片や狙ったかのように一隻を残して全滅だなんてね」

「確かにその通りだが…」

「確かにそれだけできめるのはどうかなと思ったんだけど、考えれば考えるほどあまり他国でもメリットがあるように思えなかったからね。まず最初に考えられるのは帝国だが、今の帝国はそんな策を準備する余裕はないだろうし…」

僕の言葉にしみじみと頷くアッシュ。

「ああ。それはわかる。今の帝国は生き地獄だよ。ああはなりたくないと思うね…」

僕も頷く。

帝国の内情は、今や笊のように駄々漏れだ。

入ってきた報告書を読んだ僕の感想としては、未だに国の形をしているのがおかしいとさえ思ってしまう。

それほどの状態だといっていい。

「次に合衆国だがあの国はまずそんな事は考えないだろう」

「ああ。連中は、どちらかと言うとどの国に対しても中立だからな」

「次に教国だが、ここは、今までの情報から表立った動きはない。まるで現状維持を狙っているように思えたんだ」

「その判断は正しいな。今のルックディンナ最高司祭は、表向きは一応共存と平和を願っているという話だしな」

その言葉に含まれる嫌味に僕は苦笑する。

昔、しつこく勧誘してきた新興宗教の神祖とかいう男の顔が脳裏に浮かんだためだ。

そして、宗教家っていうのはどこか胡散臭く感じるのは、どこの世界でも共通なのかもしれないと思ってしまう。

「しかし、なんか含みのある言い方だな」

僕がそう言い返すと、アッシュは鼻で笑った。

「何代か前の最高司祭は宗教を使って色々やってたからな。おかげで王国内が大混乱になった事がある。それ以降、王国では宗教に関しては、かなりいろいろ制限を設けて厳しくなった」

「それなら今の物言いも納得できるよ」

「サダミチもいい思い出がないみたいだな」

「ああ。おかげさまでね」

互いに苦笑した後、僕は話を続けた。

「あと、仮に連盟の件だと考えても、共和国と王国の戦いが始まった場合、彼らに利益は得られないと考えられるが、間違いないだろう?」

「それもあってると思う。確かに戦争になれば王国とも共和国とも商売している以上、利益は生まれるが、もし色々やるにしてもそれがばれた時に失われる信用はそんな小手先の少しの利益でなんとかなるレベルじゃないからな」

「そうなると国の次は組織だが、今回特に引っかかったのは王国艦隊が襲撃されたとはいえまったく被害が出なかったということなんだ」

「それが何で引っかかる?」

「被害は出てない。なら、何で襲ったのか?」

「襲撃に失敗したってことじゃないのか?」

「報告書をみた感じじゃ、逃がす気満々だったし、要するに脅すだけって感じがしてね。その行為で何が変わるかと考えたんだ」

そう言った僕の言葉に、アッシュが驚いた表情で言う。

「そうか。海外から入れている物資の価格が変わる。だから、物価変動を調べろって言ったのか」

「ああ。あくまでも勘だけどね。それで何かつかめればと思ってね。そしたら、偶々ビンゴだったのさ」

僕の言葉にアッシュはニタリと笑みを浮かべる。

「たまたま…ねぇ…」

「そう、偶々だよ」

「そうか。でもな、偶々でも当たれば大きいぞ。うちの国の重鎮がサダミチに会いたいなんて言ってたからな…」

その言葉にぞーっとする。

そんな大それた人達なんかと会いたくないぞ、僕は…。

今でだってあっぷあっぷなのに、そんな人達と会談とか無理だ、無理、無理。

そんな僕の気持ちがわかったのだろう。

アッシュは笑う。

「だから言っただろう…。『君を今や世界中が注目してるってさ』」

僕は深々とため息を吐き出して「よくわかったよ」と僕が言うと、アッシュはますますカラカラと笑った。

「まぁ、もしなんかあったら力になるからな…」

アッシュはそう言うと手を振って会場の方に戻っていく。

「もう行くのか?」

「ああ。まだまだ食った事のない料理と酒が待っているからな」

その言葉に、僕は苦笑するしかなかった。

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