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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第十三章 アルンカス王国

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防衛戦  その2

沖合いでの戦いは、港どころか首都の見晴らしのいい場所なら見える距離であった。

その為、警戒する部隊や市民達が戦いを固唾を呑んで見守っている。

彼らには海賊の襲来が告知され、それと同時に、防衛に協力してくれるフソウ連合海軍の派遣艦隊は数が少なく、海賊が上陸してくる恐れがあるためと言う理由で市民の外出禁止令も出された。

そして、市民達は、その告知ですべてを理解する。

共和国の人々が急になぜいなくなったのか。

フソウ連合がなぜ我々を守ろうとするのか。

そしてなぜ共和国海軍が出撃しないのか。

それらがすべてを物語っている。

共和国は、この国から手を引き、フソウ連合がこの国を手に入れたのだと…。

だから、外出禁止令が出されたとは言え、家の窓から、家の屋根から、多くの人々が固唾を呑んで戦いの行方を見守っていた。

そして、首都の見張り台では、木下大尉とアルンカス王国宰相のバチャラ、それにアルンカス王国軍の指揮官数名がそれぞれの双眼鏡で戦況を確認していた。

彼らの双眼鏡には、海賊の艦艇は三隻しか映っていない。

はるか向こうの戦いが確認できないが、それ以上の海賊艦艇の侵入はないということなのだろう。

「敵海賊は総数三十隻と言う事だったが…」

「恐らく、残りの二十七隻は、ここに来る前にフソウ連合海軍で何とか対応したのでしょう。連絡には、フソウ連合海軍の作戦参加艦艇数は、八隻ということだったので…」

「三倍以上の数の差を…ここまで減らしたという事か?」

バチャラがごくりと唾を飲み込む。

フソウ連合海軍の強さを実感したのだろう。

一旦、双眼鏡から目を離すとちらりと横に立つ木下大尉を見る。

もし、フソウ連合海軍の助けがなければどうなっていただろうか。

今、アルンカス王国軍の用意できる最大火力は七十五ミリ野戦砲だが、その数はわずか十二門のみである。

それ以外の火砲は、共和国によってほとんど破棄されてしまった。

だから、もしここまで数が減らされなかった場合、下手をすると三十と言う艦艇に十二門で戦う事になる。

その結果は、簡単にわかる。

歯がたつはずもない。

下手すると王宮まで砲撃され、略奪されたかもしれん。

だが、三隻程度なら、何とかなる。

確かに被害は出るかもしれんが、なんとかなる。

そう思えるほどにフソウ連合海軍が敵を減らしてくれた事に対しては感謝しかない。

だが、そのバチャラの思考はすぐに現実に戻される。

「不味いですね…」

双眼鏡を顔から離さずに木下大尉が呟く。

「何がかね?」

指揮官の一人が聞き返した。

「瑞穂は支援艦であり、純粋な戦闘艦ではありません。今でこそ何とかしてますが、何かの拍子に流れが変わるかもしれません。沿岸の部隊の準備をお願いします」

「わかった。すぐに連絡を入れよう」

指揮官の一人が、部下の通信兵に無線連絡を入れるように指示する。

その様子を音として聞きながら、木下大尉は緊張していた。

瑞穂は実にうまくやっている。

速力が遅くて小回りのきかない支援艦でよく三隻を牽制していると…。

だが、この状態は長く続かないだろう。

一番いい終わりとしては、瑞穂の砲撃が当たって敵が壊滅することだ。

だが、その望みは高くない。

ここまでの激しい動きでの近接的砲撃戦では、命中率は極端に落ちる。

小火器での命中はあるだろうが、それでは決定打にはならない。

敵との距離が近いのと相手の速度が速いため、12.7cm連装高角砲では動きが追いつかずに狙いにくいのだ。

ましてや、常に砲撃訓練などをしている戦闘艦ならいざ知らず、瑞穂は水上機母艦である。

砲撃の練度が戦闘艦に比べて大きく違いすぎる。

そして、その時が訪れた。

瑞穂の速力がガクンと落ちた。

確か以前瑞穂のディーゼル機関は不調を抱えており、トラブルが発生しやすいと聞いた事がある。

恐らくだが、命中弾はほとんどない状態だからそれが原因だろう。

「敵、突破した。戦闘用意の指示を。火砲はむやみに撃つのではなく、敵の動きを予想して確実に当てる射撃に徹してください」

そうは言っても、現実はかなり厳しい。

砲撃戦では、まず勝ち目はない。

いかに敵の上陸を阻止し、敵の戦意を挫くかに戦いの勝敗はかかっている。

だが、そこでふと木下大尉は違和感を感じた。

なんかおかしいぞ。

欲望に忠実な海賊なら、ここまで数が減らされる前に撤退したのではないか。

連中は、楽して富を得ようとしているはすだ。

なのに、わずか三隻になっても必要に襲撃しようとしている。

まるで、別の目的のためにここを襲撃したいかのように…。

なんだ…この違和感は…。

まるで海賊ではなく、まったく別の存在と戦っていると錯覚してしまう。

これではまるで…

その時だった。

誰かの叫び声かはわからないが、一人の兵士が空を指差して叫ぶ。

「な、なんだ、あれはっ」

それがきっかけとなってその場にいた全ての視線が空に向けられた。



「瑞穂から命令来ました。『攻撃ヲ許可スル 敵ヲ誰モ上陸サセルナ』以上です」

街野二等兵曹の言葉に、東田兵曹長が聞き返す。

「間違いないんだな?」

「はい。間違いありません」

東田兵曹長は息を何度か吸っては吐きを繰り返す。

そして、周りを飛ぶ他の機体を確認した。

周りには全部で五機の零式水偵と三機の二式水戦が編隊を組んで飛んでいる。

全機瑞穂に配備されている艦載機だ。

二式水戦は翼下に六十キロ爆弾を二つ、零式水偵は二百五十キロ爆弾を一つ装備しており、その重量のため、普段とは違って少し舵が重いのと動きに少し遅れを感じさせる。

先頭を飛んでいる偵察507隊一番機が翼を揺らす。

そして、一番機のパイロットが周りを見回して指で下を向ける。

攻撃開始の合図だ。

東田兵曹長も翼を揺らして答える。

他の機体も同じように翼を振って答える。

それを確認したのだろう。

一番機が機体をひるがえしてゆっくりと降下していく。

次々と他の機体が続き、東田兵曹長も機体をひねって降下を始めた。

これが九九艦爆や彗星ならば、急降下爆撃をやったんだろうが、零式水偵や二式水戦は下駄履きの偵察機や戦闘機である。

急降下爆撃できなんて出来るはずもない。

なにより、フロートが邪魔をしてしまう。

だが、水平爆撃なら零式水偵や二式水戦でも十分可能だ。

だが、まずは水平爆撃を行う高度へと機体を下げる必要がある。

目標は三隻。

まずは二式水戦が、それぞれ一隻を一機ずつ水平爆撃を行う。

敵艦からの対空砲火はない。

それはそうだろう。

飛行機と言う存在が、この世界では認識されていないのだから。

ひゅーっ。

六十キロ爆弾が投下される。

中央の装甲巡洋艦の後方に一発が命中して爆発し、火災が起こる。

残念ながら、それ以外は外れたようだ。

だが、至近距離での爆発に水面が揺れ、海賊の艦艇を激しく揺さぶった。

そして、爆撃後、二式水戦は上空で警戒に入る。

次は、我々の番だな。

東田兵曹長が後ろに言う。

「いいかっ。絶対に当てろよ」

「無茶言わんでください。きちんとした爆撃手じゃないんですから」

街野二等兵曹が悲鳴のような声を上げる。

片路一等兵曹がそんな街野二等兵曹に声をかける。

「当てたら、ビールをおごってやる」

「一杯っすか?」

その問いに東田兵曹長が答える。

「二杯だ。俺からもおごってやる」

その言葉に、一気にやる気が出たのだろう。

「了解しました。必ず当ててみせます」

街野二等兵曹が鼻息も荒くそう言い、「いつでもどうぞ」と叫ぶ。

「よっしゃ。いくぞっ」

一隻に付き、二機の零式水偵がそれぞれ時間をずらして攻撃に入った。

「ビールいただきーーーっ!!」

気合の入った掛け声と共に偵察703隊三番機の二百五十キロ爆弾が切り離される。

そして、その爆弾は、見事に装甲巡洋艦の中央部、艦橋に命中し、派手な爆発を起したのだった。

●ブックマーク300突破を記念してイベント始めました。

よろしければ、活動報告をご覧ください。

皆さまのご参加お待ちしております。

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