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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第十章 戦いの後に… フソウ連合編 

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日誌 第百六日目 その1

「よしっ。これで終わりっと…」

最後の書類にきちんと目を通し、サインと印を押して待っている東郷大尉に渡す。

その書類を受け取り、さっと東郷大尉が目を通して確認したあと、微笑んだ。

「はい。完了です。お疲れ様でした」

彼女はそう言って頭を下げる。

「ああ、お疲れ様」

僕も頭を下げた。

これでやっと本年度の仕事が終わった。

要は仕事納めと言うわけだ。

本日、十二月三十日で、フソウ連合海軍は仕事納めとなる。

もちろん、最低限の警戒の為の人員は任務に就くし、何かあった場合は非常呼集なんかはある。

しかし、それでも十二月三十日から一月二日までは基本休日扱いとなっていた。

俗に言う正月休みと言うわけである。

機嫌よく書類を纏めていた東郷大尉を見て、つい気になって聞いてしまう。

「大尉は、休みはどうするんだい?」

「あ、はい。明日三十一日に帰省してお正月は実家で過ごす予定です」

そうか、なんか寂しいなと思うが、それが当たり前だろう。

「そうか。いい休日になるといいな」

何気なくそう言ったのだが、その瞬間に東郷大尉の顔が渋い顔になった。

何か不味いことでも言っただろうか。

慌てて聞き返す。

「な、何かいやなことでもあるのかい?」

「え、ええ。まぁ…ちょっと…」

なんか誤魔化そうという感じの返事が返ってきた。

うーん、聞いたら駄目だったかな…。

もしかしたら、中々帰省しないと言うことで口論になったりするのだろうか。

やっぱり親御さんとしては、若い女性の一人暮らしというものは気になるモノなんだろうな。

もし自分にも娘がいたとしたら心配で夜も眠れなくなるかもしれんからなぁ。

なんて想像してみる。

もう少し、実家に帰らせてあげたいんだけど、彼女がいないと仕事がなぁ…。

実際、まだ前回の戦いの報告書やら決算やらいろんな書類がまだ終わっていない。

急ぎの分だけ何とか終わらせたというのが今の現状である。

だから、お正月とかいった時でしか連休というのはなかなか難しいのだ。

そうだなぁ。

これだけ彼女にはお世話になってるんだし、ご両親にもなんか贈り物でもしていた方がいいのかな…。

お歳暮とかあるのかな…こっちの世界は…。

そんな事を考えてしまう。

しかしだ。問題がある。

何を贈ったらいいのだろうか?

うーん…。

漁師って言ってたっけ、ご両親は…。

どうらなら喜んでもらえる物を贈りたいけど、思いつかないんだよなぁ…。

一人で考えても…。

なら…。

思い立ったら吉日と言うではないか。

幸いな事に、本日の仕事は定時に上がれそうだ。

だから、声をかける。

「大尉、良かったら今夜時間をくれないか?」

僕の言葉に、どきっとしたのか、あたふたとして大尉が返事を返す。

「あっ、えっ、あ、はいっ。予定もありませんし、明日の昼前の便に乗るので少々遅くなっても問題ないです」

なんか期待している顔付きだ。

いや、単に両親に何か贈ったほうがいいのかなと思って選ぶのを手伝って欲しいだけなんだが…。

そんな事を考えつつ、口を開く。

「そうか。よかった。実はね、君の両親に何か贈ろうと思うんだけど、その贈り物を選ぶのを手伝って欲しいんだ」

少し沈黙がある…。

何なんだ、この沈黙は…。

「はい。わかりました。両親も喜びます」

そう言って彼女は微笑んだが、間違いなく彼女のテンションが下がった。

見かけはそんなことはないようだが、絶対に下がった。

なんかそんな風にわかる。

どうのこうの言いつつも、結構な時間一緒にいるのだ。

わかるようになってしまったというべきか…。

ともかくだ。

それだけだと申し訳ないから、食事も誘おう。

「それでね。その後、食事でも行かないか?」

さっきとは違い、最後まで言い終わらないうちに返事が来た。

「はいっ。喜んでっ!」

「あ、ああ…。よろしく頼むよ…」

その勢いに押されて、思わず後ずさってしまう。

なんなんだかなぁ…。


そんな感じで、定時に仕事を終わらせた僕と東郷さんは、家に戻ると服に着替えて軽で出かける準備をする。

軽を車庫から出していると、家の周りを警戒して回った後らしい私服の見方大尉が来て声をかけてくる。

「えっと…お出かけですか?」

「ああ、ちょっと出てくるよ。後、食事は済ましてくるから。君達の分はもう作って食堂にあるからそれを食べてくれ」

「了解しました。大丈夫だとは思いますが、念のために警備に誰か…」

そう言いかけていた見方大尉だったが、途中で言葉が止まる。

何があったのかと思いつつ、振り返って返事をする。

「どうしたんだ?」

すると玄関の方から家の中を見ていた見方大尉が真っ青な顔で慌てて否定する。

「い、いえっ。何でもありませんっ…」

「ああ、警備の件だけど…」

僕がそう言いかけると、見方大尉が慌てて言う。

「いえっ。大丈夫だと思いますっ。ですから、のんびりとお楽しみください」

何がなんだかわからないがそれでいいならいいか。

そう思って返事を返す。

「ああ、それでいいなら、二人で行ってくるよ」

「ええ。お二人で楽しんで来てください」

慌ててそう言うと、見方大尉は、来た道を戻り始めた。

あれ?今、警備で周ってきたんじゃないのか?

なんだかなぁ…。

そんな事を思いつつ、彼の後姿を見送っていると玄関の方で声をかけられた。

「すみませんっ。遅くなりましたっ」

そこには、下は黒の布地の厚いロングスカートと黒のタイツ、上は小豆色の少しぶかぶかのニットワンピース。そして、小ぶりの黒の肩掛けバッグを身につけた東郷さんがいた。

いやはや、いつの間にそんな服買ったんだろうか。

確かに、星野さんの奥さんと懇意にしているとは聞いていたけど、いろいろアドバイスとか受けてそうだ。

本当に感謝しかないなぁ。

年始の挨拶に行っておかないとな…。

「えっと…おかしくないですか?」

頬を少し朱に染めてそう聞いてくる東郷さん。

やばい…。すごくかわいい…。

なんかのとがカラカラで、何度も唾を飲み込み答える。

「ああ、すごく似合っているよ…」

その僕の言葉に、東郷さんは肩の荷が下りたように肩を下げて息を吐き出している。

「よかった…」

その一言に、どれだけ気合が入っていたのかがわかる。

「えっと…時間ないから…行こうか…」

「はいっ」

うれしそうに返事を返す東郷さんを見つつ、僕はなんか得をした気分になっていた。

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