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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第十章 戦いの後に… フソウ連合編 

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最上と的場良治少佐 その1

十二月三十日午後二時四十五分。

杵島少佐の肩を借りてドック区画に向かう的場少佐の姿があった。

以前ならさっさと進む距離もまだ完治していない身体では思ったように進まない。

以前、長官室に殴りこみ同然で向かった時はなぜあんなにも歩けたのか不思議なくらいで、今は痛みで一人で普通に歩く事もままならない。

それはあの時と今の心境の違いだろう。

あの時は、怒りや思いなどの感情が暴走して痛みを感じなかった。

いや、感じる余裕がなかったのだろう。

しかし、今は不安が心を押しつぶし、それで痛みか倍増しているようだ。

「大丈夫?」

心配そうな顔で覗き込む杵島少佐。

彼女にはここ最近、心配かけてばかりだと思う。

怪我をしてここに戻ってきた時は、大泣きされて痛いって言ってるのにも関わらず抱きつかれたっけ。

それが嬉しくもあり、痛くもあり、複雑な心境だった。

それと同時に、彼女を悲しませたくないと思った。

だから、的場少佐は微笑んだ。

「大丈夫だ」

それだけの言葉だが、彼女の顔がほっとしたようなものになる。

つまり、それだけ今の自分の顔は不安な顔をしていたと言う事なのだろう。

何をやってんだ、俺は…。

ぎゅっと拳を強く握る。

すると囁くように杵島少佐は言った。

「やっといつもの顔になった。大丈夫。きっと上手くいくわ。それに…」

「それに?」

そう的場少佐が聞き返すと、杵島少佐は少し頬を染めて口を開く。

「私が傍にいつもいるから…。貴方を支えるから…。だからあなたは前を向いていて…」

その言葉に的場少佐の心臓がドキリと高鳴る。

今まで励ましの言葉をいくつも杵島少佐から貰ったが、今回ほど心に響くものはなかった。

なんだか痛みが和らいだような気がした。

歩く足の重さが軽くなったような気がした。

心にあった不安の霧が薄くなったような気がした。

そして、的場少佐は心の中で笑う。

人間なんて実に現金な生き物なのだろうと…。

言葉一つで、人の思い一つでこんなにも違うものなのかと…。

しかし、だからこそ、強いのかもしれない。

彼は今、今まで以上に人との繋がりを強く感じていた。


二時五十五分。

二人はドック区画の中型ドックに入った。

指定された場所は、中型ドックの第二区画。

ドック参、ドック四と書かれてあり、そこには二隻の艦影があった。

一つは、新造艦なのだろう。

艦体の大きさと砲塔の配置、それに砲の口径から、重巡洋艦クラスだとわかる。

恐らくだが、現在配備されている重巡洋艦摩耶の同型艦のようだ。

じゃあ、隣は?

そう思って視線を移そうとした時に後ろから声をかけられた。

鍋島長官だ。

その脇には、東郷大尉と三島地区責任者代行の姿もある。

「重巡洋艦高雄だよ。摩耶の同型艦だ」

慌てて敬礼するものの、痛みの為に顔をしかめてしまう。

「ああ、いいよ。まだ完全じゃないんだろう?無理しなくていいから。それにしても、車椅子か何かで来ると思ってたんだけど…」

「大丈夫です。車椅子にお世話になるほどではありません」

「そうだな。彼女も付いているしな」

ちらりと長官の視線が的場少佐の横にずれる。

もちろん、その先にいるのは杵島少佐だ。

なんか嬉しくもあり、恥ずかしくもある。

そんな心境だ。

ちらりと横を見ると杵島少佐も同じ感じなのだろう。

思わず目が合ってしまい、二人して苦笑していた。

そんな二人を見た後、長官の視線は高雄に向けられる。

「しばらくは新造艦は抑えるつもりだったんだけど、そうも言ってられないからな…」

呟くような声。

おそらくその様子から意識して口にしたのではないのだろう。

その言葉に艦隊戦力の低下がはっきりと感じられる。

確かに撃沈こそないものの、傷ついた艦が多すぎる。

実際、大型ドックこそ空いているものの、中型、小型ドックはほとんど埋まっているし、工作艦の明石と三原の二隻もフル回転していると聞く。

それでも、修理待ちの艦が港には並び、追いつかないと言うことなのだろう。

そして、その間を埋めるために、新造艦の建造が進められているという事か…。

一瞬、手が足りないのに新造艦?と思ったが、以前、原理は説明を受けていないが艦の修理と新しい新造艦の製造は別の労力だと聞いていた事を思い出し、納得した。

そして、今度は長官の視線がもう一つの奥の方にある艦に向けられた。

それに釣られるように的場少佐の視線も動き、その目が捉えた艦の姿。

それは最上のようで最上ではなかった。

艦橋や煙突などは最上と似たような感じで一瞬最上かと思ったが、全体的に受ける印象が違いすぎた。

あれは、重巡洋艦用の20.3センチ砲だろうか。

明らかに15.5センチ砲よりも大口径の連装砲塔が三つ前方に並ぶ。

それでいて後部艦橋以降は突起物もなく、さーっと平らな恐らく水上機用の甲板とカタパルトがあり、前後の印象がまったく違うものになっている。

「長官…この艦は?」

的場少佐の言葉に長官は口を開く。

「最上だ」

「し、しかし…これでは…違いすぎます。それに二十センチ砲となると軽巡洋艦ではありません」

怯えるように言う的場少佐。

彼は最悪の結果を想像したのだろう。

だが、そんな的場少佐を見ながらも、長官の口調は事務的だった。

なにか感情を抑えるかのように…。

「最上からの頼みでね。自我が残るよりもより強くしてくれる方を優先してください、もう的場さんの足手まといにはなりたくないって。だから、申し訳ないが、的場少佐の希望よりも最上本人の希望を優先させた。その形がこれだ。航空巡洋艦最上として彼は新しく生まれ変わったんだ。」

新しく生まれ変わった…。

その長官の言葉の意味するもの…。

それは…。

言葉の意味を理解したのだろう。

的場少佐の目に涙が浮かぶ。

「馬鹿野郎がっ…。俺はお前が足手まといとか思ったことはないぞ。お前はずっと俺の乗艦だ」

叫ぶような声がドックに響く。

皆誰も何も言わない。

ただ的場少佐の嗚咽する音だけが響いていた。

しかし、そんな中で響く別の音があった。

「約束ですよっ」

その音…いや声に的場少佐の嗚咽の音が止み、下を向いていた視線がゆっくりと上げられた。

涙で濡れた歪んだ視界には、苦笑いしている長官達の姿が見える。

一瞬何が起こったのか、わからなかった。

「今のは…」

幻聴だろうか。

そう思った瞬間だった。

艦体の影から飛び出した人影があり、その人影はそのまま勢いよく的場少佐に抱きついた。

「ただいま戻りましたっ、的場さんっ」

最上だった。

以前と同じ姿の最上が、うれしそうに的場少佐を抱きしめている。

「えっ?今の話…、それって…えっ?ええーっ?」

混乱する的場少佐に、最上は一旦離れた後、真正面から見て言う。

「約束ですからね。乗艦の件。絶対ですからね。忘れたなんて言わせませんよ。これだけ証人がいるんですからね」

何がなんだかわからないまま頷く的場少佐。

そしてうれしさに再度抱きつく最上。

そして、あたりに響いたのは、的場少佐の悲鳴だった。

どうやら、最上の力が強すぎたようだ。

しかし、その悲鳴には、なぜか嬉しいという感情が交じり合っていたように感じられた。

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