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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第八章 帝国の逆襲

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日誌 第九十二日目  その1

十二月十五日。

マシナガ本島の海軍総司令部の会議室には、海軍の各部隊の責任者が集まっていた。

その数、実に四十人以上である。

そして、その中には北方方面艦隊司令長官的場少佐、南方方面艦隊司令長官南雲少佐の顔もある。

この会議の為に、二式大艇で駆けつけたのだ。

だから、フソウ連合海軍の上層部がほとんどそろっているといっていいだろうか。

その中で東郷大尉が立ち上がって紙を読み上げる。

それはほんの数時間前に送られてきた内容だ。

「北部海域に展開中の第二支援隊潜水母艦 大鯨よりの報告です。『テイコク ウゴク カズヒャクイジョウ』…」

東郷大尉の読み上げた内容に、会議室にいた全員が驚きの声を上げた。

それはそうだろう。

百隻以上ということは、潜水艦や支援艦、補給艦、哨戒艇などを含むフソウ連合海軍のほぼ総数に近い数だからだ。

しかし、報告はそれだけで終わらなかった。

「また、南部海域に展開中の第八支援隊潜水母艦 迅鯨よりも『キョウワコク ウゴク ソウスウヒャクイジョウ』という報告が来ております。帝国、共和国、両軍の侵攻スピードからフソウ連合領海に入り込むのは十二月二十二日以降と予想されるともきています」

ざわつきはより大きくなり、収まりそうにない。

そんな中、僕は呟いた。

「早いな…。それにすごい数だ…」

そんな僕の呟きに、山本中将が答える。

「ええ。それだけ、我々を評価しているというべきですかな…」

その言葉に僕は苦笑する。

「過小評価して欲しかったな…。そうすりゃ、楽できたのに…」

「そうはいかなかったようですな」

今度は新見准将だ。

その表情は苦虫を潰したように渋い顔だ。

「潜水艦隊はどうしてる?」

僕の問いに、東郷大尉が答える。

「はい。報告では、監視継続の為、艦隊を追尾しているとのことです。北部に、伊-400、伊-19、伊-20が、南部に伊-401、伊-68、伊-171が展開中です」

「そうか。ありがとう」

そう言って僕は手を組んで思考する。

恐らく三分の一が支援艦だろう。

しかし、そうだとしてもだ、それは、こっちも似たようなものだ。

いや、正確に言うなら、艦隊決戦に使えそうな艦艇は、北部、南部艦隊をあわせても四十隻前後だろうか。

唯一の救いは、何とか戦艦金剛と比叡、それに重巡洋艦高雄が間に合った事だ。

事前に王国からの情報があったのはすごくありがたいし、大きかった。

こりゃ、アッシュに礼を言わなきゃいけないなぁ。

ふと、そんな事を思うが、その礼に関して考えるのはうまくいってからでいいだろう。

そこで思考を戻す。

後は、戦闘機や哨戒機、水上機、偵察機などを除く北部基地の空港と本島の空港に展開している九九艦爆、九七艦攻、彗星、天山などの攻撃機、爆撃機などが百機程度準備できている。

それに前回の戦いで活躍した大型爆撃機連山と一式陸攻が三十機前後…。

一方の艦隊だけを戦うなら十分以上な戦力だが、同時に攻められたらどうしようもない…。

また、潜伏している魔女の件も気がかりだ。

多分、今回の為に潜伏し工作したはずだ。

何もしないと言うことはありえないだろう。

数が足りなさ過ぎる。

まさにこっちの予想をはるかに超えていた。

「さて、どうしますかな?」

落ち着いた表情で、山本中将が聞いてくる。

普段の面白そうな人を試すような表情ではなく真剣なものだ。

それだけ彼も危機感を持っているのだろう。

「まず、全艦艇を集結する事はしない。北方方面艦隊は帝国艦隊、南方方面艦隊は共和国艦隊にそれぞれ対処する。それに中央の連合艦隊を派遣して地方艦隊と連携して各個撃破していく」

「ふむ。それは戦い方としては間違いではないと思います。ですが地方艦隊の水雷戦隊だけでは、百隻の艦隊を抑え切れないんじゃありませんか?」

その通りだ。

地方艦隊の艦隊戦力としては、水雷戦隊の八隻前後だけで、後は護衛や哨戒、支援の艦艇ばかりであり、それらは数の内ではあるが戦力とは数えられない。

それらを戦力としてしなければならないときは、それこそ本土最終決戦と言っていいだろう。

「だから、少しでも時間を稼ぐために待ち構えているんじゃなく、こっちから攻める必要がある」

全員が黙り込んで僕の言葉に集中しているのだろう。

ざわついていた会議室はシーンと静まり返っていた。

僕はごくりと唾を飲み込み、そして口を開く。

「まずは、連合艦隊と南方方面艦隊を率いて、南から侵攻してくる共和国海軍を攻撃する。宣戦布告も何もされていないから公海では叩けない。フソウ連合の領海を示す結界から出てきたところを一気に叩く」

僕の言葉に、新見准将が驚き、聞いてくる。

「いいのですか?」

「宣戦布告されていない国にいきなり攻撃は普通に考えるなら不味いが、今回はそんな事を言っている余裕はない。王国とのチャンネルを使って、共和国を含む他の列国に領海内に入ってきた六隻以上の艦隊には警告なしに攻撃すると宣言しようと思っている」

僕の答えに、なんとか納得したのだろう。

新見准将は、渋い表情ながらも頷くしかなかった。

「では、北部から侵攻してくる帝国には?」

「本島と北部基地配備の航空隊と北方方面艦隊で何とか足止めの時間稼ぎを行う。共和国の艦隊を叩いた後、掃討は方面艦隊に任せて、動ける連合艦隊はそのまま北部方面艦隊の元に向かう」

「果たしてそううまくいきますかな?」

山本中将が口をへの字口にして聞いてくる。

それはそうだろう。

あくまでも机上の空論でしかない。

早々うまくいくとは思えない。

「ギリギリなのはわかっているし、うまくいかなかったら北方方面艦隊にかなりの負担になることもわかっている。しかし…」

僕がそう言いかけると、「わかりました。任せてください」と言って笑った人物がいた。

北方方面艦隊艦隊司令的場少佐だ。

「北方方面艦隊に配備されている戦力をフルに使って敵艦隊の足止めを行います。ですから、連合艦隊と南方方面艦隊は必ず共和国を潰して支援に来てください」

その言葉に、今まで黙って聞いていた南方方面艦隊艦隊指令の南雲少佐が口を開く。

「的場…大丈夫なのか?」

心配そうな言葉を的場少佐は笑い飛ばす。

「任せろ。こう見えても一度は帝国の艦隊の侵攻を防いで見せたんだぞ。今回も足止めくらいなら何とかするさ」

そう言った後、僕に向って言う。

「長官、後で足止め作戦の打ち合わせをお願いします」

「わかった。策はあるんだな?」

「はい。もちろんですよ」

僕の問いに的場少佐はにやりと笑う。

実に頼もしい限りだ。

「では作戦における艦隊の大まかな動きは以上だ。細かいところは責任者との打ち合わせで詰めていく事とする」

「「「了解しました」」」

「後、潜伏している魔女に対してだが…」

僕の言葉に、諜報部の川中佐が言葉を続けた。

「はっ、すでにイタオウ地区だけでなく、各地区に諜報部を中心に、人員を配置済みであります。また、訓練中ではありますが発足されたばかりの地方軍や指導に当たるために派遣された教育隊も協力、それに三島さんのツテで魔術師を派遣しております。まったく何もなくといった事は不可能でしょうが、できる限り対応できるように対処しております」

そしてその後を続けるようにマシナガ地区防衛隊の第一旅団の旅団長である羽場少佐が口を開いた。

「よろしければ、二式大艇の部隊をお貸しいただきたい。いざとなったら、兵を派遣する準備を済ませておきますので…」

「それはありがたいです」

川見中佐が頭を下げる。

「なに、祖国を守る為ですからな」

楽しそうに笑ってそう答える羽場少佐。

なかなか豪快な人物のようだ。

「では、魔女に関しては、川見中佐を中心に対策を実施してくれ。あと、三島さんも助言をお願いします」

僕がそう言うと、地区責任者補佐であり、フソウ連合の魔術を統括する者でもある三島さんはにこやかに笑って頷く。

よし。

大まかな布陣はこれでいいだろう。

「他に意見はあるか?」

全員が首を横に振る。

「では気がついたことがあったら、すぐに連絡をしてくれ。では、各自細かなところを詰めて欲しい。計画は最優先で全て僕に回してくれ。時間がないからな」

「「「了解しました」」」

全員が立ち上がり、敬礼する。

それにあわせるように僕も立ち上がって返礼した。

こうして、帝国、共和国の侵攻に対する作戦が始まろうとしていた。

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