幕府、密貿易を画策
登場人物
老中首座 松平武元 右近衛将監 通称:右近
老中 松平康福 周防守 通称:周防
老中 松平輝高 右京大夫 通称:右京
老中 板倉勝清 佐渡守 通称:佐渡
老中格 田沼意次 主殿頭 通称:主殿
明和7年11月10日 江戸城 本丸 黒書院
「民部、そちの船ならば抜荷のひとつやふたつ可能であろう?」
耳を疑う言葉を田沼公が吐いた……。
「主殿様、幕臣にして鉄道奉行を命じられております私に密貿易をせよと仰せですか?」
「やれとは申しておらぬ。のう各方」
「「「左様じゃ」」」
「出来るか、出来ぬか、との文字通りのお問い掛けならば……出来まする……」
「ふむ、では、どこでやればバレぬと思うか?」
「江戸近辺でと申されるならば……八丈島を中継するのが適当かと……また、浜田藩ならば竹島を中継するのがよろしいかと存じます……」
奇しくもここに居る周防守殿の二代後の藩主が主導して竹島事件を起こしているしなぁ……。
「左様か。ならば、後は売るものじゃな……。そうじゃな、丁度よい。東北諸藩の産物で売れそうなものを用意させよ、それならば東北諸藩の財政の一助になるであろうしの……」
「東北諸藩を巻き込むのか……ならば、蝦夷地に秘密交易を行う湊を造らせてはどうじゃ?」
あーもー、このオッサンどもマジで密貿易をやろうとしている……しかも、自分は安全圏で私と有坂海運を実働部隊にするつもりだ……。
「そう言えばだが……民部、そちは雲州殿と仲が良かったの?」
周防守殿がなんか突然言い始めたんだが……。
「雲州殿?松江藩の治郷公でしょうか?佐陀川開削と高窪炭田で懇意にさせていただいておりますが……」
「うむ。ならば、竹島での抜け荷、雲州殿も一枚噛ませようぞ」
なんてことを言い出すんだ……周防守殿は自分だけでなく治郷公も引き込んで一蓮托生を狙い始めたんだが……。どうしてこんなことになった……。
竹島……当時は鬱陵島を竹島、竹島を松島と呼称していた。戦後の韓国による竹島不法占領……侵略……の一因はここにある……。この時代の呼称に従い、竹島は鬱陵島、松島は竹島のことと考えていただきたい。
竹島を利用して抜け荷をやる場合、邪魔になる存在といえば、松江藩と長州藩になるだろう。沿岸漁業がメインのこの時代であっても、この辺りの海域まで漁民が進出するのはよくあることで、その漁民が属す藩といえば松江藩、浜田藩、長州藩、津和野藩程度……。津和野藩は石高も沿岸も少ないので事実上無視しても構わない存在だ。
「確かに松江藩を抱き込むのは良い考えではありますが……」
「賛同出来ぬか?」
「長州藩を刺激しませぬか?ことが長州側に露見した場合、長州が堂々密貿易をやりかねませぬ……」
松江藩を抱き込むメリットは捨てがたいが……アレ?いつの間にかやる前提で話を進めてないかコレ?またノセられた……仕方ない腹を括ろう……。
「どうせ奴らは幕府に刃向かう腹積もり、露見しようがしまいがやっておるのではないか?薩摩の抜荷を連中も知っておろうしのぅ」
「うむ。長州への露見は無視してもよかろう。」
周防守殿どころか、右近殿、右京殿も露見のデメリットを無視してもよいと言い始めた……。
流石に拙くないかと田沼公を見るのだが、あのオッサンも問題ないと頷くだけだった……。
「では、老中方の意見が纏まりましたので、浜田藩主導の抜け荷、幕府主導の蝦夷地、八丈島での抜け荷を進めるということでよろしいでしょうか?」
はぁっ……と溜め息を吐きながら老中方を見回し、同意の頷きを得た。
「某が仙台、盛岡の各藩の専売品を江戸へ回すように取り計らっておこう」
「蝦夷地と松前には某が……」
「会津には某から話を通そうぞ……」
「久保田、庄内にも……」
「各方、根回しを万全にな……。では、今日の密談はこれにて散会とする。後日、改めて幕政改革の議題を討議するものとする。」
やることが決まったら分担がさっさと決まった……。こいつら悪事に手を染めている自覚あるのか?それも取り締まるべき立場だって忘れてねぇか?
決まった以上、やるんだけどもさぁ……このオッサンども妙にイキイキして悪事を働こうとしているんだが、文化祭の時のノリでやるものかコレ……。
って……今日の密談で決まったのって、幕府財政と食糧管理の改革の方向性についての話と、密貿易について妙に具体的な話だけじゃん……。




