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明日も葵の風が吹く  作者: 有坂総一郎
私設鉄道の勃興

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江戸外環鉄道

明和7年2月1日 江戸 万世橋


 年末からの懸案であった幕府官設鉄道(上野~大宮)、大江戸鉄道(品川~上野)の鉄道事業独占に対する不満解消であったが、やっとのことで各方面の調整が済んだ。


 幹線鉄道を私鉄にするのは色々と都合が悪いため、江戸市中の環状鉄道を建設することとなったのである。具体的には万世橋~四ツ谷~新橋と江戸城外堀をぐるっと回るルートである。


 鉄道用地の確保が容易であったことと、この辺りまでは確実に乗客が確保できる市街地であることが理由である。この時代で山手線なんてローカル線もいいところなので、路線建設の参考にならないという現実的理由もあるのだが……。


 また、大江戸鉄道の日本橋~浅草の路線建設も同時に起工されることとなった。こちらは純粋に大江戸鉄道の財務基盤を固めるための延伸といえるものである。


「伊奈殿、これでやっと連中の突き上げから解放されますな。」


 起工式に一緒に出席している関東代官伊奈忠敬殿に話しかけると彼は憑き物が落ちたかのような表情で応えた。


「いや、彼らには本当に悩まされましたからなぁ。これも、民部殿のご協力のお陰。」


「ですが、今は餌を与えて誤魔化しておりますが、所詮は時間稼ぎ。数ヶ月から一年程度でしょう。彼らが経験を蓄積していけば他の地域への路線拡大を要求するのは目に見えております。」


「関東ならば我らの目があるので兎も角、遠国では統制が効かぬ……というわけですかな?」


 彼の言う通りで、長州藩の様に独自もしくは合弁で藩領内に勝手に線路を敷かれるとこちらの統制が効かない。


「長州藩も今はおとなしいですが、恐らく、時期を見て鉄道を藩内に敷設するのは必定。」


「ならば、彼らよりもこちらが優位となる様にやらねばなりませぬな。」


 そのための蒸気機関車だ。出来れば電車も作れるといいけれど、そればっかりは無理だからなぁ。


「ご心配は無用でござる。技術的優位性がある限りは彼らの好きにはさせませぬ。蒸気機関車の増産も進めておりますればこちらの優位は揺るぎませぬよ。」


「ならば、その言葉を信じ期待致しましょう。」


 伊奈殿はそう言って他の出席者のもとへ向かった。

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