四面楚歌
明和6年1月1日 江戸 新橋 有坂民部邸
大江戸鉄道の開業式典で突然の御目見得と幕臣登用、叙位、辞令仮交付・・・。激動の年末だった。そして、届いた正式な辞令。そう、今日付けで正式に幕臣となった。
辞令によると旗本3000石、鉄道奉行、役料3000石だそうだ。本来は足高の制で役料は支給されないのだが、遠国奉行と同じ扱いで追加支給をしてくれるらしい。
こんな破格で良いのか?不味いだろ?と年末は頭を抱えたのだが、上様家治公が言うにはボーナスだそうだ。もう、諦めた。まぁ、知行地貰っても面倒なので交渉した結果、6000石を6000両で現金支給してもらうことにした。
そんなわけで、登城して年始の挨拶を済ませたわけだ。
立ち位置としては江戸幕府三奉行(寺社奉行、勘定奉行、町奉行)、大目付と同格扱いらしい。登城は5日に一度でその際に勘定奉行、町奉行とやりとりすることになったらしい。必要に応じて登城の要請が来るが、殆どの場合は奉行同士の打ち合わせのついで構わないそうだ。どんだけ緩いんだろうね。配慮しすぎだろう。
うん、速攻で寺社奉行に目をつけられた。勘定奉行からはカネないから自前でなんとかしろって言われた。あいつら敵だ。北町奉行の依田和泉守殿は公明正大っぽい人だったな。南町奉行はなんかパッとしなかった。
当面当てになるのは南町奉行の依田和泉守殿、勘定奉行の伊奈備前守殿、長崎奉行を兼任している石谷備後守殿くらいか・・・。
全く面倒なことになった。四面楚歌じゃんか。幕閣相手に交渉していた方がなんぼかマシだったんじゃないのかと思うよ・・・。実質、特命係長だもんな。まぁ、手駒の大江戸鉄道を使うしかないよね。資金源は有坂財閥を・・・。金回りがあるだけまだマシ。
インフラ全般を管轄することになったから、旧道奉行の組織を吸収させろと要求したんだが、普請奉行が難色示しているから勝手に工事するぞと脅したら人足手配妨害するぞと脅された。糞ったれめ。
あーもー。
「よう、総さん・・・いや、お殿様。」
やめれ。
「誰が殿様だ。好きで旗本やってるんじゃない。あいつら皆敵じゃ。」
「ははは。田沼様もそうやって上にのし上がっていったのさ。」
全く、今太閤の渾名は伊達じゃないってのかよ。なんなのだ、なんなのだ。
「で、源ちゃん。悪いんだけれど、水力式紡績機と織機の開発をお願いしたい。それを老中首座の松平武元様の館林藩を中心に普及させて欲しい。それと、結奈に聞いて、トウモロコシの適切な栽培方法を書籍にして川越藩に種と一緒に持っていって普及させて。越前松平は絶対に抑えておかないといけない。御三家御三卿に対抗するには親藩、特に越前松平が重要だから。」
「去年の西国周旋の続きをやるんだね?」
「そう。津山はどっちつかずだったらしいし、それならこちら側になびきつつある松江と、確実に引っ張れる川越に影響力を行使させるべきだから。」
そう、越前松平を抑えておかないと政変が起きたときに後ろ盾がないも同然。そうでないと今の田沼派の老中も一緒に失脚することになる。そうなったら巻き返しが出来ない。そもそも、御三家なんて当てにならん。御三卿もロクな動きをしない奴ばかりだし。
「了解。水力式紡績機、織機は簡単に作れないだろうけど、トウモロコシ栽培はなんとかなるだろうから任せてくれ。」
「長崎奉行を通じて、水力紡績機をオランダから手に入る用に手配しておくから、それが届くまでは試行錯誤してもらうけど、頑張って。」
そう、歴史上ではアークライト式水力紡績機がこの年に開発されるはずだ。もっとも、それはイギリスでの話だけども。年内は無理でも、来年にはなんとか実用化出来るだろう。それとも、概念だけ伝えたそれで源ちゃんが作り上げるのか・・・。
やることはたくさんあるのに右腕左腕が居ないのは辛い・・・。




