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明日も葵の風が吹く  作者: 有坂総一郎
幕閣への道

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幕臣、有坂総一郎

明和5年11月1日 江戸 新橋駅


鉄道建設だぜヒャッハー!やってた間に長崎から源ちゃんが帰ってきた。話を聞くと、源ちゃんは源ちゃんでドキドキするでしょ!って楽しんでたらしい。結奈によると「ダメだコイツら、早くなんとかしないと」らしい。失礼な。


源ちゃんに頼んでいたトウモロコシの種はうまいこと調達できた。追加調達分も改めて届くらしい。これで、年明けから順次農業改革に取り掛かれる。


あと、エレキテルを首尾よく手に入れることが出来た。これは概ね史実通りだ。これで、静電気とは言えども、電気の開発と応用研究が出来るというもの。現物があるのとないのとでは大きく違う。源ちゃんみたいなチートな存在が居たから蒸気機関とか上手く造れたけど、今後はそういう訳にはいかない。なにせ、私のチート能力はあくまでも自分の知っていることだけなのだから。知らないことと知っていても原理や理論や理屈がわからないものはどう足掻いたって説明も出来ない。出来ることと言えば、それを用いることで可能なことや出来ることを説明すること。それには前提をこの時代の人間にクリアしてもらうことが必要だ。


出来れば、利根川水系の水車を用いる水力式紡績機&織機と合わせて発電が出来れば、電灯の開発とセットで昼夜操業が可能になる。まんま明治時代の紡績を適用するわけだ。これを関東の譜代大名諸藩に適用できれば小藩と言えども財力に余裕が出るだろう。もっとも、それを輸出して儲けるのは我々だけどな。


とまぁ、こんな真っ黒な企みを抱きながら新橋駅での大江戸鉄道臨港線開業セレモニーに臨んでいる。


「そちが有坂か?」


不意に声をかけられたので振り向くと想定外の人物がそこに居た。葵の紋付き・・・葵?えっ?葵だって?


「有坂、平伏せぬか。上様の御前である。」


「ははっ。」


一体どういうことだ?なんで?こんなとこに上様、徳川家治公が?意味分かんないんだけど。


「面をあげよ。直答を許す。今日、そちは無礼講じゃ。そちのことは主殿より聞いておる。この世にありて無きものだそうじゃな?」


衝撃を受けすぎて思考が停止してしまった。


「旦那様、旦那様。上様の御下問にお応えくださいませ。」


側に控えていた結奈が助け舟を出してくれた。助かった。


「上様には失礼、無礼致しました。お許し下さりますよう。」


「構わぬ。無礼講であると申した。のう?主殿。」


「仰せの通りで。有坂よ、余に話したように上様の問いに答えるが良い。」


意次公、恨むぞ?こんなとこに上様を引っ張り出した挙句、ネタバラシまでしやがって。


「では、なんなりと・・・。私がお答えできますことであるならば・・・。まずは、先の御下問でございますが・・・、今より約250年後の世から参りましてございます。」


「有坂よ、心細くはないか?」


「上様の格別のお言葉、我が身には過分にございます。しかしながら、私にはこちらに控えます妻、結奈、盟友たる田沼主殿様、平賀源内殿など心強き者たちが居ります。斯様な我が身に心細いなど、贅沢と言えましょう。」


ヨイショがあるにしても偽らざる本心だ。それに、元老と言える老中首座の松平武元を用い、田沼意次を自らの代弁者として登用し、その権勢の源泉となった徳川家治はけして無能な将軍などではない。人を見る目がある人物だ。もっとも、徳川吉宗から直に帝王学を叩き込まれた人物が無能なはずがない。嘘偽りなどすぐに分かるだろう。


「左様であるか。主殿、そちは良き友をもったのぅ。」


「過分なお褒めでございます。」


「この鉄道なるもの、そちらの国元で存分に活躍しておると聞くぞ。我が幕府の財政は厳しい故、さしたる援助はできぬが、余の命として配慮するよう老中らには伝えておこう。」


「有り難き仰せ。」


パトロンゲットだぜー。蒸気鉄道が出来たら真っ先に上様に乗っていただこう。うん、そうしよう。きっとお気に召すだろう。


「そうじゃ、主殿。例の話じゃが、良いか?」


「構いませぬ。」


「有坂よ、そちが望むならば、そちを幕臣として取り立てようと思うのだが、どうじゃ?」


ん?何言ってんだ?えっ?幕臣?ちょっと待って!


「う、上様、有り難き仰せでございますが、どこの馬とも知れぬ私を登用なさるのは、如何なものかと・・・。」


「主殿の父も紀州の足軽に過ぎなかったが、先々代様と共に江戸に参り、旗本となり、子である主殿は余の側用人じゃ。問題あるまい?のう主殿?」


問題オオアリクイだって!いや、バグった。問題大アリだ。その今太閤な出世ぶりが親藩、譜代の機嫌を損ねて失脚する原因になってるんだから。そこに第二の今太閤を作り上げたら反発なんてもんじゃ済まない。


「恐れながら申し上げまする。田沼主殿様は、親藩、譜代よりやっかまれております。そこへ陪臣たる私が幕府直参になどなればどうなることか、火を見るよりも明らかでございましょう。」


「ふむ、左様であるか。老中阿部侍従よりの進言もあったのだがのう。」


あー、あの人、直接の面識ないけど、そんなに恩義を感じてたのかよ。


「有坂よ、そなたを手放すのは惜しいのだが、そなたの才を存分に発揮させるには幕府中枢が適当じゃ。先日申しておった鉄道奉行を新設する故、そなたにその任に着くが良い。」


「上様、田沼主殿様、仰せは誠に有り難きことなれど・・・、江戸城内でのお務めとなれば、今のようにこの身一つで飛び回ることができなくなりまする。それでは、かえってご期待に添えなくなるのではと懸念致しまする。」


そう、幕臣って超カッケーんだけどもね、先日の結奈の指摘に思いっきり引っかかるんだよね・・・。そうじゃなくても、かなりやりすぎてるのに・・・。


「有坂よ、そちの忠義と献身。格別の働きであると余は思う。それに報いてやらねば、余は将軍として恥ずかしく思わねばならぬ。臣の功に報いることのない主などあってはならぬ。」


「上様の仰せを無碍にするでない。老中と協議し、そなたが動きやすいように手配してやる故、安心致せ。」


退路絶たれてる・・・。これ以上ゴネたら、無礼なだけだ。落とし所だな・・・。


「上様の仰せのままに。この有坂総一郎、身命を賭し、幕府にお仕え致しまする。」


「左様か。余は良い臣を持つことが出来、嬉しく思うぞ。励めよ。官位はそうじゃのう、主殿どうじゃ?」


「左様でございますなぁ、鉄道、街道、海路を掌握する職掌から民部省、従五位下民部少輔が適当かと存じまする。」


なんか、官位までくれるとか言い出したんだが、どうするよ、なぁ、結奈?ぅおい、知らん顔してやがるんだが・・・。


「ふむ、では、有坂総一郎よ、今後は有坂民部と名乗るが良い。追って老中もしくは主殿から沙汰を伝える故、暫し、主殿の屋敷で過ごすが良い。そちの屋敷も手配してやろう。」


「有り難き幸せ。」


「主殿、帰るぞ。」


「ははっ。」


なんか、思いもよらぬとんでもないことになってきた・・・。どうするよ・・・。

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