ブレーキだと思っていたらアクセル全開
明和5年9月20日 江戸 新橋
意次公から幕府の許可を貰ったのが8月20日、建設準備をして当面必要な資材を相良から海路輸送させて、準備が出来たのが28日、人夫確保出来たのが30日、鉄道建設を開始したのが9月1日。
相良からベテランの作業員を連れてきて、それに江戸で調達した新人作業員を2:1の3人で組ませて、先行区間である新橋~浜松町の建設を担当させた。
本当はバラスト道床を作りたかったが、蒸気鉄道規格ではなく、簡易馬車鉄道規格で建設するので、道床の造成は盛り土で済ませることが出来る。これで工期の短縮を図ることとした。結果、10月中には新橋~品川間の完工が見込めるようだ。
現代世界で用いられていた角型、剣先型、両方のシャベルを大量配備して昼夜兼行の突貫作業をさせたのだが、当時の江戸って人夫がいくらでも補充できるから段々と効率が良くなってきてる。
ある日のことなんだが、鉄道唱歌の替え歌の自連替えって非公式な歌があるんだが、アレの替え歌を歌いながら作業員に混じってシャベルで土を掘り返してたら、作業員たちが真似をして歌い始めた。んなことしてたら、また効率が上がったらしい。音楽で集団行動って効果があるんだね、やっぱり。
想定よりも早く新橋~品川間が結ばれそうだから、品川からの資材輸送に大きく貢献しそうだ。
「ご機嫌だね、旦那様?」
「結奈か。付いて来ても面白くないだろう?」
「そうでもないよ。オタクがイキイキとしているの見てるのはそれなりに楽しいし。」
「自分の手で鉄道建設指揮したり、路線決定したりするのって浪漫だからね。とても楽しい。しかも、誰も邪魔しない。自分が好きに線路を引っ張れる。ゲームじゃなく現実にだよ?興奮するね。」
「急に暑苦しくなった。これだからオタクは・・・。」
理解ある嫁だと思ってたが、なんか距離感を感じるぞ。
「で、これからどうするの?旦那様、歴史の歯車が急加速してるのなんとかするって言ってたの忘れたの?」
「・・・、あっ・・・。」
「あっ、じゃないわよ。このオタクは、目が爛々で趣味に走った挙句、本来自分がやろうとしていたこと忘れてたわね・・・。」
だって、楽しかったんだもの。仕方ないじゃん。
「どうするの?引き返せないところまで・・・、いえ、相良の明治村状態の時点で引き返せないわね・・・。それに当初は三菱の代わりをするって方針だったじゃない?あれ、どうするのよ。」
「あ・・・うん・・・。そうだ・・・ねぇ・・・。」
「のめり込み過ぎよ。まぁ、私も最近に至るまで貴方との決着をつけることを優先していたから、放置していた責任があるけれど。」
だよね~。
「始めてしまったものは、今更引き返せないから・・・。それに結奈も相良の明治村状態でとても便利さを享受してただろう?知ってしまった便利さを捨てるなんて出来ない・・・だろ?」
「・・・うっ・・・そうね。」
「この件は改めて、田沼邸に帰ってから考えるとしよう。今ココで話して良いことでもないしね。」
「わかったわ。」
やっぱり結奈というストッパーがないと、自由に出来て、しかも、歴史がその効果を保証するだけに歯止めが効かない。改めてそう思った。そうか、これがブレーキだと思って踏み込んだらアクセルだったというアレなんだな・・・。怖いねぇ。




