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明日も葵の風が吹く  作者: 有坂総一郎
世界へと目を向ける幕閣

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新事実発覚

明和9年10月15日 有坂民部邸


 老中連と井伊直幸殿と焼け落ちた三宅坂彦根藩邸の移転先について話し合うため永田町溜池山王にある幕府総合庁舎へ向かおうとしたところで結奈に引き留められた。


 数日前から彼女が何度か何かを私に伝えようとしているのは察していたが、彼女が言い出さないため言い方が悪いけれども放置していたのだ。


「旦那様……」


「どうした?クーデター騒ぎ以来、何か伝えようとしている様だったけれど」


 彼女はかなり悩んだ様子だった。


 あの日、すべてが終わってから帰宅した後、結奈には随分と泣かれた。前線に赴いたなんて誰が知らせたのかわからないが、彼女にはすべて伝わっていたのだ。


 だが、どうもそれの話とは違うようだ。


 前線で指揮を執って、当初作戦が失敗したこと、最終的に殴り込み同然の包囲戦をやらかしたことについての反省と今後はもうしないという約束で彼女を宥めたのだが、それだけで3日もかかった。


 ゆえに、その話で蒸し返すという感じではないことはわかっていた。


「……あのね……なんで、将来の徳川家斉が、今いるの?」


 彼女の言葉の意味がよくわからなかった。


「結奈……豊千代のことを言ってるのか?」


「ええ、そうよ……なんでまだ生まれていないはずの豊千代、家斉がすでに生まれているのよ!おかしいと思わないの?」


 ――思考が停止した。


 豊千代が生まれていないだと……一体どういうことだ?


「結奈、元の世界の歴史では豊千代はまだ生まれていないのか?」


「ええ、そうよ……1841年に享年69で逝去しているの……逆算して1773年生まれなのよ……今年は?」


「1772年……」


 歴史が狂っている……だと……。


「歴史が変わったのは間違いないのよ……でも、概ね、この世界の有名人の生死は元の世界と同じなの……ほら、福山の先代様も高松の先代様も多少の誤差はあってもほぼ同じで亡くなっているじゃない?」


 確かに記憶を辿るとそうである気がする。元々、福山の阿部伊予殿の死期を想定してあれやこれやと画策していたなと思い出す。


「これも誤差の内じゃないか?」


「数日ならば誤差と言えるかもしれないけれど、1年以上ものズレは誤差とは言わないわ……そして豊千代は今5歳……」


 ――改めて歴史が大きく蛇行し始めたことに気付かされた。


「何かおかしいと思っていたのよ……でも、ちゃんと確証がなかったから言い出せなかったのよ」


「……その確証はどうやって……」


 結奈は1冊の書籍を差し出した。フルカラーのムック本だ。『徳川幕府の全記録』だそうだ……よくこんな都合が良いものがここにあったな……。しかも、これ、現代で買った記憶のあるやつだ……。


「……結奈、これ何?」


「結衣の持っていたものを整理していたら出てきたのよ」


「都合よくそんなものを見つけるとか……どんなご都合主義だよ……まぁ、今後の試金石にはなるか……」


 どうやら結衣がこちらに飛ばされた際に持ち込んできたモノであるらしい。身に着けていた衣服以外でも飛ばされてくることもあるんだな……。


「それで……ざぁっと読んでいたらモヤモヤが解決したの……」


「なるほど……わかった……これ、厳重に封印しておいてくれないか。誰かに見つかったら不味いからね」


「そうでしょうね。結衣の私物と一緒に仕舞っておくわ」


「場所だけ覚えておいてほしい。必要になることも出てくるだろうからね」


「ええ……」


 どうやらこの世界を動かす存在はこちらが持ちうる手札だけでなくジョーカーを平気で切ってくるということが分かった。


 大久保忠顕もそうだが、どうもこの世界を好き勝手に動かそうとすればするほどジョーカーの数が増えるらしい。


「結奈……どうも我々は姿なき存在を相手にトランプをしているらしい……しかも相手はこちらの動きに合わせてジョーカーを増やすことも出来るらしい……」


「旦那様……それ、あなたが好き勝手している結果じゃなくて?」


「いや、どうもあのアニメよろしく、我々は盤上の駒であるらしい……さしずめ相手はゲームの神様なんだろうさ」

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