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明日も葵の風が吹く  作者: 有坂総一郎
明和の政変

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江戸政変秋の陣<12> 行きはよいよい……by水戸藩士

明和9年10月5日 半蔵門


「遅い、物見は何をやっておるのだ?」


 水戸徳川家当主にしてこの叛乱の片棒を担ぐ徳川治保は苛ついている。


 彼が放った物見はいくつかあるが尽くが連絡途絶、帰還していない。


「戻ってきたのは、藩邸への退路が確保されているかを探索させた部隊のみでございます……」


「退路は確保されておる……か……井伊の連中か、それとも御庭番の仕業か……いずれにせよ、前進して敵を蹴散らす以外に選択肢はないということだな……」


「現状から申しますと、敵が各方面に物見を放ち、我が物見と交戦していると……つまり、敵の戦力は思っている以上に分散しているということでありましょう……ならば、この隙を突き敵本陣を襲撃すべきでありましょう」


「うむ……退路が確保出来ておるし、最悪、半蔵門に逃げ込めば良いからのぅ……」


「左様でございます、ここで一橋殿に貸しを作っておきますれば、所領の加増もあり得ましょう……昨今の一揆頻発や財政難を打開する糸口になりましょう」


「であるか、よし、そろそろ別働隊も井伊の背後に着いたであろう……頃合いであるな……」


「殿、御下知を!」


「出陣じゃ!」


 彼はいくらかの不安を得られるであろう所領加増や幕政主導などの皮算用で覆い隠した。


 既に賽は投げられている。ここで動かねば、主導権は握れぬ。御三卿といえど所詮は紀州家の傍流に過ぎぬ。家格では水戸の方が上。いつまでもデカい顔をされておるなどやはり癪である。


「鉄砲隊に露払いをさせ、騎馬隊で突撃を敢行せよ、足軽は騎馬隊に続行させよ、坂を下る勢いで敵前面に押し出し、乱戦に持ち込むのだ!」


 内堀沿いは霞が関から三宅坂を経て半蔵門までけっして急とは言えないが長い傾斜地となっている。それだけに、駆け下る軍勢は勢いがつく。その勢いというのは戦場において状況次第では数の上で劣勢であろうと大きく影響する。そして、水戸兵団は数の上で優勢である。


 それだけでなく、乱戦になった後に無傷の別働隊が整然と横槍を入れる。


 少数であっても整然と統率された部隊が乱戦に突入する効果が大きい。特に、敵味方入り混じった戦場を駆け抜け、敵本陣まで一駆け出来たならば、敵は総崩れを起こすこともある。それがほんの100名程度の少数集団であってもだ。


「殿、鉄砲隊の斉射用意出来ました!いつでも撃てます!」


「うむ……では、鉄砲隊を先頭に前進させよ、射程に入り次第斉射、斉射後、騎馬突撃だ!」


「全軍進撃開始!」


 命令は各部隊へと伝わっていく。


 兵の間から喊声が上がる。堀端、堀の中で羽を休めていた鳥たちが一斉に飛び立ち舞い上がった……。


 種子島銃を持ち整然と鉄砲隊が移動を開始した。


 続いて騎馬隊、足軽隊と続く。最初は歩く速度であったが、次第に駆け足に……。


 鉄砲隊が種子島銃の射程に入り停止、射撃の構えに入る……。


「鉄砲隊、構え!撃て!」


 スダダダダーン


 堀端に銃声が響き渡る……。一時的に視界が白煙で霞んだが、その刹那、騎馬隊が躍り出た。


「始まったな……よし、我らも参るぞ!」


 徳川治保も重い腰を上げ、水戸兵団本陣も行動を開始した。



 まだ三宅坂の戦いは始まったばかりだ。

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