江戸政変秋の陣<11> 血の気の多い親戚がめんどくさいby井伊直幸
明和9年10月5日 三宅坂
霞が関に送った使い番が戻ってきた。
少々煽ってやったが、これで民部の策を安心して実施出来る。全ては我が井伊兵団の戦術的後退と時を同じくして進出してくる会津兵団の協同によって前進してきた敵水戸兵団を足止めし、その隙を突き後方より民部率いる小田原兵団が止めを刺すという連携あってこそだ。
無論、会津の援兵なくとも我が井伊兵団が成し遂げて見せる自信はあるが、今は確実に賊を殲滅することが重要である。そのためには例え猟官合戦を繰り広げた相手であろうと力を借りることに屈辱感など微塵もない。
「これで心置きなく戦える。隼町におる越後与板藩兵に伝令、すぐに撤退し、本隊と合流せよ」
横撃伏撃を掛ける必要は既にない。彼らの横撃伏撃は小田原兵団の着陣なくば効果的であっただろうが、今は当初方針の江戸城へ追い込む作戦ではなく、引っ張り出して各個撃破する作戦に変わっている。もし、このまま放置すれば釣り野伏が破綻するだろう。
ほどなく越後与板藩兵が撤退してきた。
彼らを指揮する同族の井伊尚朗は憤慨していた。
「直幸殿、話が違うではないか、好機を狙い布陣しておったというにどういうことか!」
「尚朗殿、卿の言うことはよくわかる。だが、状況が変わったのだ。現在、半蔵門方面と赤坂方面から小田原兵団が伏兵として進出してきておる。ゆえに卿の部隊が伏兵である意味がなくなったのだ」
「それではすでに敵は袋のネズミではないか?」
「左様、あとは我ら井伊兵団がエサとなり、おびき寄せ、頃合いを見て敗走と見せ掛け後退、同時に進出してきた会津兵団と協同し足止めする……あとはわかるな?」
「……なるほど、釣り野伏か……そういうことであるならば仕方あるまい……」
血気に逸っている彼を宥め、同時に作戦の意図を理解させ、闘志を正しい方向へ誘導する……。
「尚朗殿、卿の部隊は先に後方へ移動し、再編されよ。あとは頃合いを見て我らが後退してきたときに足止めするのだ」
「相分かった。任されよ」
これでこちらの準備は出来た……あとは水戸兵団が動く時を待つだけ……。




