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明日も葵の風が吹く  作者: 有坂総一郎
明和の政変

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江戸政変秋の陣<9> 戦場観光客がなんか言ってきたんだけど……by井伊直幸

明和9年10月5日 三宅坂 井伊兵団本陣


「江戸警視庁から伝令!」


「なんと言って来た!」


「敵、水戸兵団の別働隊とみられる部隊の移動を確認。挟撃に注意されたし!」


 御庭番が赤坂駅の小田原兵団本陣に到着して暫くのことである。


 江戸警視庁に陣取る平蔵親父こと長谷川平蔵宣雄が派遣した御庭番はいくつかの小部隊に別れ、敵の物見が行動しているであろう地区を探索、同時に相互連絡を密にし、敵の物見を待ち伏せたり、包囲殲滅していたのである。


 結果、叛乱軍水戸兵団は情報を得ることが出来ないのであるが、彼らはまさか御庭番衆に駆除されているとは思いもしていなかったのである。


 井伊兵団本陣にはひっきりなしに物見からの報告や霞が関との伝令などが入ってくる。


 そんな中、鉄道会社の職員が自転車で乗り付けてきた。自転車の開発については改めて別の機会に語ることもあろう……。


「鉄道会社の駅員が殿に面会を望んでおります……用向きは殿に直接伝えると申しておりますが、如何致しましょう?」


「鉄道会社の職員だと……いつ戦端が切られても不思議でないところに何だというのか……よい、通せ」


 彦根藩士は鉄道職員を呼ぶため折り返していった。


 彼は暫く後に鉄道職員を連れ立って戻ってきた。

 

「井伊様に申し上げます……幕府軍小田原兵団指揮官有坂民部より伝言をお持ちしました」


「なんだと!?民部が兵を率いておると申すのか?」


「左様でございます。」


「して、なんと申しておる?」


「水戸の賊を一網打尽する故、井伊兵団には釣り野伏にて徐々に霞が関へ敵を誘い込め……後方より友は来たる!で、あります」


「……」


 釣り野伏とは戦国時代、薩摩島津家が考案実践したと言われる戦術である。敵正面に存在する部隊が戦端を切り、徐々に敗走しているかのように偽装しつつ、敵を引き込み、別働隊が後方、横から敵を囲み、包囲殲滅するという作戦である。


 今回の場合、敵正面に位置する三宅坂の井伊兵団が、半蔵門から進出してくる賊軍水戸兵団本隊を迎撃し、その後、徐々に後退し霞が関の幕府軍本隊と合流する。同時に小田原兵団本隊が賊軍水戸兵団別働隊を後方から奇襲攻撃で殲滅し、そのまま三宅坂方面へ進出。もし、殲滅出来ずとも敗走させ、水戸兵団本隊と合流させる。また、市ヶ谷方面に進出した小田原兵団別働隊は水戸藩邸と水戸兵団の連絡を遮断しつつ半蔵門方面へ進出、三宅坂付近まで水戸兵団を追い込む。そして、水戸兵団を袋のネズミにするというものである。


挿絵(By みてみん)


 この作戦は井伊兵団への伝達とともに幕府軍本隊にも伝達され、日比谷練兵場に陣取る川越兵団を虎ノ門と三宅坂をつなぐ道に再配置を行うようにと進言してある。


「相分かった。余からも会津公にこの作戦を実施するように伝達しよう。会津の同意なくとも、民部の策で事を進めると民部には伝えよ」


「ははっ、お伝えいたしまする」


 彼、井伊直幸は腹の底で笑っていた。


 まさか、自分たち幕府軍が、親藩譜代が、外様の、現状は比較的友好的と言えるが、しかし宿敵とも言える島津家の得意とした戦術で御三家の末席を陥れるとは……そう考えると笑えてくるのであった。


「面白い、面白いぞ、民部!そちの謀に乗ってやろうではないか!」

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