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明日も葵の風が吹く  作者: 有坂総一郎
明和の政変

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江戸政変秋の陣<6> 私は戦場観光客じゃない!by有坂民部

明和9年10月5日 江戸 品川


 安全な海上において指揮を執るつもりだったのだが……。


「田沼公、これから前線に赴きます」


「民部よ、何を言い出すのだ。武士でもないそちに何が出来るというのか?それに今そちを失うわけにはならんのだぞ!」


 突然のことに田沼公は狼狽しているようだ。彼の狼狽は当然のことであるともいえる。


 元々、この時代に来てから武芸に励んだこともない人間に戦場で何が出来るといわれたら、さもありなん。だが、秘策はある。


「田沼公、先程、賊軍の別働隊が市ヶ谷から赤坂へと出陣した報告が参りました。これは憂慮すべき事態です。いくら精鋭の井伊家と言えど、3倍以上の敵に挟撃されては敗北の可能性があります……まして、この情報は恐らく幕府軍には届いていないでしょう……」


「だからと言って、そちが出る幕でもないであろう?」


「しかし、我らは鉄道により大量輸送が可能です。それも、小田原藩の兵がここ品川で再編成中。ならば、これをもって敵の別働隊へ差し向けるべきかと……」


「それは道理であるが……」


 彼もまた幕府軍の危機へ対応を迫られている身でもある。だが、彼は政権中枢であり、将軍家治公を奉じている現在では現場に出向くことは出来ない。


「周防殿も事後の掌握、後詰への指揮とやるべきことは多い。であるならば、動けるのは比較的自由の身であるこの有坂民部において他ありませぬ」


「だが……」


「この機を逃しては幕府軍として我らに与する会津、彦根をはじめとする諸藩に示しがつきませぬ。幕府が、幕閣が、親藩譜代を見捨てるなどあってはならぬのです……そして、幕府軍の指揮を統括して運用するのはやはり幕府中枢でなければなりませぬ……ご決断を!」


 周防殿に目をやると彼は頷いた。


「主殿殿、民部の好きにやらせてやろうではないか……この戦、我らの戦である以上、民部にも役割を演じさせねばなるまい……民部も幕臣ぞ……ならば、指揮を執るに不足はない」


「周防様、かたじけのうございます……」


 二人で決断を促す……。


「そなたら二人に促されては……致し方あるまい。大久保忠顕殿はまだ幼少にして指揮を執るには不足……小田原藩兵の指揮を肩代わりし、幕府軍本隊救援の指揮をせよ」


「はっ、必ずや賊徒に鉄槌を下しまする」


 私はそう言うと足早に下船、品川操車場にて再編成中の小田原藩兵を掌握せんと意気揚々と向かった。


「周防殿……本当に良かったのだろうか……今や民部こそが我らの盟主ぞ?幕府だけではなく、日ノ本そのものが民部によって新しき世に目覚めようとしている……それを戦場へ赴かせるなど……」


「だが……あの者以上に我らの新兵器をもっとも適切に活用できるものはおるまい……無事に帰ってくることを祈るしかなかろう……そして、館林、高崎などの諸藩の兵を迅速に増援として送り届ける……我らの仕事はあまりに多い……なにせ民部が請け負っていたことを我らがせねばならぬのだからな」


「まったく、あやつの思いもよらぬ行動に振り回されることにも慣れてしまったのぅ……では、奴が生きて帰ってくるように段取りをしてやろうではないか……」



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