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明日も葵の風が吹く  作者: 有坂総一郎
明和の政変

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江戸政変秋の陣<2> オペレーション・長篠

明和9年10月5日 江戸 三宅坂


 徳川家譜代筆頭を自他とも認める彦根藩井伊家、その当主井伊直幸は藩祖伝来の赤備えの軍装で陣頭指揮をしている。


 彼は事実上のライバルである会津藩主松平容頌に幕府軍総大将の地位を持っていかれたことにより、過去の官位昇進競争における屈辱を思い出し、敵愾心を剥き出しにして配下の兵へ檄を飛ばしていた。


 彼の配下たる彦根藩兵も主君の無念を共有し、会津藩に手柄を立てさせまいとし、士気は否が応でも高めずにはいられなかった。


 まさに赤鬼の集団といった様相を呈している永田町彦根藩邸である。


「会津のあやつに敵情報告をせよ、なに、この赤備えを突破出来る敵などおらぬ……とな!」


 彼は心の底からそう思っていた。


 実際、彦根藩兵の士気の高さ、幕府軍を構成する四藩への最新兵器の配備、市街地戦を想定した永田町、霞が関の官庁街という名の要塞……これらを考えれば負ける気がしないのは当然だ。


 そして、反攻体制が整った段階で投入される江戸城突入用の秘密兵器……天下の名城と言えど技術の進歩は確実にその弱点を作り出していく……。


「田沼殿と有坂民部は……この永田町から一歩も出ずとも勝てる。敵が動けばその時点で敵の負けだ……と申したが積極的に攻勢に出たいところだな……」


「直幸殿、お気持ちはようわかりまするが……我らは精鋭と言えど合わせて1500……高崎、舘林、小田原の兵が江戸に達するまではどうかご自重くだされ……」


 同族の越後与板藩主井伊直朗が積極攻勢を諫める。彼の数代前に無城大名に降格されているため、ここで手柄を立てて城主格、城主大名に帰り咲きたいと考えている。


「直朗殿、そうは言うが、卿は此度の戦で手柄を立てようと考えておるのだろう?ならば、打って出て敵を叩くと主張されるべきではないか?」


「左様であるが……とは言えど、こちらの手の内を外様に見せてしまうのも惜しいとは思わぬか?かつて種子島に南蛮人が漂着して鉄砲が伝来したが……その後どうなった?あっという間に日ノ本六六州すべてに鉄砲は広く伝わった……それを考えるとな……」


「確かに……戦国の世で鉄砲が用いられた如く、新型銃の威力とその効果が広く伝わるのは外様雄藩に力を与えるようなもの……そう考えると……この戦……難しいのぅ……」


 彼らの危惧は正しい。道具は便利であればあるほど世に伝わっていく。そして、より強力な兵器は、より力を欲する勢力に伝わり、それを量産し、やがて軍拡競争につながる……果てには相互不信の末の予防戦争だ。


 まして、幕府軍に装備されている新型銃は二次大戦水準の小銃である。また、拠点防衛用の設置式半自動小銃、それを発展させた試作型機関銃も少数であるが配備されている。


 これらを派手に使ったりしたらそれこそ目が当てられない。


 最も危険視されている長州藩がこれに目を付け、ボトルアクションライフルの開発が出来なくても、幕末期の前装式小銃……ミニエー銃とか……を作り出したりしたら、それこそ幕府に与する諸藩が圧倒的敗北を喫しかねない。それは幕府本体がどれだけ新型小銃を用意しようと、時流の変化で史実の幕末のようになりかねない……。そう、圧倒的優位で臨んだはずの鳥羽伏見の戦いの様に……。


 それだけの威力を有する新兵器は使いどころが難しい……。彼らは徳川四天王の末裔だけあって、それを感じ取っていた。


「直幸殿、敵に威力を知られるにしても、射程などの詳細な情報を与えぬような戦い方を考えねばならん……」


「どうするというのだ?」


「簡単なこと、後装式の特性を敢えて捨てるのだよ……そして長篠の戦の様に三段構えの陣にして誤魔化すのだ……だが、それでも、偽装するだけで連続して立ち代わり入れ替わり射撃を敢行する……」


「簡単ではあるが……果たして逆賊や外様の間者を謀れるか?」


「既存の戦と同じであれば正しい報告であろうと見間違いだと上層部は判断するであろうよ」


「直朗殿がそう申すのであれば、長篠の戦を真似するとしようか……」


 彦根藩とその支藩である越後与板藩の方針は決まった。

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