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明日も葵の風が吹く  作者: 有坂総一郎
幕政改革と江戸の再開発

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結衣が結奈である最後の日?

明和9年7月20日 江戸 新橋 有坂民部邸


 時は少々遡る。


「総一郎、私、ここから出て一人で暮らすわ」


 突然、結衣がそんなことを言い出した。


 正直、何を言っているのか理解出来なかったし、今も頭の中は混乱している。


「一人で暮らすったって……なんでまた?結奈と衝突するからか?元々同一人物なのだからいい加減折り合いつけたらどうなんだ?」


 最初、私は「またいつもの喧嘩か、いい加減にしろ」という感じで言ったのだが……それがいけなかったのかもしれない。


「そうね、それもあるわ。ええ、あのムカつくマウンティング女と一緒に居たくないというのもあるけれど……私、貴方と一緒に居る理由がないことに気付いたのよ」


「???」


「わからない?そう……まぁ、いいわ……。簡単に言うと、私、貴方への感情がわからなくなったのよ……だから、離れてみようと思うの。近くにいるからわからないのだから、離れてみればわかるのではないかと考えたのよ……」


 結衣……結奈本体……の私への感情がわからない?どういうことであろうか?


 彼女は元々私へ好意を抱いていたはずだ。だからこそ、結奈……結奈意識体……があれほどあからさまな好意を示して、根負けして……いや、勿論、私も彼女に好意を抱いてはいたが……結婚に至ったのだが……。


 彼女の今の言葉では、平たく言えば彼女の中に私への好意が消え失せたということを意味している。


「一つ聞くのだが……元々、結奈は私に好意を抱いていた……と思う……そのはずだが……結衣はその記憶はあるのか?」


「……そうね……あの日までは貴方への好意があったのは確かよ……でも、あの日から今日まで間、貴方への好意が以前よりも希薄になっているわ……勿論、それは結奈と貴方が結ばれているからという理由もあるでしょうけれど……」


 これは可愛さ余って憎さ100倍というアレみたいなものだろうか?


「嫉妬とかじゃないのか?」


「違うわね……最初は確かに嫉妬したけれど、それに違和感を感じたのよ……その違和感が日増しに強くなっていくの……だから、素直に言えば貴方のことを好きかと聞かれたら好きではないと答える方が違和感なくスッキリするの」


 これはどういうことなんだろうか?


 現代に居た頃に見たとあるアニメで神様が女の子に神力を与えた結果、次第に神力を失い衰弱して神様の存在が消えそうになる……逆に女の子が神様に近づいていくという話があったがそんな感じだろうか?


 その理屈で言えば、結奈と結衣の中でそういうオカルト的な反応が起きて、結奈の本体である結衣が結奈という存在ではなくなっているということになる。当然、そうなると意識が憑依している結奈が次第に結奈の本体となっていくということになるわけだ……。


 そう考えるとなんとなく納得がいった……。ホントかどうかはわからんが……。


「なぁ、結衣……君は、結奈ではなくなったのか?」


「……そうね、結奈本体であるはずだけれど、結奈の記憶がある別の存在……そんな感じがするわね……」


 これは本格的にヤバいんじゃなかろうか……。


「……結奈を呼んでくるか?さすがに結奈抜きでする話じゃないだろう?」


「……たぶん……意味がないと思うわ……恐らく……彼女は日々結奈化が進んでいる……だから、正真正銘ホンモノの結奈に近づいていることに喜ぶだけよ……そう、彼女……本当の結奈が望んだ未来を彼女は手に入れる日がすぐそこに見えていると自覚したらそれこそ……私……例え結衣と名乗っていても結奈である私の最後の日だわ……」


 なるほど……と思ったが……さて、これはどうしたものか……。


 その時、襖が勢いよく開き結奈が部屋に入ってきた。


「結衣!貴女、私であることをやめるつもりなのかしら?それでも、私であるつもりかしら!」


 丁度良いというか、面倒な時にというべきか……。


「貴女は結奈であることをやめるつもり?であるなら、今すぐに答えを出しなさい!」


「結奈、貴女には私の葛藤が理解出来ないわ。出来るはずがない」


「そう……ええ、わからないわ。わかるつもりもない。元は同じ結奈であったのに、貴女は結奈であることをやめ、今、私からも旦那様からも逃げるのだから……最早結奈ではない完全な結衣になってしまった貴女を理解することなど無理ね……私は貴女が結奈であり続けることを望んでいたのに……それも叶わないなら止めるつもりはないわ……」


 言うだけ言った結奈は結衣と私を放置して部屋を出て行ってしまった……。どうするよ……コレ……。


「……結衣、君が結奈であることをやめるなら、止めようがない。止めたところで、私や結奈との距離は開くばかりだろう……私を好きになれとは言わないが、自身の分身である結奈と歩み寄れないか?」


「…………今の彼女では無理ね…………」


「わかった……だが、いつでも私は結衣のことを気に掛けているから、会いに来いとは言わないが、手紙くらい出せよ?」


「……ええ、気が向いたらね……」


「……やはり心配だ……幸太郎を訪ねるといい……あれなら世話をしてくれるだろう……」


「わかったわ……暫くは彼のもとに身を寄せるわ……」

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