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明日も葵の風が吹く  作者: 有坂総一郎
幕政改革と江戸の再開発

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現場の暴走<2>

明和9年7月7日 大江戸鉄道本社


 昨日の大井工場での一件で高崎一派を本社へ呼び出し、説教を小一時間やった。だが、連中は全く懲りていないことがよくわかった。そう、連中は大井工場での電気機関車の開発実験だけでなく、他にもやらかしていた。その上で小海一派のやらかしていたことを密告しやがった……。


 連中の言い分を聞くに、「ホント、コイツらは!」と叫びたくなった。


 ことの発端は山手線建設だった。


 小海一派が赤羽~池袋に資材輸送用路線を建設した際にレール輸送列車……所謂ロンチキとか……を仕立てて輸送するのが馬鹿らしくなったらしい。


「別に高速で運転する必要もないのに幹線用機関車を使うとか勿体無い。それもレール運ぶだけなんだから小出力の小型ボイラー積んだ機関車と荷台をくっつけた奴を作れば良いんじゃね?」


 とか、言い出して、現代で言うところのキヤ97系気動車に似たモノを作り出した。しかも、構内入れ替え用のスイッチャーに無理やり荷台を繋げ、ボギー台車を履かせた様な先頭車を作り、中間車は現行のレール輸送貨車を繋いで最後尾にも先頭車を同じものを繋げるという方向転換の必要がない様にするという念の入れようだった。


 しかも、本社にバレないように名義を幕府直営鉄道にして、製造も大宮工場でやるという徹底した裏工作までやっていたそうだ。


 そして、小海一派のそれに触発された高崎一派は「連中に負けていられない、うちもやるぞ!」とばかりに新発明の電気を動力に活かそうと大江戸電燈と結託して大出力ボイラーの製造と設置を行ったそうだ。そして、私にバレるまでの間、毎日電動機……モーター……の実験を繰り返していた。しかも、実験がうまくいくかどうか別にして車体まで製造してくれていた……。


 だが、それだけでなく、地方線区用に小海一派のキヤ97モドキを参考にして荷台ではなく客室を設置した蒸気動車を作り出し、これを量産し始めていた。これまた史実のキハ6401……名古屋のリニア・鉄道館に居るアレ……とそっくりのモノを作っていたのだから驚くどころか呆れた。


 彼らの自供と密告によってここ最近のおかしな予算申請や経費の使途が判明したのである……。


 結局、高崎一派だけでなく、小海一派も本社に呼び出して厳重注意をした。


 小海一派の自供で明らかになったこともあった。


 彼らはキヤ97モドキが思ったよりも出来が良かったことに気を良くして、砂利輸送用のホッパー車仕様、無蓋車仕様、有蓋車仕様まで作り出していたらしい……。しかも、既にその全てが運用開始されている上に目下量産進行中だという……。また、出力強化した仕様まで設計中と言うではないか……。その上、これを地方線区の貨物列車に用いようとか周辺諸藩を巻き込んでいたという。


 派閥の領袖たる二名には10日間の謹慎を命じた。そして、電気動力車の開発は仕方なく承認し、実験の継続と安全策を講じるように手配した。そうじゃないとあの連中、死人が出ても自分たちの野望を達成するまで暴走し続けかねない……。


 大江戸鉄道内の派閥争いの産物で生まれたキヤ97モドキとキハ6401モドキが上層部の承認なしに大量生産され、配備間近という状況が発生していたのである。だが、この状況は懸案であった江戸外環鉄道の輸送力強化に貢献する結果となったのは勿怪の幸いと言うべきだろうか……。


「総裁、私の先見の明が故に江戸外環鉄道に走らせる最適な車両が揃ったのですから相殺してくれませんか?これで事業化を早めることが出来るのですから!」


 などと戯けたことを抜かす高崎君には暫くお休みを取ってもらうことにした。そう、暫く頭を冷やせと小倉行きを命じた。


「そんなに線路作りたい、車両を作りたいなら筑豊炭田開発のための炭鉱鉄道の延伸と輸送力強化という仕事を与えてやる!ついでに小海君、君もだ!松江に行って幸太郎の手伝いをして来い!」


 諸悪の根源とも言える小海君も同様に松江送りにしてやった。


「二人の居ない間、君ら幹部が後始末をしてくれよ……新発想や提案は、ちゃんと書類で申請してくれたら必ず検討するから……頼むよ……はい、解散解散」


 目下の懸案、江戸外環鉄道の輸送力強化に必要な車両の手配をするため、蒸気動車の量産を承認し、大井工場や各機関区の製造部門には現行の長距離列車用客車の製造を中断し、キハ6401モドキへ製造ラインを変更、資材、機材の手配などをすることを容疑者どもに命じ、そのための資材、部材輸送にはキヤ97モドキを充てることも合わせて命じた。


 なんだか、この騒動の容疑者どもの思い通りになっているのが癪だが、彼らの暴走による想定外の恩恵を活用しない手はない。


 電車そのものが製造出来るようになるまでは暫く時間がかかるだろうが、技術そのものは原始的であり成熟している蒸気機関を用いるこれらであれば数を揃えるのも容易であるし、需要に合わせた運用が可能だ。


 これらで時間稼ぎをしつつ、電気技術の成熟とあわよくば内燃機関の発明の進展を図ろうと思う。いや、そういうお膳立てがいつの間にか出来上がってしまった。鉄オタ、なんて恐ろしい子……。

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