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明日も葵の風が吹く  作者: 有坂総一郎
大江戸鉄道での日々

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ダイヤ改正とその準備

明和8年11月3日 大江戸鉄道本社


 謹慎になってから半月。


 幕政から手を引いたこともあって鉄道経営に本腰を入れる事が出来て万々歳。趣味に走ってあれやこれや、実益のためにあれやこれや……そんな日々。


 発光信号による通信速度の向上については一旦棚上げ、夜間ならば兎も角、どうしても昼間はうまくいかないので無線通信を本命とする方向で進めるべきかと技術部とは話し合っているところである。


 具体的な進歩がない状況ならば、別のことを進めるべきだと思う。


 現在の鉄道経営はダイヤグラム設定もかなり余裕がある状態にしてある。その理由が情けないものであるが、時計の普及という現実的問題によるものだ。


 上野~新橋~品川は当初から複線化がされており、将来的な複々線化(急行線と緩行線の分離)予定地も確保されていていつでもレールを敷ける状態になっている。


 だが、運転手と車掌に配分される懐中時計が不足している為、ダイヤに余裕を作らざるをえない状態だった。


 しかし、江戸中の絡繰師を動員して置き時計の量産を行ったことで12月中には現在保有する機関車と車掌車の分の置き時計が用意出来る見込みとなった。これにより、列車の増発と高密度運転が可能となったのである。


 そして今日はそのダイヤ改正に関しての会議を行っているところである。


「優先すべきは上野~品川の高頻度運転であり、品川以西は現状と変わらない頻度で良いと思う」


「いや、機関車付け替えの手間を考えれば上野~小田原の通し運転で普通列車毎時4本を維持し、それとは別に急行列車を毎時3本運転するべき」


「東海道本線は兎も角、横須賀線の運用はどうするのだ?品川~横須賀は貨物列車も相応に走らせないと困るのだぞ?」


 それぞれの立場から色々な意見が飛び出る。なにせ、今よりも遥かに多い列車を運転出来るわけで、それによる未知との遭遇もある。


 私も現代のダイヤは理解出来ているし、線路容量、閉塞区間など色々なことを考える必要が有ることを知っている。だが、全部を全部ここで言ってしまったら彼らのためにならない。


「諸君、議論は大いに結構。それぞれの立場や考えが出て来て嬉しく思う。だが、列車の取扱量が増えたらその分だけ事故が起きる可能性が増える。それも留意してもらいたい」


 熱く議論していた連中が揃ってヤバッという表情になった。あぁ、こいつら列車運行本数が増えるところにだけ目がいっていたな。


「こうしてみたらどうだろうか、図上演習だ。精密路線図を持ってきて上野~小田原、横須賀までつなげて、列車の動きを視覚的に把握してみたらどうだ?列車は将棋の駒でも使って仮のダイヤに沿って運転してみては?」


 ……やってしまった……CTCの概念を放り込んでしまった……。


 鉄道脳がオーパーツを持ち込んでしまったよ、どうするよ……。


「総裁、それは良い考えです。実際に動きが把握できれば問題点が見えてくるはず……やりましょう!」


「測量課から地図を持って来い!」


 会議室の机を全部撤去して畳の上に地図をつなげた。


「図上演習開始、各員、始発列車の車両基地からの発車!」


「始発列車、各駅に到着。発車待ち」


「0600、各列車発車!」


「続いて続行列車の出庫並びに定刻発車を順次行うように」


 一日の列車運行のシミュレーションが始まった。


 ……結論を言うと散々な結果だった。


 列車の増発により各駅間は大混乱。渋滞した挙句、追突事故などが発生。


「諸君、今までと同じような列車運行ではおそらくこの図上演習と同じような結果になるだろう。そのために信号の設置と閉塞区間の設置が必須だろう……例えば、品川~新橋間を例に取ってみようか……品川、閉塞区間、田町、閉塞区間、浜松町、閉塞区間、新橋と分けるとする。駅は上下2本と計算する……そうすると、上り線、下り線とも11本ずつ、合計22本の列車が最大許容量ということになる。もっとも、実際には品川~田町間には品川客車区、新橋には貨物駅があり、何らかの事態に際してはいくらか逃がすことが出来る……」


 と講釈を垂れてみると皆揃ってキラキラとした目で見てくる……いい年した野郎にそんな目で見られても鬱陶しだけだ……。


「このように運行本数と線路許容量を考えないと過剰に運行して先程のような事故になるし、仮に線路許容量に余裕があっても信号の切り替えや分岐の切り替えを間違えれば……わかるね?」


「では、各部署とも改めて図上演習と閉塞区間、線路許容量などを勘案して再度ダイヤを組み直して図上演習を行いたいと思います……」


「うん、任せた。ダイヤ改正の目処は12月だが、最悪3月くらいまで延ばしても良い。事故が起きないように入念にやってくれ」


 そう言って会議室を後にした。


 これで、大江戸鉄道の高効率運転が実現出来そうだ。また一歩現代の鉄道に近づけた。

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