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明日も葵の風が吹く  作者: 有坂総一郎
国有鉄道への道

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結奈の抵抗

明和8年10月18日 江戸 新橋 有坂民部邸


 有坂民部邸に木霊する結奈の声にびっくりした。


 義弟幸太郎も何事かと顔を出してきた。普段、彼の姉がこんな大声を出すことなどないだけに彼自身も相当に驚いていたようだ。同時にまた義兄が何かやらかした……やらかそうとしている……と確信した表情でこちらをうかがっている……。


「義兄上、今度は何を企んでおいでですか?姉上が絶叫するなど尋常ではないと察しますが……」


「お前ら姉弟はこの私にどんな感情を抱いているんだ?」


「ロクデナシ」


「迷惑な人」


 そう言うと思ったよ、畜生め。


「まぁ、いい……。幸太郎、本社に行くから建築本部の幹部と技師を招集してくれ」


「今度は一体何を……まぁ、今聞くだけ無駄ですね、この人はやると決めたら梃子でも動かないから……ホント迷惑な御方だ……先に行ってます」


 なんてオレは不幸なんだ……という哀愁漂う背を見せながら幸太郎は執務室を出ていった。


 そして結奈を見ると……。


「本気なの?なんでそんな無意味なものを今更?観光スポットになんて出来ないのよ?」


 元の世界だと盛んに復元運動が行われているらしいがその努力は報われていないし、恐らくこの先も無理だろう。そして、今の世界でも観光スポットになんてならない。結奈が言うことは正しい。だが……。


「観光スポットなんかに使うわけじゃない。ただ、別の目的に必要なだけなんだよ。ついでに江戸のシンボルタワーに出来るだろ?」


 この駄目人間は何を戯けたことを言ってるんだ?という表情の結奈は、無言でその先を続けろと促していた。


「昨日、源ちゃんが来ただろ?その時に電気技術の開発を依頼したんだよ。でも、気付いてしまったんだ。電気技術が将来的には必要だってのは間違いないけれど、現段階でもやろうとしていることが可能なんだって……」


「……何をしようってのよ?電気と天守閣じゃ全然関係ないじゃない?」


「結奈、この世界では電話はないよね?ここ有坂民部邸から江戸城まで結奈が私に用件を伝えようとしたらどうする?どれだけ掛かる?」


 結奈はいきなりの話に戸惑いを見せた。


「……そうね、電話がないから人をやるしか伝言の手段はないし、軽く1時間は掛かるわね……現代人には不便極まりないことだけれど……」


「そうだろう?じゃあ、私がやろうとしていることは何か、わからないか?」


 眉をぴくっと動かしただけの結奈。


「わかりたくないわね……わかってしまったと認めたら貴方の背を推すようなものじゃない!」


「残念ながら結奈の想像の通りだよ。通信の高速化と秘匿性向上だ」


 結奈は苦虫を噛み潰したかの様に顔を歪めた。その目はお前マジでやるのか?と言っている。


「貴方はこの世界を自分のオモチャか何かと思い違いをしているのではなくて?旦那様、貴方は創造主でもなんでもないのよ。いくらなんでもこれ以上はやりすぎよ」


「結奈、確かにこの世界、この時代において明らかなオーパーツを持ち込んでいる。だが、それとて、西洋では発明、実用化されるまで10年、20年、50年程度だ」


「何を言ってるのよ、100年どころか150年先の技術すら持ち込んでるじゃない!」


「それは副産物だよ。意図したものじゃない。結果的にそうなっただけだよ。それに、今回の場合は、野心とか利益とかそういうモノじゃない」


 普段の私なら……そう、長州征伐あたりでとっくに吹っ切れてしまった……躊躇なく未来技術を自己都合や自己利益の為に投入するのだが、今回の場合は違う……。まぁ、自己都合という点では否定しきれないが……。


「じゃあ、何よ?通信の高速化なんて今の時代には緊急の課題でもないじゃない?」


 食い下がる結奈。確かに必要性はあっても、この時代においては喫緊の課題でも重要性の高いものでもない。当然だ。鉄道や蒸気船が出来、時間距離が関東の一部や海上交通路限定であっても圧縮されている時点で十分すぎる。


「それが私と結奈、そして我が家族の安全に関わることだったら?後ろ盾の田沼政権を守るためだったら?それならばどうだい?」


 結奈には悪いが、踏み絵を踏んでもらう。


 結奈の顔が苦悩に満ち、そして憤怒で真っ赤になったが、結局諦め顔になった。結局、踏み絵を踏むことは出来なかったのだ。


「卑怯よ。そんなの」


「だが、必要なことなんだ。その為に急いで実用化させる必要があるんだ。」


「でも、なんで、そんなことを今、急に始めるのよ?何があったの?」


「コレだよ」


 見せるつもりはなかったが、まぁ、黙っていてるのも卑怯だし、踏み絵を踏ませようとした代償だと思い結奈に例の脅迫状を見せた。


「何よコレ……」


「まぁ、脅迫状だね。実際に旗本から難癖や嫌味、嫌がらせはしょっちゅう、茶坊主どもは基本皆敵だし……。そこにコレが来たんだから、手を打たねばならぬ状況になったんだよ」


「……わかったわ……」


「ご理解感謝、では、本社に行ってくる」


「気をつけてね……」

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