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明日も葵の風が吹く  作者: 有坂総一郎
密貿易

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幕府による幕府のための幕府の貿易独占

明和8年9月3日


 あれから3ヶ月に1度のペースで密貿易船団は出航している。東北諸藩はこぞって漆器などの工芸品を量産し幕府へ納入してくれている。その御蔭で幕府の御金蔵はあっという間に300万両近くまで積み上がり上様は「余は先々代様の成し遂げることが出来なかった財政再建を成すことが出来た!」と殊の外ご機嫌である。


 勿論、東北諸藩には相応の対価を支払っているわけだが、面白くないのは西南雄藩である。特に長崎の防衛を任されている佐賀藩は身銭を切っているのに利益が殆どないという面白くない状態に不満を隠さなくなっている。


 幕府もその不満解消を考えてはいるが貿易を解禁すれば幕府の利益は減るの確実で目の届きにくい西南雄藩に力を付けさせるわけにもいかないというジレンマに頭を抱えている。


 そんな中、対朝鮮貿易の窓口である対馬藩が史実通り事実上の財政破綻を幕府に申請した。史実よりも数年早い幕府への給付金申請であった。これは、朝鮮貿易が朝鮮人参や綿の国産化による輸出入の減少により、単年度30万両にもおよび利益を出していた頃と違い、まったく利益が出ない状態になり困窮を極めた結果である。


 その上、朝鮮も対馬藩を経由するよりも浜田藩を経由した密貿易の方が利益を得ることが出来ると知ってしまったことで、ただでさえ少ない取扱量と利益が目に見えて減ったことでバンザイしてしまった。


 ここに田沼公は目をつけ、対馬藩主の宗家を転封し、幕府直轄地とすることで朝鮮貿易の直轄化を提案した。これ他の老中も追随し、結果、宗義暢は河内へ転封が決まった。


 もっとも、朝鮮貿易の直轄化は行ったものの、実質、対馬藩経由だった頃と然程変わらぬ規模での貿易であるため収益は殆ど無い。そもそも、朝鮮は資本の蓄積も産業の育成も出来ていないため商売相手にならないと理解した田沼公は対ロシア貿易の拠点に切り替えようと動き始めているそうだ。


 また、密貿易が開始されてからオランダ東インド会社(VOC)と会談が持たれ、長崎出島での輸出入はこれまで通りとするが、それ以外の貿易についてはアンボイナにて幕府側(=有坂海運)が買い付けて、幕府船団(=有坂海運)が日本本土へ輸送するという取り決めが締結された。世にいう日蘭アンボイナ条約である。


 VOCやオランダ本国からすればこんな面倒なことを……と考えているかもしれないが、彼らにとって利益が生まれるならば許容範囲と受け入れたのだろう。もっとも、提案したのは私だが。


 ついでに言えば、長崎奉行から苦情が来た。要約すれば役得がなくなるから困るというものだった。そんなもの知らん。「お前らの仕事はカネを溜め込むことでも賄賂を受け取ることでもない!」と追い返した。


 こんな形で日本は……幕府は周回遅れの大航海時代になし崩し的に乗り出したのである。

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