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明日も葵の風が吹く  作者: 有坂総一郎
密貿易

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想定外再び……

明和8年3月4日 江戸 新橋 有坂民部邸


 松平右近殿の勧めもあり帰宅途中に日本橋に寄って桜色の友禅に似合いそうな髪飾りを買って帰ろうかと思ったが、よく考えたら、センスが無いことに気付いた。


 さて、どうしようかと思案していたところ義弟神庭幸太郎が日本橋駅の方から走ってきた。


「義兄上、斯様な場所で何をなさっておいでです?」


「何をって、そらぁ買い物をだな……」


「斯様な場所、似合いませんよ」


「わかってらぁ。それを身にしみて感じてたんだよ畜生め」


 女物なんてサッパリわからんのにこんなところでウロウロしていても仕方がない。


「何をお求めで?」


「髪飾りだよ、桜色の友禅の友禅に似合う奴を買おうと思ったんだ」


「何故左様なものを?ますます似合いませんね」


「結奈に渡すんだよ、それで寄ってみたんだがサッパリわからん。故に思案しておったのだ」


「なるほど。ならば、一緒に見て回られたら如何ですか?」


 それしかないわなぁ……。


「そうするとしよう。どうせ、今のままでは埒が明かん」


「では、新橋まで戻りましょう」


 結局、幸太郎に促され帰宅することになった。



「只今戻った。幸太郎も一緒だ」


 憮然とした表情で帰宅を告げる私の横で、幸太郎は何やらニヤニヤしている。不気味なことこの上ない。それになんだか不愉快だ。


「おかえりなさい。幸太郎は久しぶりね」


「姉上もお変わりなく」


「……旦那様は何か不機嫌そうね。何かしら?」


「……なんでもない」


 言い出し難くなったから今は言わないでおこう。


「そうそう、旦那様を追いかけさせて届けた書状は受け取られました?」


「受け取ったけど見てない。右近殿に呼ばれてたからね。これから執務室で見るよ」


「無駄足になったわね……」


「すまない……後でお茶を入れてくれるかい?」


「ええ、わかったわ」


 玄関からそのまま執務室へ向かった。



 執務室に着いて、件の報告書を開封してみたのだが、一言で言えば、失望だった……。


 マレーに行けばゴムが手に入ると思っていたのに、手に入らなかった……。いや、正確には思っていたものと違うものは手に入ったのだが……これじゃ使えない……使えないこともないが……。


 元々、密貿易船団に命じていたゴムの木はパラゴムノキの入手であって、ガタパーチャの入手ではない。


 どちらもゴムの木であるのは間違いないのであるが、所謂天然ゴム、ラテックスを製造するために必要なのはパラゴムノキなのである。ガタパーチャでも作れるのであるが、性質が異なるものが出来てしまうのだ。


 パラゴムノキから採れる天然ゴムは硫黄や炭素を添加することで性質を変え、タイヤやシーリング材などに加工できるが、ガタパーチャは温めると軟化、冷ますと硬化、空気中で放置すると酸化して劣化、水中では変質しないという特殊なものだ。


 そう、相良油田のアレを再びやらかしてしまったのである。手元にあるものは非常に有用であるが、今の時代には全く役に立たないオーパーツなのだ。


 よくある思い込みによる自滅というやつだね。大東亜戦争でゴムを入手するためにマレーを占領したという事実からパラゴムノキ、そのプランテーションがあると思い込んでいた……。いや、1941年当時にはあったんだろうね、両方のプランテーションが……でも、今の時代にはガタパーチャしかマレーにはない……。


 計算外だった……。


 パラゴムノキが入手できないのでは内燃機関どころか、実用的な燃料タンクすら作れない………。


 あぁ、困った……。どうしたものか……。でも、ガタパーチャの特性を活かして海底電線を作ることが出来る……まぁ、流すべき電気なんてまだ存在しないけどね……。

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