法螺吹きと山師の密談
明和4年8月12日 相良陣屋
昨日は考えていると頭が爆発しそうになったから酒を飲んで寝た。不貞腐れて不貞寝したとも言う。部屋に閉じこもって引きニートしている私の元に源ちゃんが様子を見に来たが、酒飲んで不貞寝している私に呆れて出ていった。
明けて今日・・・。
「有坂さん、ちったぁ、まとまったかい?」
「一昨日も言いましたが、蒸気機関の計画は根底から狂ってしまいました。構造が簡単な外燃機関から動力の機械化を狙っていましたが、扱いやすい重油が使えないのでは別方向からのアプローチ・・・いえ、可能性の検討をしないといけません。」
「何がいけねぇんだ?アレは使えないのかい?」
「非常に有用ですよ。ええ、本当ならアレをそのまま使いたいくらいです。でも、今現状では使いたくても使えないんです。使うための技術が確立できていないので・・・。」
「するってぇと、使える技術さえ確立できれば、蒸気機関よりも使い勝手がいいってことかい?」
「ええ、そうですね。蒸気機関・・・外燃機関は総じて無駄が多いのが特徴です。しかし、技術的には比較的難易度が低くて、やろうと思えば、源内さんなら今日中にでも原型試作を作ることも出来るのではないかと思います。それくらい簡単で扱い易いものなんですよ。」
だって、極論言えば、でっかい鉄鍋用意して、そこに水をぶっ込んで、それを加熱沸騰させ、発生した蒸気を管を通してシリンダーなりピストンなり水車なりに伝導させるだけなんだから、知識があれば簡単に作れる。そもそも、この辺りの年代に欧州で実用化されているんだからねぇ。
「ですが、内燃機関は高度な技術が必要です。作るのも扱うのも。いくら源内さんでも今日明日で作り出すことは無理でしょうね。十年単位。少なくとも五年単位の時間がかかると思います。その代わり、外燃機関よりもエネルギー変換効率が高まります。あぁ、燃料を動力にする効率のこと、無駄が少ないってことです。」
「なるほど、それで頭を抱えてたってことかい。」
「そういうことです。蒸気機関にここの原油を使っても構いませんが、一昨日も言いましたが、気化したガソリンは燃えやすいのです。そして、有毒です。そして、あの原油は気化しやすい。つまり、保管が非常に厄介なのです。とてもじゃないですが、今は使いみちがないと言わざるを得ません。」
「どうしたらいいんでぇ?」
「密閉できる箱、タンクを作ることです。内側にサビ防止の鍍金をした鋼板を用いたものですが、これを作ることが出来れば・・・あと、ゴムシーリング・・・箱を蓋すると密閉できる素材ですが、これがあれば・・・。ゴム・・・長崎経由で輸入出来るかなぁ・・・。」
「漆じゃいけねぇのか?」
「漆?あぁ、漆は接着剤に使えるのか・・・。ってことは、ボルトとナットで蓋と箱を固定して、その隙間に漆を充填すれば・・・。これなら、初期的な燃料タンクの代用に使えるかもしれない。」
「有坂さんよ、図面にしてもらえねぇか?鋳物師の出番だろ?俺っちが試作の面倒見るからよ、今の話を図面にして、まとめてくれなよ。そうしたら俺っちも助言できるだろうからさ。」
「源内さん、光明が見えてきましたよ。」




