田沼主従の密談
明和4年8月12日 相良陣屋
法螺吹きと山師が密談している頃、田沼主従もまた密談をしているのであった。
先日、城代家老三好四郎兵衛のみが例の計画を話され、その日陣屋を留守にしていた国家老井上伊織は自ら蔑ろにされたとは思わないが、国元の内政を引き受ける立場としては面白くなかった。
「三好殿、いくら殿と若殿の後ろ盾があるとは言え、山師風情に領内を勝手にされては、国政を預かる拙者としては些か不愉快に思う。殿から委任された内政に何か不満でもあるのか?」
「井上殿、けして其様なことはない。故に具体的に着手するかいないかは返答しておらん。それは若殿もその場におられたゆえご承知のはず。某が認めたのは油田探索のみ。その差配も彼の者らに任せたゆえ、その責は彼らに負ってもらう。」
「両者の言い分はよくわかっておる。父上も余もそなたらを蔑ろにするつもりはない。そして、そなたらの働きに満足しておる。だが、我らには時間がないのだ。」
「時間がない?それは如何なる?」
「父上が側用人に出世したのはその方らも知っておろう?父上はいずれ老中筆頭になる。そして、余も父上が老中である間に若年寄になることだろう。その時までに今以上に地歩を固めねばらなぬ。」
「若殿、何故そのように確信したかのような・・・。」
「みなまで聞くでない。今はまだ話すべきときではない。だが、あ奴らはその言葉通りに相良の地に新たな資源、産業の源を発見したではないか?ならば、彼の者の言葉を信じてやるべきではないか?」
「しかし、若殿、あの者、有坂は何か隠しておりまする。確かに草水、石油と言いましたか?それを見つけたのでしょう。しかし、発見したこと以外にはなんの報告もしておりませぬ。主君たる、殿や若殿を信じることは臣下としては当然でございましょう。されど、彼の者を信じよと言うならば、彼の者は我らに真を示さねばなりませぬ。」
「三好殿の仰る通りですぞ、若殿。我らは信じるに足るモノを手にしておりませぬ。発見の報だけでは、信じるには不足しております。我らも殿より国政を預かる身、主君が道を過てば正すのも臣下の役目でございますれば。」
「そなたらの考え、承った。明日、有坂、平賀を吟味するが良い。各務、そなたは江戸にて父上を交えてあの者たちの話を聞いておるし、三好、井上の両名が未だ知らぬことを知っておるな。故に口を挟まなかったのであろう?」
「左様でございます。ご両名には申し訳なく思うておるが、これも田沼家の御為。今暫くは有坂、平賀の両名の味方をさせて頂く所存。」
「では、散会とする。」




