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エルマーが語る真相

 ひんやりとした空気が三人を包み込む。緊張で張りつめた空気の中で、余裕の態度を見せているのはエルマーだけだ。リリーは驚きのあまり言葉を失い、アランは珍しく焦りを浮かべて前にいる二人を見比べた


「……兄だと?そんな馬鹿な」

「え?どういうことですか?」


 アランの不可解な反応でリリーは意識を現実に戻した

 アランは幽霊に出会ったかのような目でエルマーを見つめている。ここまで動揺しているアランは滅多に見られない


「ターラント氏の長男は七年前に亡くなったはずじゃ」

「お兄様が死んだ!?そんなはずありません!だって私が入隊してからもお兄様とは連絡をとってましたもの!」

「だが、長男のエルマー=ターラントは七年前に死亡届けが出されて戸籍から抜かれている」

「まさか……」


 困惑する二人を眺めてエルマーは一人ほくそ笑んだ


「どういうことだ?」


 アランの睨みつける視線も不適な笑みで受け流し、エルマーは口を開いた


「そのままですよ、アラン隊長。戸籍上は死んでいるが実際は死んでいない」

「何で?どういうことなの?」


 戸惑いの表情を浮かべたリリーが問いかける

 エルマーはリリーに視線を合わせた。哀れみとも恨みともとれる険しい顔と目が合う。それが兄のものとは信じられず、リリーは身をすくませた


「ここまで来たならリリーも真実を知らなくてはならない」

「真実?」

「父さんが宇宙人の研究に熱心だったのは知ってるだろ?」


 リリーは小さく頷いた。父親の部屋に大きな望遠鏡があったのは知っているし、それで夜空を見せてもらったこともある。その際に他の星にも生物がいる、という話を何度も聞かされた


「父さんの研究……何だかんだで、全ての発端はそれだったんだ」


※※※


 リリーたちの父親アイザック=ターラントは、一族の中でも変わり者だった。幼い頃から宇宙に興味を持ち、他の兄弟が玩具やゲームを欲しがる中アイザックだけは望遠鏡や図鑑に喜んだ

 アイザックは次男だったこともあり、家の商売であった不動産業は学ばず大学でも天文学を専攻した。しかし、実際は天文学よりも宇宙人の研究に勤しんでいた。宇宙人の存在は未だに未確認であり、アイザックは宇宙人と会うため交信の方法や生態を探っていた

 大学を出てからもアイザックは一人で研究を続けていた

 そして数十年後。アイザックはストレンジャーと出会う


「家の裏に小さな森があっただろう?父さんはあそこで日夜、宇宙人と交信する実験をしていたんだ。ストレンジャーと出会ったのもそこだった。普通の人だったら逃げ出して警察に通報するところだけど、父さんは違った」


 そのストレンジャーは地球の言葉を話すことができた。ストレンジャーはアレクシと名乗り、自分の星が他の星にのっとられてしまい逃げてきた、どうか助けて欲しい、と頼んできた。宇宙人に会うことを生きがいとしていたアイザックは喜んで手を貸した

 家族には反対されることが目に見えていたので、アイザックは知り合いが経営するソグードを買い取り、そこに地下室を作ってアレクシを住まわせた。それだけでなく、アイザックはこちらでの生活に困らないよう、インターネットなど情報を集める術を与えた。アレクシは驚異的な学習能力でこちらの知識を得て、地球の文化に順応していった


「父さんは子どもみたいに純粋な人だったから、アレクシを人前に出そうという考えは全くなかった。ただ話したり、一緒に暮らしてみたりするだけで満足だったんだ。だからこそ公の場に出そうとはしなかった

 もし父さんがアレクシを世間に公表していたら、もっと違う結果になっていたと思う

 父さんがアレクシを黙認し、情報を与え続けたこと、これが大きな間違いだったんだ」


 地球の知識を身につけていったアレクシは、アイザックの知らない間に仲間を呼んでいた。その仲間がストレンジャーと呼ばれるものの始まりだった。ストレンジャーたちは地球で破壊行為を始めた

 数年後、アイザックはアレクシとストレンジャーの繋がりを知ってしまう。事実を知った以上、援助は続けられない。アイザックはそうきっぱりと言い放ち、政府に報告すると言った

 その数日後、ターラント家は襲撃を受けた。援助を絶てばどうなるか、アレクシによる見せしめだった


「母さんは見せしめのために殺された。支援を続けなければ家族は皆殺し――そう言われて父さんはアレクシを支援するしかなかった

 リリーがSFDに入るのを反対したのも危険だからとかそんな理由じゃない。こちらの秘密がばれるのを恐れたからだ。でも、お前は勝手に家を出て行った。だから俺は代わりにアレクシの元で働くことにしたんだ。もう地上に出ることはないだろうから、戸籍上も死んだことにしてな」


 エルマーによって語られた真実。衝撃的な内容にリリーもアランも言葉を発することができずにいた

 部屋に再び静寂が訪れる。聞こえるのは静かにうなる機械の音だけ


「……つまり、君は人質というわけだ」


 アランの問いにエルマーは静かに首を振った


「厳密に言えば違います。アレクシはそんなもの要求してきませんでした。俺がここに来たのは俺の意思です。アレクシの機嫌をとることで、俺は家族を守ることにしたんです」 


 そして、改めてリリーに向き合う。リリーは目を見開いたまま、口元に手をあてて小刻みに震えている


「父さんもリリーも守るためには、アレクシを守るしかない。それでもアレクシを倒すと言うのなら、たとえリリーでも俺は戦うよ

 これは避けられない戦いなんだ」


 エルマーの瞳にはゆるぎない決意が宿っている。エルマーは赤黒い炎が自分の中で燃え上がるのを感じていた

 一つ屋根の下で楽しく暮らしていた頃のエルマーはどこにもいなかった

ここまで読んで下さりありがとうございました。


次回更新はしばらくお待ち下さい。

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