アレクシとの対面
兄の闘争心を初めて目の当たりにし、リリーは震えを押さえるので精一杯だった。長いこと一緒に生活し、家を出てからも心の拠り所であった兄に殺意を向けられている。その事実が受け止められない
「どうしても戦わなくてはダメなの?今からでも一緒にそのアレクシを捕まえれば……」
震える声でようやく発した提案は即座に却下された
「無駄だね。たとえアレクシを倒したとしても俺と父さんの罪は消えない。社会復帰なんてありえない。父さんを守るためにはアレクシを守るしか方法がないんだ」
「ストレンジャーをこのままにすれば、多くの被害が出るわ。お兄様だって分かってるでしょう?
今からでも遅くない!一緒にアレクシを倒して地球を……」
「無理だ」鋭く冷徹な声がリリーの提案を一刀両断する。「あいつを倒すなんて無理だよ」
「やってみなきゃわからないわ!お兄様!」
「……どちらにしろ、ここを通すわけにはいかない」
リリーの悲痛な叫びも空しく、エルマーは攻撃を仕掛けてきた。エルマーが地面を蹴ると一気にリリーとの距離が縮まる。驚くリリーにエルマーは容赦なくマントの下から剣を振り上げた。剣が下ろされる前に、リリーもその場を離れて再びエルマーと距離をとる。人間の力を超えた身体能力――どうやらエルマーも戦闘スーツのように自分の筋力を強化するものを身に着けているようだ。身内というだけでも戦いにくいのだが、さらに武器を使われているのでどうしても防戦になってしまう
エルマーがリリーから離れたところで今度はアランが攻撃を入れる。
「リリー!ここは俺が引き受ける。君は先に行ってアレクシの居場所を探すんだ」
「えっ!?でも……」
「君がこのままお兄さんと戦ったんじゃ埒が明かない。アレクシのいるところを探しておけ!」
「は、はい!」
リリーは振り切るように駆け出した。アランならエルマーを悪いようにはしない。上手いことかわしてくれるはずだ
部屋を抜けると再び薄暗い通路に行き当たった。リリーは歩をゆるめて慎重に進む。ところどころどこかに通じていると思われる部屋を見つけては中を窺うが、誰にも何者にも出会わなかった
もしかしたらアレクシは別のところに潜伏しているのかもしれない。そう思い始めたところで、明かりのついている部屋を発見した。そっと近づくと中からわずかだが物音もする。中の様子を窺おうとゆっくり顔を近づけたところで突然扉が開いた。驚いて身を隠すがもう遅い
「隠れても無駄だ。そこにいるのは分かっている」
人間の声とは思えない、変声機を使ったような声。おそらくこれがアレクシなのだろう
そっと中をうかがいリリーは息を飲んだ。そこに佇んでいたのは人間ともストレンジャーとも違う。人のような形をしているが身体は青白い光で包まれ、目と口に当たる部分だけが不気味に赤く光っている
その姿には見覚えがあった
――あいつはお母様を殺した……
熱く燃え上がる屋敷の中で横たわる冷たい母親の姿がよみがえり体が震える
――もう終わりにしないと……
拳に力を入れて無理やり自分を鼓舞する。警戒しながらリリーは恐る恐る部屋の中へと足を踏み入れた
「アイザック=ターラントの娘か」
あの日と同じ台詞にリリーは力強く答える
「そうよ!SFD3番隊所属リリー=ターラントよ!」
「ずいぶん勇ましくなったな」
そう言って小さく笑う。赤い口と目が不気味に光る
「私はバスーラ国国軍指揮官アレクシだ」
アレクシ――予想はしていたが改めて本人であることがわかると緊張がはしる。リリーは密かに唾を飲んだ。冷えきった地下室でも汗がにじんでくる
「バスーラ国というのは……?」
「火星と木星の中間辺りに位置する星にある国だ」
「そこの軍人なの?」
「そうだ」
全ての答えに淀みがない。指揮官という上職者のせいかリリーの方が威圧されてしまう
「他の星の軍人がなぜ地球を襲うの?」
「王に献上するためだ」
「王様に?」
リリーは眉をひそめた。アレクシは不気味な表情のまま話を続ける
「そうだ。この地球を征服して王に献上すれば私の一族の待遇が上がる」
「なに……それ……」
リリーの顔が怒りで歪む。他の星の地位争いのために家族も、国民もこれだけの甚大な被害を受けたのか。これだけの長い年月をかけた戦いは、一軍人が自分の地位を上げたいというたったそれだけのために行われてきたというのか。
「そんな理由でお母様を……お父様やお兄様まで……」
「そんな理由?これは私の一族の死活問題だ。身分のない社会に生きるお前たちには分からないかもしれないがな」
頭の中で何かが切れた。堪えていた衝動が溢れ出す
「……っ絶対に許さない!」
相手の力量など関係なくリリーはアレクシに飛びかかった。上体を狙って殴り込むとアレクシもこれに応戦する。そのまま胴に蹴りを入れるがこれも押さえ込まれ、そのまま投げ飛ばされた。壁に背中を打ち付け、強烈な痛みがリリーを襲う
戦闘用のスーツを着ていてこれだけの衝撃ということは、まともに食らっていてはすぐにやられてしまう。アレクシの力はストレンジャーとは比較にならないほど強力だった
「一人でどうにかできると思ったか。俺もなめられたものだな」
そう言ってアレクシが指をリリーに突きつける
――これはあの時と同じ……
指先にエネルギーのようなものが集まっていくのが見える。光がきれいな球体になった瞬間、リリーは本能的にその場から逃げた。爆音と共にリリーのいた場所に大きな穴が空いている。リリーは攻撃の反動でアレクシが揺らいだその一瞬を狙って再び至近距離での攻撃を仕掛ける
「ぐっ!」
“白き鷹”に鍛え上げられた瞬発力が敵に勝った。リリーの突きは確実にアレクシの急所を捉えた。怯んだ隙に追い討ちをかける。首、胸、胴、足、全9箇所の急所に突きを食らわせてリリーはアレクシから離れた。ストレンジャーなら一ヶ所でも動けなくなる。全てを突いたのだからさすがのアレクシも立っていられなくなるはずだった
「…前々から思っていたのだが、お前たちの戦い方はぬるいな」
「…!?なんで動けるの!」
手応えはあった。確実に急所は捉えている。アレクシも少しよろめいていた。だからこそ距離をとったのだ
それなのになぜ平然と立っていられるのか
「最初の頃は本気で殺しにきていたみたいだが、部下たちが殺すまでもなく倒せると分かってからお前たちは倒すことだけを考えるようになった。武器すらも滅多に持たなくなった。
だが、私は部下たちとは違う。本気で殺しにこなければ殺されるのはお前だ」
再び指が突きつけられる。逃げなければ殺されるのは分かっているが、さっきの衝撃も相まって体が動かない
――どうする、どうする、どうする!?
良案が全く浮かばない
アレクシの攻撃が放たれる
――終わった……
覚悟して目を閉じた
「うおっ!」
叫び声と共に何かが地面に叩きつけられる音がした。このシチュエーションは過去に覚えがある
恐る恐る開けた目の前には、あの時と同じ大きな背中が立っていた




