これまでの僕
幼い頃から、父親の姿が僕にとって当たり前だった。何の疑問も持たず、誰かから期待や強要された訳でもないのに、父親と同じ道を選んだ。
僕が中学に上がる頃、父親は自宅の近くで、内科のクリニックを開業した。そのこともあり、医療の道がより日常になっていたことは確かだ。
父親は常に穏やかで、忍耐強さがある。現に二十年以上、勤務医を続けてから開業医になり、そこからまた二十年近く経つ。よっぽど自分の仕事に誇りを持っているのだろう。
母親は医療とは関係のない専門職に従事していた。わかりやすく言えば音楽家だった。父親と結婚するまでは、オーケストラに所属し、公演のため海外にもよく遠征していたようだ。
今は自宅で、教室を開いている。自分で人生を切り開いてきた人だ。
医師の父親に音楽家の母親。周りからは「ドラマみたいな家族構成だね」とか「家族でどんな会話するの?」と、興味を持たれることが多い。
一般的には、なかなかない家族構成だろう。
でも、我が家は普通の家族だった。特別なエピソードがある訳ではない。そして、どの親子でもそうであるように、両親の性分を、僕と四つ下の妹はそれぞれ受け継いだ。
僕は父親の方を受け継いだと思う。忍耐強さに関しては自覚がないけれど、穏やかというところは、自分でも頷ける。
これまでを振り返ってみても、怒るとか泣くとか感情を顕にしたことがない。もちろん怒りの気持ちも、悲しみの気持ちも持ち合わせている。
でも、表現が下手だ。そっと心の中に感情を留め、内省し思い悩む。
それに比べると妹は、僕と似ているようで似ていないと思う。母親の方を受け継いだのだろう。感情を顕にしない、という点は妹も同じだ。
でも、割り切るのが上手い。
上手くいかないことがあっても、いつまでも悩まない。
そして、僕と明確に違うのは、彼女にはいつも強い意志があるということだった。母親と同じ、自分の人生を切り開いていくという意思。
僕が幼い頃からの日常の続きで、何となく父親と同じ道に進んだのに対し、妹はいつか有名なホールでリサイタルを開催したい、という目標を持ち母親と同じ専門職に従事するようになった。
兄妹そろって、両親の職業もそのまま受け継いだ。
僕には〝こうありたい〟という、強い意志や明確な目標がこれまでなかった。
かと言って、自分の人生が悪いとは思っていない。
ただ、これからも可もなく不可もない、どちらかと言えば人から羨まれるような人生を、漠然と送っていくのだろうか、と考えることがある。




