嫌いになんてならせない
「ちょっと、高久くん! どういうこと?」
「ひっ、な、何かな……? というか、来て早々に声をかけて来るなんて珍しいというか、何というか」
「こっちに来い!!」
「わわっ!? 朝から何という大胆な!」
喫茶店でのことをもう知られたのかと思い、別の意味でドキドキしながら、ゆかりなさんの手に引っ張られている朝。
教室のみんなはそこそこ驚いていたが、もはや日常茶飯事的なイベントなので、大して騒がれなかった。
いいような、悪いような寂しすぎるような……。
『ドン!!』
最近壁に追いやられることがなく、しかも間近に迫って来られることもなかったので、コンクリ造りの壁に蹴りをして来たゆかりなさんの足は、大丈夫なのだろうかと心配になる。
「な、何で足で? だ、大丈夫?」
「~~っぅぅ……い、痛く無いし!! それより! 高久くんに言いたいことがある!」
「な、何でございま――」
キッとした女豹のような、もとい、ゆりな母さんに似た眼光に思わずびびり、俺の悪い癖である敬語が一瞬にして止まった。
「何か隠してるんだろ?」
「めっ、滅相も……隠してないよ、本当だよ?」
「き……」
「き?」
「嫌いになんてならせないんだからね! そこんところ、よく覚えていなよ? 返事は?」
「そんなぁ、まさかなるわけが~」
「あ?」
「なりませんとも! どんなことがあっても、ゆかりなさんのことは嫌いになんて……」
「よし、分かった! 約束してよね? じゃ、教室に戻る!」
「はいい~」
一体何だったのか、カフェでの二人と母さんの仕向けとは、関係ないのだろうか。
それにしたって、嫌いにならせない……だなんて、ゆかりなさんらしさが戻った?
今の段階では好きを隠し通して、他の女子と恋仲になるしか解決出来そうにないけど、やるしかないな。




