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すだちの怒り



 ――これは、数日前のこと。


 暇をもて余した私達は、各々好きなことをして時間をつぶしていた。

 ひゅうが君となつちゃんは、クエストに行ったのか姿が見えない。

 いよ君とみかんは、トランプで遊んでいた。例によって例のごとく、いよ君はきゅうりを食べながらだけど。


 ……汚さないか、少し心配だね。

 まあ、いよ君が器用なのか、一度もこぼしているところを見たことは無いんだけど……。


「そういえば、すだちは料理得意かしら?」


 突然、六花が尋ねてきた。


「苦手ではないけど、別にそれほど得意というわけではないかな。……まあ、「お母さん」に教えてもらったからある程度は出来ると思うけど」


 ……思い出したら、久しぶりに「お母さん」の作るご飯が食べたくなってきちゃった。


「十分よ。……あのね、私、プリンを食べてみたいの!」

「かまわないけど、どうしてプリン?」

「昨日読んだ雑誌に書いてあったんだけど、「口の中でとろける」っていうのを経験してみたいのよ!」

「……買ってきた方が確実だし楽だと思うけど?」

「手作りの方が、より美味しいと書いてあったのよ」


 なるほどね。……私の実力でそこまで出来るか分からないけど、やるだけ頑張ってみようかな。


「ええと、じゃあ、「上手くいかなくても文句を言わないこと」と「六花も手伝うこと」この二つを守れるなら作っても良いよ」

「問題ないわ。元々作る方にも興味あったのよね」


 六花は、にっこり笑って言った。



 工程は省略するが、牛乳と砂糖を量るのは私がやり、それらと卵を混ぜる係りを六花に頼んだ。

 蒸し器のサイズと器の数の関係上、プリンは四つになった。私と六花で二つずつ食べれば良いだろう。


 数が合わないから変にもめても困るし、他の人達の分はないけど、お試しだし上手く出来たらまた作ろうかな……。



「まだかしら?」


 立花が、蒸し器を覗き込みながら呟いた。


「……うーん、まだだと思うよ」

 

 気持ちは分かるけど、さっき蒸し器に入れたばかりだからね?

 しかし、こうやって見ると六花も普通の子供と同じだって安心するよ。……会った当初は、役目の重圧に押しつぶされそうに見えたからね。



「「完成!!」」 

「早速食べても良いかしら?」

「うん、食べよう。こういうのはできたてが美味しいからね」


 うずうずとしている六花の前に、プリンとスプーンを渡し、私も自分の分を持って執務室の机に運んだ。


「カラメルソースもどうぞ」

「すだちが作っていたのは、これだったのね。焦がしていたから、てっきり失敗かと思っていたわ」


 ……確かに、知らなければ失敗にも見えるかも。私はこの香ばしい味が好きだけど。


「「いただきます!」」


 ……美味しいけど、「口の中でとろける」にはニアピンというところかな。


「こんなに美味しい物、食べたことがないわ!」


 まあ、六花は満足しているみたいだし良いか。



「「ご馳走さまでした」」


 食べ終えた私達は、使った食器類を片付け、残ったプリンを冷蔵庫にしまった。


「そうだ、ちょっと待って」


 私は、つまようじを二つ、セロハンテープ、紙と色鉛筆を用意した。

 これらは、城の中にあった。代々魔王が必要な物をためていたらしい。


「何を作ろうとしているの?」

「出来てのお楽しみ。まあ、大した物でもないけど」


 私は紙を1:3より少し横に長くなるように切り、左右が同じ長さになる所から少しずらして折った。ずらしたおかげでとび出した部分も谷折りにした後、両面に色鉛筆で絵を描いた。


「……こんなものかな」


 呟きながら、先ほど谷折りにした「谷」にあたる部分につまようじを置き、長めにとったセロハンテープでくっ付けた。

 最後に、とび出たテープを使って紙を輪になるように貼り付けると……、


「よし、完成」


 そこには、お店でよく見るお子さまプレートの旗が出来ていた。

 つまようじの先端を下にしているので、柔らかいプリンには簡単に刺さった。


 ……「すだち」と「雪の結晶」の絵を描いたので、誰かに間違って食べられる心配はないはず、だった(・・・)



 だが、夕食後プリンを食べようと取りに行った時、私の方のプリンだけ忽然こつぜんと姿を消していたのだ。



 犯人を捜したところ、普通にみかんが名乗り出た。

 トランプを終えた後、空腹を覚えて食べたのだとか。


 ……これが、事件の概要である。



「……プリン? あ、あー。あれは、もう時効だろ」

「食べ物の恨みは恐ろしいよ。……大体、まだ一ヶ月も経っていないのに赦すわけがないでしょう? ……一ヶ月経ったからといって、赦すという意味ではないからね」


 ……今の私の気持ちを表すならば、「末代まで呪ってやろうか」レベルである。


「大体、旗が付いているのに、どうして食べて良いと思ったの?」


 本当は正座をさせたい所だが、釣竿にくくりつけられたみかんは左右に揺れるのみだ。


「だって……」


 気まずそうに語りだしたみかんの話をまとめると、以下の通りになった。


 曰く、結晶の方を「雪」ということで私と六花のものだと思い、すだちの方を「柑橘」……つまり自分達のものだと思ったそうな。


 ……まあ、それを一人で食べちゃっている時点でどうかと思うけどね。


 因みに、六花が以前口を滑らせてしまったので「真名」は皆にばれてしまっている。それが原因で、六花が私の呼び名を改めることになったのだが。


「……でも、謝っただろ?」


 ……赦すまじ。こういう人って謝ればそれで終了だと思っている節があるよね。……そういう態度が、更に相手を苛立たせているということに気付くべきだと思うよ。

 

「まだ、すだちの怒りは収まらないみたいね。まあ、これはみかんが悪いと思うわ。……頑張れ、と言うのが正しいのかしら?」

「……取り合えず、今日一日は覚悟してもらうからね」


 私の発した死刑宣告に、みかんは顔色を青ざめさせながら揺れた。


 みかん、ドンマイ。

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