メアリー
いよ君が活躍します!
……ついでに、みかんが不憫です。
「さて、行くか」
みかんの言葉に頷きながら、私達は辺りを見回した。
どうやら川の近くらしく、何処からか水の流れる音が聞こえてくる。
「川の近くということは、水棲の妖怪か……?」
早速推理を始めたみかんの呟きに、私は思わずいよ君を振り返った。
「?」
……河童、ということはないか。流石にいよ君が気付きそうなものだよね。
「何処から探そうか?」
「……水の近く希望」
ひゅうが君が尋ねると、珍しくいよ君が発言した。
……いや、それはいよ君本人の希望だよね?
「あたしもいよの意見に賛成ですわ。……川の近くに転移したということは、何かしらのヒントがあると考えて良いと思いますわ」
「……そうね。じゃあ、先ずは川を探すのね」
皆の視線が、いよ君に集中した。
いよ君は少し居心地悪そうに身動ぎをすると、小さく頷いた。
「……ついてきて」
私達は、いよ君の先導で歩き出した。
途中でいよ君がきゅうりを食べ始めるというハプニング(?)はあったものの、流石と言うべきかほぼ迷う様子もなく、数分歩くと目の前には川が広がっていた。
因みに、きゅうりは前のクエストの証を持ってきた時と同じように陣を使って出していた。
「……」
どことなく満足そうな表情で頷いた、いよ君の瞳は既に川に釘付けだった。
「さて、何処にいるのかしらね」
「とりあえず、上流と下流に向かう二手に別れて歩きながら捜すか」
「そうだね。じゃあ……」
「……?」
「いよ君、どうかしたの?」
「水の音が変」
いよ君は本人も良く解っていないのか、首を傾げていた。
「どっちの方向からか分かる?」
ひゅうが君の質問にコクリと頷いたいよ君は、
「こっち」
と言いながら、川の上流を指差した。
私達は、再びいよ君を先頭に歩き出した。
代わり映えしない景色を眺めること五分、いよ君は歩を緩めた。
「ついた」
彼の言葉に顔をあげると……、
「……」
そこには、白と黒の――
「……牛?」
軽いデシャブを感じながら、私は呟いた。
……まあ、デシャブとは言ってもサイズも形も普通の牛なんだけど。
よく見ると、牛の首元に何やら光る物がある。
「何だろう、あれ」
「……何か書いてあるようですわね」
「メ、ア、リー……メアリー!?」
「……メアリー? あれが?」
「……」
みかんが衝撃のあまり閉口してしまった。
……まあ、一番楽しみにしていたしね。
あ、六花が肩に手を置いて慰めている。……届いていないけど。ジャンプしているから、寧ろ叩いているようにしか見えないけど。
「……痛っ! 痛い痛い痛い」
六花が何度もリトライするため、とうとうみかんが悲鳴を上げた。
……うーん、まあ、復活したから良かったんじゃない?
「……どうしようか」
私達が捜していた「メアリー」は、立派な乳牛だった。
現在メアリーは、川のど真ん中に鎮座している。
先ほどひゅうが君が近付いてみたが、威嚇されて断念した。
「……警戒心が強そうね」
漸く、慰めという名の叩き作業を終えた六花が言った。
「……仲間と思わせる?」
今日は珍しく饒舌(と言うほどではないが)ないよ君の呟きに、私はみかんを振り返った。
「みかん、GO!」
「……何だか、今日俺の扱い酷くない?」
ぼやきながらも、みかんは牛の姿をとった。言わずもがな、白黒マスコットバージョンの姿である。
みかんは、ふよふよとメアリーに近付いた。
「ンモー♪」
みかんを視認したメアリーは、嬉しそうな声をあげて彼に突撃を仕掛けた。
「うわっ! 危なかった……」
「……ンモーンモー」
間一髪で避けたみかんにメアリーは不満気だ。
そこで、私は良いことを思い付いた。
……これには、いよ君の協力が必要不可欠だね。
「いよ君いよ君、物は相談何だけど……」
「すだち、面白い話なら私も混ぜて!」
そういえば、六花は即位後から私のことを「すだち」と呼ぶようになった。
今までは聞く人が居なかったから仕方がないとはいえ、一応真名だからね。
私は近付いてきた六花といよ君の耳元で作戦を説明した後、お願いをしてみた。
――いよ君、**を出してもらっても良いかな?
私の言葉に、いよ君は首肯した。
「……っ!! 面白いことを考えるわね……」
六花は笑いに耐えながら、以前と同じ言葉を口にした。
私は、いよ君に出してもらった物を持ってみかんに近付いた。
同時に作戦を説明する六花。
みかんの顔色は、説明が進む程に酷いものになっていった。
「……今日は何なの? 厄日? ……だから、俺の扱いっ! ちょっ……!!」
現在、みかんの機嫌が物凄く悪い。
不機嫌そうに揺れる尻尾の動きに合わせて、みかんも左右にゆらゆら。
そして、それにつられるように、メアリーの視線もふらふら。
「……意外と似合っていますわよ?」
悪気はないのだろうが、なつちゃんがとどめを刺した。
「うぐっ」
今のみかんの状況を一字で表すなら、「餌」だろうか。
――いよ君、釣竿を出してもらっても良いかな?
そう、みかんは釣竿に餌よろしく、くくりつけられているのである。
しかも、途中でほどけたら困ると釣糸を少しきつめに結んだので、もはや卵形を越えて瓢箪の様なフォルムになっている。
……そういえば、どうでも良いけど、瓢箪って結構臭いよね。瓢箪にお酒を容れて飲む人達を尊敬するね。それとも、お酒が程よく臭いを消してくれるんだろうか……?
「どうして俺の方を見ながら言うんだよ!? 俺、臭っているの!?」
「あれ、声に出ていた? 大丈夫大丈夫、他意はないから。……まあ、みかんがそう思うなら、そうなのかもしれないけどねぇ?」
「すだちさん、手厳しいですわね……」
なつちゃんが呟いたが、手を緩める気はない。
……私は、まだ赦していないからね。
「すだちは、プリンのことで怒っているのよね?」
六花の言葉に頷きで返した。




