後日談 * クエストに行こう
予想より多くの人に作品を読んでもらう事が出来て感動した作者が、調子に乗って勢いのままに書きました。
「すだち、クエストに行かないか?」
だらだらとカーペットに寝そべりながら、みかんが言った。
……一応、ここ魔王の執務室なんだけどな。みかんの他にも、いよ君も転がっているんだけど? また緑の物体を食べているし……。食べるのは良いけど、こぼさないでね。
私は一枚も書類が置かれていない机を一瞥し、六花と顔を見合わせた。
「……そうだね、暇だし」
因みに、この部屋には中央付近に書類整理の為の机があり、その隣に子供用の小さめの机が置いてある。
言わずもがな、私と六花のものである。
その机の後ろには壁一面の本棚があり、資料として使えるようになっている。
そして、棚に向かって左手の一部がスライド式の隠し扉になっていたりする。
こっそり出掛ける時に使えるかな、と魔王になった当初に勝手につくったものだ。なので、この扉の存在を知っているのは私達六人の他には誰もいない。
「そう言うと思って、面白そうなクエストを探ししておいた。ひゅうがとなつが他のやつらが受けてしまわないように見張っている」
そういうやり方もあるのか。……というか、だから二人は居なかったんだね。
「二人を待たせたら悪いし、行こうか」
私達は隠し扉から外に出て、妖怪の世界へ行く扉をくぐった。
……まさに、ドア to ドア。
因みに、城内は反乱を防ぐ目的で一応、妖力や魔力無効空間になっている。
……まあ、魔族が本気を出したら数秒で破れるらしいけど。意味があるのか微妙なところだね。
途端に夜に変わる視界と、楽し気な音楽。
……久しぶりに来たけど、やっぱり居心地が良い。
「そういえば、ここはいつ来ても夜なの?」
みかんの瞳がキラリと光った。
……あ、スイッチ押しちゃったっぽい。
「ああ。夜を切り取って留めているらしい。妖怪が最も活発化する丑三つ時辺りの時間に設定してあって……」
「あら。来ていたのなら、声を掛けていただきたかったですわ」
みかんの言葉を遮って現れたのは、なつちゃん。
「目をつけていたクエストは、あちらですわ」
なつちゃんの先導でクエストの所へ行くと、ひゅうが君の姿が見えてきた。
「で、面白そうなクエストってどれかしら?」
「……えっとね、これだよ」
ひゅうが君は指先を少しおよがせてから、一つのプレートを指した。
「迷子を捜せ……?」
そこにあったのは、探し人(?)のクエストだった。
「……ええと、何が面白そうなの?」
大して面白そうには見えないんだけど……。
私と六花が首を傾げていると、なつちゃんは頷いた。
「私も最初は同じように思ったんですの。ですが、これを見てくださいな」
指が示す所には、クエストの詳しい説明があった。
「ええと、『私達の大切なメアリーがいなくなってしまいました。我が家では、毎日寂しい思いをしています。他の子では駄目なのです。どうか、見つけて下さい』……何か変わった所があるの? 確かに、少し変な文だとは思うけど」
「……メアリー。明らかに、欧米の名前じゃないか!」
……そんな、「カッ」って感じで言われても困るんだけど。凄いものなの?
「どんな妖怪なんだろう」
みかんの瞳がきらきらしている。
みかん以外も期待の滲む眼差しを向けてくる。
ん? ……もしかして、最終決定権は私にあるの?
「ええと、反対意見が無いなら、決定で良いんじゃない?」
「良し、じゃあ決定!」
間髪入れずに、みかんの声が響いた。
嬉しそうな表情をする皆を見て気付いた。
……皆、それだけ暇だったのか。確かに、即位してから一つ命令を出したきりで、殆ど何もしていないものね。
「そういえば、みかんは予知で相手の姿を確認出来るんじゃないの?」
プレートに名前を刻んで後は移動するだけというところで、ふと気付いたことを尋ねてみた。
因みに、プレートに名前を刻むと、転移出来る場所の中で比較的クエストの目的地に近い所へ運ばれる仕組みになっているのだとか。
これも、質問した途端にみかんのテンションが上がってしまった。なつちゃんに再び遮られて未遂だったけど。
なつちゃんが勇者……! みかんの話を止められる人は、他にいないのではないだろうか。
そして、みかんの興味のつぼが分からない。この質問も地雷(?)な気がするから、聞かないけど。
「……先に知ってしまったら、つまらないからな。やっぱり、こういうのは、未知のものと出会う楽しみを大事にするべきだと思う」
……そういうものなのか。私的には、先に知って安全か確認したいと思うのだけど。これは、件だからこその意見かな。
「お二人とも、そろそろよろしいですか?」
「……うん、問題ないよ」
なつちゃんの言葉で、思考の世界から引っ張りあげられた。
既に、私とみかん以外は手を繋いで準備をしていた。
……申し訳ない。
慌てて私は、六花と手を繋いだ。
途端に視界が切り替わり、私たちを浮遊感が襲う。
《クエストの内容は、『メアリー』を見つけ出し、転移地点まで連れて来ることです。方法は問いませんが、怪我をさせた場合クエスト失敗の扱いになりますのでお気をつけ下さい》
前回と同じ無機質な声が響いた。
《アイテムの持ち帰りは、個人の判断におまかせします。それでは、無事にご帰還されることをお祈りしております》
軽い転移の感覚の後、足が地面に着いた。
……良かった。今回は、はぐれずに来られたみたい。
私は、近くに全員揃っているのを確認して安堵の息をついた。
次話は書きあがりしだい投稿する予定です。