4 絶対にヒロインになってやる! side◯◯
…噂が入って来た。
《ドラゴン無しの女の子が新しく生徒会に入る》と…
「シャーロット様、ご存知ですか?」と口々に取り巻きが言う。何十回とされる質問にそろそろ嫌気がする。しかし、この子達が疑問に思うのも無理は無い。むしろ、気にするのが当然のことだろう。
「まだ、詳しいことは何も言えないわ。決まり次第知らせるから待っていてちょうだい。」
決議も取らずに勝手に判断するなんて何事だとイラつくが、ここにその問題の相手がいないのだから態度に出すのは憚れる。
「…やっぱり現れるのねヒロインさん…むしろラスボス、と言った方が相応しいのかしら?」
私は転生者だ。この世界は前世で私がハマっていた乙女ゲーム《私のドラゴン〜冒険絵日記〜》略して《わたドラ》と同じだ。…正確には、そのゲームのその後の世界。私が転生したことに気が付いたのは、この国の伝説を聞いた時。「この世界にある伝説は、私の知っているゲームの内容と同じだ」と思った。…正直始めは複雑だったが、「今はシャーロット=イベリアとして生きているのだから」と気にしないようにした。
……気にしないつもりだった。
…………。
………いや、無理だろ!
私はここがゲームの世界だと知ってるじゃん?それで、ヒロインのこともよーく知ってるじゃん?……で、私って何?そりゃーさぁ、ここがゲームの世界って知らなかったら別に気にしないよ。でも、知っちゃったのにさ自分がモブキャラだってわかったら嫌じゃん!
私も前世ではオタクだった。だから、モブキャラに転生した話だって某小説サイトで何度も読んだ。でもその大体はキャラクターを傍観したりってなんやかんや楽しんでるじゃん!なのに、私がいる時間軸ってゲームのストーリー終わっちゃってる。…もうサファイアさん封印されちゃってるじゃんかぁーー!嫌だ、マジで嫌だ。自分がモブキャラだと知りながら一生を終えるのは…なんとかならないのか!?
悲しくて泣きたくなる。が、ここはイベリア家の令嬢(私)。誇り高い貴族であるイベリア家では妥協は許されない!記憶を思い出すまでの間は、しっかりと令嬢をやって来た。
諦めるな!何かある……取り敢えずは、とゲームの内容をノートにまとめることにした。メイドに心配されながらもヒントを得る為に一心不乱に書いて書いて書きまくった。そして気が付いた。
「あなたも幸せを感じて。どうか、あなたの心が素敵な人に導かれますように・・・」
ゲームの終盤でヒロインが赤いドラゴンに言うシーンがある。そして、このゲームのシナリオライターがとある雑誌のコメントに「ルビーは生まれ変わって、メルが言っていた様に素敵な人に出会って幸せに暮らしてます。」と言っていた。
……生まれ変わるのね?赤いドラゴンが生まれ変わって現れるのね?メルのセリフってフラグよね?
よし、ゲームと同じ感じにそいつをブッ倒そう。そして私はヒロインになろう。そしたら、記憶を持って転生した私の気も晴れるだろう。一生モブキャラなんてこのままじゃ死に切れない。
幸せに暮らしてるルビー(仮)が可哀想?しるかボケ!こっちだって、それで何年間も悩まされてるんだよ!
私はヒロインになる為にイベリア家の名にかけて徹底的にあらゆる汚い手段を用いてルビーを探してやる。ドラゴンをパートナーに持つ者は生徒会に入らなくてはならない。ルビーはドラゴン。きっとルビーは生徒会室に来る!(私の在学中に来なくてもOGとして私から生徒会室にちょくちょく行ってやる!)
……とは言ったもののさっきも言った通り私は今、シャーロット=イベリアなわけでずっとルビーを探している訳にはいかない。イベリア家の名にかけるなら、イベリア家の人間としての振る舞いをしなくてはならない。シャーロットとして今を必死に生きていかなくてはならない。だから、せめて月に一回だけにした。この気持ちを忘れない様にゲームのことを思い出してヒロインになりきるのは……
その日は、待ちにまった月に一回のお楽しみの日だった。この日は、自分を全開にすると決めている。邪魔する奴はブッ倒す。
「さて、今日は湖か……」
確か、ゲームではこの時期にヒロインは湖でセリル王子と会話をする。だから私はヒロインになりきって湖に行った。…そしたら先着がいた。この私の邪魔をしようと良い度胸だ、ブッ倒す!と攻撃したらやられた。「え?何?」と思った。だって、私のパートナーのジュエルは強いし。見ると、赤いドラゴンがいた。ずっと探していた赤いドラゴン。もう笑うしかない。
そして思った通り、そのルビー(仮)は生徒会に来る感じで流れが進んでいる様だ。しかし、生徒会としてはきちんと議決を取ってから決めるべきだと思うのでそこらへんはきちんとしたい。
人の幸せを自分の満足の為に潰そうとしているのだから必ず報いが来るだろう。最後には、この手に何が残っているのかしら?