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47 メイソン侯爵家からの奪還 その2


エミリアは馬車から降りるとリリアナの腕を爪が食い込むほどにきつく掴んだ。

「……(いた)……っ!」

「お前が脱走なんて馬鹿な真似をして余計な手間を掛けさせるからでしょう!! フローディン公爵との約束の時間になってしまったわ!!」

「……や、約束って……?」

「今日はお前とフローディン公爵のご子息との顔合わせよ! 分かったらさっさと屋敷に入って用意したドレスに着替えなさい!」

エミリアの癇癪に、屋敷の玄関口の階段下で控えていた数名の侍女たちが素早く反応し、リリアナを屋敷の中へ押しやる。


「リリアナ様、お召しになっていたこちらの服はいかが致しましょうか」

用意されていた薄い黄色のドレスに身を包んだリリアナは、髪を()かされていた。その時、屋敷の侍女から先ほどまで着ていた服の処分方法を訊かれる。

「だ、駄目! その服は大事なものなの!」

リリアナは侍女から服を奪い取った。

昨日から着続けて、脱走で汚したり汗だくにしてしまったワンピース。それは、先日コンラートに買ってもらったうちの一着だ。無下にはしたくなかった。

「……コンラートさん」

汚れたワンピースを胸に抱きしめ、弱気になった心をコンラートの名を呼ぶことで自らを慰める。


「リリアナ様、その服は捨てずにお預かりしておきますね」

侍女から優しく進言され、リリアナは顔を上げて「お願いします」とおずおずと渡す。服を受け取った侍女はにっこりと微笑む。

髪を横でひとつにまとめられ、髪飾りを着けてもらうと、侍女の案内でエミリアの元へ連れていかれた。


「随分と遅かったわね。メイソン侯爵とフローディン公爵のご子息を隣の部屋でお待たせしているから来なさい」

リリアナはただ黙って会釈する。

エミリアが隣の部屋のドアをノックし、約束の時間に遅れたことを詫びる。続いてリリアナも部屋に入り、「ローズウッド子爵家のリリアナと申します」とカーテシーをする。

エミリアは動転してリリアナを叱責しようとしたが執事に制止された。

「なぜ止めるの、ダグラス」

「リリアナ様の養子先変更の申請書類が正式に受理されていない状態ですので、リリアナ様はまだメイソン侯爵家の人間ではございません」

「何ですって……!」


「僕はそんな些細なこと気にしないよ」

緩いウェーブがかかった金色の前髪をかき上げながら、不遜な態度で長椅子に深く座っていたジョシュア・フローディンはリリアナを真っ直ぐに見ると腰を上げ、リリアナの前に立った。

「キミに会うのは久し振りだね。ジョシュア・フローディンだ。もう僕のことは忘れてしまったかな? 美しいキミが僕の妻になってくれるなら、貴族であれば侯爵でなくても子爵位でも何の問題もない」

ジョシュアの顔を見た『えりな』は突然思い出し、「中等部(あの時)の、金髪ワカメ」とポロッと声に出した。


「……は? カメ……?」


「んん! ……何でもございません」

(あぶ)なっ……! まさか公爵だったなんて……海に面していない国だから〝ワカメ〟を知らなかったのが幸いだったわ!)


「あなたたち、面識があったのね」

エミリアが声を弾ませた。

一見(いっけん)しただけです」

「一見だなんて! 僕は彼女に自分の名を名乗っていますよ」

ジョシュアはハハハと、そら笑いをする。

「ああ! 『キャーッ!(棒)、ジョシュア様ステキ!(棒)』でしたっけ?」

ジョシュアはピシッと石化する。

「───あの頃、ジョシュア様に熱を上げる生徒はいなかったような……」

「旦那様、奥様、大変です!!」

侯爵家の侍従がドアをノックもせずに突然ドアを開け、侯爵とエミリアを呼んだ。

「ノックくらいしなさい! 何の騒ぎなの?」

「そ、それが……!」

廊下の奥からどやどやと大勢の足音が近づいてきた。

「邪魔をするぞ、メイソン侯爵」

そう言って部屋に入ってきたのは、レイノルドと数名の護衛たちだった。

「王太子殿下!」「なぜ殿下がここに!」

レイノルドはマントを翻すと、ジョシュアに詰めよった。

「すまないがジョシュア、リリアナを婚約者にするわけにはいかない」

「なぜ……ですか」

ジョシュアはゴクリと唾を飲み込んだ。


「なぜ? 僕がリリアナを妃に迎えたいからだ」


「おい、レイノルド! 打ち合わせと違うことを言うな! 俺はお前とリリアナを結婚させるつもりはない!!」

ナシュダールが護衛たちを掻き分けて前に出てきたので、レイノルドはナシュダールを見て舌打ちする。

「───お兄様!」

「リリアナ、無事だったか」

リリアナはナシュダールの腰に抱きつき、顔を上げると疑問に思ったことを訊ねる。

「どうして私がここにいると分かったのですか?」

「父さんが貴族院に掛け合って、リリアナのサインが入った書類はすべて処理せずに止めてもらうようにしたんだ」

その言葉を聞いたエミリアは唇を噛んだ。

「……あの人が私の計画の邪魔をしたのね……リリアナ!! 私と一緒に来なさい!!」

ナシュダールはリリアナに向けて伸びてきたエミリアの手を払い落とし、リリアナを自身の後ろに隠した。

義母(かあ)さん、もうリリアナに構うのを辞めてください」

「───ナシュダール、お前まで!」

エミリアはナシュダールの首を両手で掴んだ。

「エミリア!! やめるんだ!!」

ローズウッド子爵が声を(あら)らげると、エミリアはその手を緩め、声のする方に顔を向ける。

「……ミシュガン」「父さん……!」

「アメリアの子を解放してやってくれ、エミリア、頼む」


「───エミリア・メイソン! リリアナ・ローズウッド嬢の拉致の容疑で今から王城まで来てもらうぞ、いいな!」

レイノルドがエミリアの前に立ちはだかり、連行を促した。

エミリアは俯いて大人しく縄を掛けられると、レイノルドの護衛たちに連れられ、部屋から出ていった。


「門の外にガルシアナ帝国の軍人が」

屋敷の侍従がメイソン侯爵へ報告している内容にリリアナはハッとして、部屋を飛び出す。

ドレスがまとわりつくので裾が地面に擦れないように両手でスカートを持って庭園の中を走った。

「はあ、はあ……」

門に手をついて乱れた呼吸を整えた。


「……リリー、なのか?」

リリアナがゆっくり顔を上げると、いつも自信に溢れた力強い青い瞳が、今は青い瞳が揺れてリリアナを見つめていた。

「セドリック様!」

その途端、リリアナはセドリックの胸の中に閉じ込められる。

「リリー、無事でよかった」

安堵の溜め息をついたセドリックは、リリアナの唇に自身の唇を重ねた。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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