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第4話 お城と謎の少女

俺はお城へ向かうメインストリートを歩いていた。

さすがに人通りも多く、いろんな店が並んでいる。

物珍しい骨董品ガラクタ)を売る店もあれば、美味そうな屋台もある。

俺は久しぶりの街の賑わいに心躍った。師匠もいないし羽根を伸ばすのもいいね!

お城に近づくにつれて、その大きさに驚かされる。

幾つもの塔を堅牢な城壁が囲み、深く掘られた堀は侵入者を拒んでいる。

俺はお城を見上げながら城門へ近づくと

「待てぃ!」

長い槍を持った二人の衛兵が俺の行く手を遮る。

「お前のような不審者を通すわけにはいかん!」

二人の衛兵は俺に槍を突きつけてきた。

「別に怪しい者じゃないよ。ただお城の見学に来ただけで…」

俺はお城なんて入場料さえ払えば簡単に入れるものだと思っていた。

「お前のような身分の低いものが入れる場所ではない!さっさと立ち去れぃ!」

「あ、そういう身分差別ってよくないんじゃないの?人を見かけで判断して…」

と言いかけて俺は自分の服装を見てみた。気にしていなかったがどう見ても普段着、平民の服だった。衣裳部屋には貴族風の服もあったがあんなダサいのはイヤだ。

「お前のような怪しい奴は、捕えて牢へぶち込むぞ!」

二人の衛兵が俺ににじり寄る。

「何だよ。何にも悪いことしてないのに捕まえる気?こうなったら新能力『ダット』!」

俺は全速力でその場から逃げ出した。逃げ足には自信があるのだ。

ちなみに『ダット』は能力でも何でもない。『脱兎の如し』素早く逃げただけである。


俺は走ってメインストリートの人波に紛れ込んだ。衛兵が追ってくる様子はない。

安心したら腹減ったなぁ。さっき途中で何かの肉を丸焼きで売ってる店があったな。

などとキョロキョロしながら歩いていると、ドンッと胸のあたりに何かがぶつかるような衝撃が走る。

見ると人にぶつかられた様だ。

「きゃっ!ごめんなさい!」

ぶつかった相手は俺の顔を見上げる。女の子だ、しかもカワイイ!褐色の肌色に銀髪のショートヘア。緑の瞳、一瞬だが見逃さない!

彼女は何かに追われるように慌てて横の細い路地へと駆け込んでいく。

そして彼女を追うように二人の大男も路地へと駆けて行った。

俺はそれを目で追うと同時に重大なことに気付く。

“無い!カギが無い!!!“

首から下げていたカギが無くなっていた。

やられた!どう考えてもさっきの女の子だ。あんな子がスリだなんて、何か事情があるのか。

なんて考えてる場合じゃない。すぐに追わないと!

俺も慌てて男たちの後を追った!


細い路地を駆けて行くと、うまい具合に男たちは彼女を追いつめていた。

「もう逃げられねえぜ、大人しくしな!」

ありきたりのセリフを吐く悪漢。こういう場面の常套句である。

追いつめられた少女に迫る男たち。その背後に駆け付けるのは正義の味方?

「ちょっと待ったぁ!」

その声に振り返る男たち。

「なんだおめぇ、邪魔しようってのかぁ?」

そんな男たちを無視して、俺は彼女の方へ歩み寄る。

「ありがとう!助けに来てくれたのね!」

涙目で芝居がかったセリフを吐く少女。

「おいおい、そんな訳ないだろう。返せよ、カギを!」

「そうねぇ、助けてくれたら返してあげるわ」

ニコリと笑って、彼女は後ろへ指をさす。

振り返ると大男たちがヤル気満々で迫って来る。


自慢ではないが俺はケンカなどしたこともない。

親父にも殴られたことないし、殴ったこともない。


正直ビビッている。

右の大男が拳を振り上げ襲いかかる。

その動きがスローモーションのようにゆっくり見える。

人のパンチって意外に遅いんだなと思いつつ、しゃがんで避けると

相手のボディめがけてパンチを打ってみる。

『そんなへなちょこパンチ効かねえよ』的な展開になると思っていたが、大男は数メートル吹っ飛び仰向けに倒れた。

もう一人の大男も驚いていたが、一番驚いたのは俺の方である。

「この野郎!」

もう一人の大男も殴りかかろうとするが、その前に俺は顔面へパンチを食らわせた

その場へ崩れるようにして倒れる大男。

生まれて初めてのケンカで圧勝してしまうなんて、俺ってボクシングの天才なんじゃないかと勘違いしてしまいそうだ。


彼女は俺に駆け寄り、

「ありがとう!助かったわ。あなたって意外と強いのね」

「あ、ああ。自分でも驚いてるよ。俺って結構強いんだ…」

改めて自分の拳を見つめてみる。とりあえずケガはないようだ。

「ごめんなさい。これ返すわ」

彼女は俺にカギを手渡すと

「じゃ、私はこれで!」

俺に背を向け、再び駆け出そうとする。

「ちょっと待って」

俺は反射的に彼女の手を掴んでいた。

「何で追われてるんだ?詳しく聞かせてくれよ」

「何言ってるの?関わる気もないくせにほっといてよ」

少女は涙目で俺を見る。

「何でそんなこと…」

「これを見ればわかるでしょ!私は奴隷よ!」

彼女の首には黒い鉄の首輪がはめられており、簡単には外せそうにはない。

「売られる前に逃げ出してきたのよ。行くあてなんてあるわけないわ」

彼女の目から一筋の涙が流れた。

「わかった。人一人匿うくらいはできると思う。詳しい話は帰ってから聞くから、とりあえず俺を信用してついてきて」

俺は近くにあった家の扉をカギで開け、彼女を連れて帰ることにした。



彼女の名前はミクル。

年齢は14歳と思ったよりも年下であった。


早い話が彼女は戦災孤児だ。国境近くの村に住んでいたが戦争で両親と生き別れ、人攫いにより奴隷として王都へ連れて来られたという。

そして驚くことに彼女は人間と魔族のハーフなのだ。厳密には父親がダークエルフで母親が人間だそうだ。よく見ると耳が長く尖っている。エルフの特徴だろうか。


「この部屋は?」

「まぁ俺の隠れ家みたいなもんだ。他の人間は絶対に入れないから安心していいよ」

ミクルは面白そうに部屋の中をキョロキョロと見回している。

「まずはその首輪だ。そこに座って」

ミクルをソファに座らせると首輪に触れながら

『アンロック!』

すると黒い鉄の首輪が真っ二つに割れた。


ミクルはこの時首輪が外れた解放感と同時に、自分の中の何かが解き放される感じがした。

それはライトの『アンロック』の影響なのだがライト本人もまだ知らない能力なのである。


「ありがとう!体だけじゃなく心まで軽くなった感じよ!」

ミクルは嬉しさのあまりライトに抱き付いてきた。

「お、おお、よかったな」

俺はちょっと戸惑いつつ彼女を振り払う。

「それじゃ、その汚れた服、着替えた方がいいんじゃないか?」

俺は衣裳部屋の扉を開けた。

「ここにはなぜかどんなサイズの服も用意されてる。好きなの選んで着ていいよ。体拭く場所もあるから使って」

「ありがと」

ミクルは衣裳部屋へ入り際、俺をジーット見て

「覗かないでネ」

と言って入って行く。


俺はソファに腰を落とすと、目を閉じ深くゆっくりと深呼吸をした。

今日一日のことを考えると、疲れよりも異常な高揚感が全身を包んだ。


“おいおい、大丈夫か?”

師匠の火の玉が不安げに声をかけてきた。

“この部屋の秘密を関係ない者に知られちゃまずいんじゃがの”

「そんなこと言われても、もう連れてきちゃったものはしょうがない。あの子は行くあてがないって言うし。俺だってこの部屋しか帰る場所なんてない。お互いさまでしょ」

“まぁいいじゃろう。それより、お前さんあの娘に惚れとるんか?”

「は?間にバカなこと言ってんの。あの子まだ子供でしょ?」

“どうじゃかのぅ。エルフは長命じゃからあの見た目で100才超えとる場合もあるぞ“

「えっ?自分で14才って言ってたよ」

“その方が都合がええからじゃろう。とにかく気を付けるんじゃぞ”

師匠の火の玉がフッと消えると、衣裳部屋からミクルが出てくる。

「どうかな?」

ちょっと照れくさそうなミクルは水色のワンピースに着替えていた。

白い襟と腰の後ろのリボンが可愛らしい。師匠の話の後だからかちょっと大人びて見える。

「ちょっと恥ずかしいな。こんなカワイイ服着たことないから…」

「ん、うん、まぁ、いいんじゃない」

ミクルと目が合うと、俺の方がなんだか照れてしまう。


このまま俺はミクルと一緒にこの部屋で生活するのか?

それはちょっと嬉しい…いや、それは困る。

出来るだけ早く安心して暮らせる場所を見つけてやるしかないな。


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