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第2話 カギと戦争

“元の世界へ帰りたい”よりも“女の子の裸が見たい”って邪念の方が強かったのか。

元の世界へ帰れないショックと、この世界もまんざらではないかもと思う自分に驚きながら、俺は深い深い夢の底へと落ちてゆく…


目が覚めると夢だった。なんてオチはなく、再びソファの上で目が覚めた。

「いつまで寝とるんじゃ、もう朝じゃぞ。と言ってもこの部屋では時間が分かりにくいがの」

老人は向かいのソファでお茶をに飲みながら、俺が起きるのを待っていた様だ。

眠い目を擦りながら起き上がる。

テーブルには硬そうな丸いパンとカップに入った牛乳らしきものが置かれていた。

「簡単じゃが朝食じゃ。お前さんたちの世界の物と然程変わらんはずじゃ、早く食え」

ぶっきらぼうに言い放つ老人。

俺はパンを取ろうと手を伸ばすと、老人は俺の手を遮る。

「こら!何も言わずに食うつもりか?」

老人に睨まれてしまった。

「あ、すんません。い、いただきます」

両手を合わせ、頭を下げる。

「うむ。よろしい」

この世界へ来て初めて口にするものだが大丈夫なのだろうか?

俺はパンを手に取り少し考えるが、空腹には勝てず一口食べてみる。

思っていたよりも美味い。牛乳も特に変わらないようだ。


「食べながらでいいから聞け」

老人は真剣な眼差しで話し始めた。

「お前さんを助けたのには理由がある。一言で言えば後継者。このカギを託せる者を探しておったのじゃ。わしもそう長くはない。そんな時助けを求めるお前さんを見つけたのじゃ」


俺はあのままじゃ死んでいた。

この老人に助けられたから今ここにいる。

これも俺の運命なら受け入れよう。

さぁ、楽しい異世界ライフの始まりだ!!


「わかった!助けてもらった恩もあるし、老い先短い老人の頼みなら断る理由もない。さぁ、そのカギを渡しなさい!」

俺は意気揚々と老人へ手を差し出していた。

「ダメじゃダメじゃ、そんな簡単に大事なカギをやれるわけないじゃろう。わしが一人前と認めるまでは修行を積んでもらう。ビシビシ鍛えてやるから覚悟せい」

老人は嬉しそうに目を輝かせていた。

「え〜修行かよぉ。だり〜なぁ」


こうして俺の修行の日々が始まった。

すべてはあのカギを手に入れるため。

そして愛しのセリーナ姫に再会するためだ!


老人と俺は修行のためこの部屋で暮らすことになった。

狭い部屋で窮屈な生活を強いられるのかと思いきやそうではなかった。

部屋には全部で六つの扉がある。

それぞれが特殊な空間と繋がっており、広さも間取りも自由に変えられる部屋になっていた。

一つは正面にある外への扉。カギを使えばどこへでも行ける。と思う。

外への扉を背にした状態で、左右の壁に二つ扉がある。

右の一つはキッチン。老人がため込んだ大量の食糧が保管されており、中で調理も可能。

右のもう一つは宝物庫。ここには金貨や銀貨、この世界のお金。それに老人のお宝、貴重なマジックアイテムも保管されている。当然俺は立ち入り禁止。

続いて左の一つ目はクローゼット。多種多様な衣装が保管されている。なぜか老人のサイズよりも俺に合うサイズの服が多いような気がする。しかも女物の衣装まである。あの老人の趣味が分からない。武器や防具もここに保管されている。

左のもう一つは寝室。トイレと風呂もここにある。当然ベッドは二つに増やしてもらった。できるだけ離して。

そしてもう一つ、向かい側にある扉は板で打ち付けられている。老人曰く壊れているので使っていないとのこと。開かずの扉…気にはなったが、開ける気はしなかった。


というわけで、衣食住の心配はなく俺の修行生活は1年間続いたのであった。


毎日の足りこみに、筋トレ。

時に冷たい滝に打たれ。

時にジャングルでのサバイバル。

時にダンジョンでのモンスター退治。


この一年で俺のレベルは確実に上がっただろう。


そんなある日、老人改め師匠は言った。

「この一年、わしのシゴキによく耐えた。三年はかかると思っておったが、まぁ本日をもって修了とする。お疲れさん!」

「ありがとうございます!では早速カギを…」

跪き両手を差し出す俺を一喝する師匠。

「たわけ!簡単に大切なカギを渡せるか!最後に一つ条件がある。ついて来い!」

師匠はカギを使い、扉を開ける

師匠を追って外へ出ると、そこは監視塔の頂上のようだった。


薄暗く垂れこめた雲に覆われた空。

眼下に広がる一面の荒野。

そこでは狂気と怒号が鬩ぎあっていた。

戦場。人と人の塊がぶつかり合い、殺し合う。

いや、よく見ると片方の軍団は人ではなかった。


「ここは…」

「戦場じゃ。この世界では人間と魔族が100年も戦争しておる。お互いの国境を押し広げるため小競り合いを繰り返しておるのじゃ」

眼下に繰り広げられる大規模な戦闘を呆然と見ている俺に師匠は話し続ける。

「条件というのは、お前さんにこのバカげた戦争を終わらせてほしいのじゃ」

「戦争を終わらせるって…俺にそんな大それたこと出来るわけないじゃないですか!」

「まぁ、お前さん一人の力でどうこう出来る問題ではないかもしれん。しかしカギを持つ者として少しでもこの世界を変えてほしいのじゃ」


俺はこの世界のことを俺はまだよく知らない。知らなさすぎる。

人間のことも魔族のことも、何で戦争しているのかも知らない。

多くの情報を得るためにもどこへでも行けるカギは必要だ。 

(何のためにあんな厳しい修行したと思ってるんだ。)

戦争を終わらせるなんて出来るとは思えないが、俺の行動で何かが変わるならそれも面白いかもしれない。

そして、元の世界へ帰ることこそが一番の目的なのだ。

そのためにカギは絶対に手に入れなければならない!


「分かりました。俺に何が出来るかはわかりませんが、この世界を少しでも変えられるよう前向きに努力します」

俺はとにかく力強い口調で言ってみた。

その言葉に強く頷く師匠。

「うむ、やってくれるか…」




部屋に戻ると師匠は改まって俺を見る。

俺もいつになく真剣な眼差しで師匠を見る。

師匠は首からカギを外すと両手でゆっくりと俺へ差し出す。

俺はカギを両手で受け取り、しっかりと握りしめた。

「これでお前さんはカギの守護者となった。この部屋にあるものは自由に使うがよい」

「ありがとうございます!」

「これでわしも思い残すことはなくなった。あとのことはよろしく頼むぞ」

老人は目を閉じ、しわくちゃの顔に笑みを浮かべる。

「師匠!」

老人の姿は次第に透き通るように薄くなり、次第に見えなくなっていく。

そして主を失った薄茶色のローブだけが音も立てず床へと崩れ落ちる。


・・・・・・・・


部屋には俺一人になった。


俺はこれからどうすればいいのか?

どうすれば戦争を終わらせることが出来るのか?

正直今のところノープランである。

何もわからないままの俺をほっぽっていなくなってしまう師匠も師匠だ。

あ、なんだか悲しみよりも怒りが湧いてきた。

俺は思わす叫んでいた。


「師匠のバカヤロー!!」


虚しく声が響き渡る。


“呼んだか?”


気のせいか師匠の声が聞こえたような。

周りを見渡してみたが誰もいない。いるはずがない。

ふと目の前に青白い火の玉が浮かんでいる。いわゆる人魂である。


“誰がバカヤローだ!この野郎!”


俺はお化けが苦手である。そのまま気絶した。


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