劇
――
「え?」
俺に指摘されて、黒瀬はキョトンとする。
「お前が裏切り者だよ、黒瀬」
「な、なんだよ、それ」
「なんだよって、言っただろ皆を疑うからってさ、付き合ってくれないのか?」
「あ、ああ、なんだ、いいよ、俺が裏切り者ってことで話を進めるんだろ」
「ああ、じゃあまず聞くぜ、黒瀬、お前は裏切り者か?」
「違うよ」
「分かった、黒瀬、これから色々と話していくわけだが、情報共有した部分については今更説明しない。だから塚本が言ったどうして自分達でなければならなかったのか、という点から始める」
俺は続ける。
「結論は一つ、俺達は全員身寄りがないか孤立無援の状態だったからだ。俺達が全滅しても、そんな騒ぎにもならない程にな。まあ考えてみれば選定する上では当たり前のことだ、それこそ、普通の学生たちを狙えば集団失踪事件として警察が大々的に捜査をする。だが警察が明確に事件性が認められない限り捜査をしない事例がある、それが所謂「不良」と呼ばれる連中が失踪した場合だ」
普段から家に寄りつかず、学校にも通わず、世間からは見捨てられ、仮にいなくなってもそれでむしろ喜ばれている。
そもそも仮に不良が失踪したところで周りは「何かやらかしたから自分から行方をくらませている」という程度にか思わない。なんといっても家族も把握していない、かつ把握しても行方不明になったところで場所も分からない。
「これらを前提とした時にさ、ある事実が分かる。それはな、俺達が登場人物として選ばれたのは、あくまで偶然の産物だってことだ」
「偶然の産物?」
「そうだ、登場人物を誰にするにあたり、色々な候補があった筈だが、同時に一番の難題でもだった。この情報化社会は、ちゃんとやり方さえ気を付けていれば信憑性の高い情報を仕入れることができる」
「とはいえ膨大な情報の中で、選定作業だけでも膨大な手間がかかるのは分かるだろ。その中で身寄りがない孤立無援の状態だった俺達が偶然に一堂に会したことは、お前らにとっては「キセキ」に等しい出来事だったはず、説明会の最後でピカトリクスが言った「キセキの学級」ってのは、そういう意味だ」
俺はこぶしを握り締める
「そうだよ、そんな俺達が、例外なく、一堂に会してしまった、それがお前らに目をつけられてしまったんだ」
「さて、ここから大事なんだが偶然の産物により登場人物が決定した「後」のことだ。黒瀬、お前がもし裏切り者だと仮定した時、その後何をするのかを考える」
「これは難しくない、というよりも少し考えれば簡単に答えが出る。それは「俺達が登場人物として相応しいかどうかを確認する」ことだ」
「そして俺達が登場人物として相応しいかどうかを確認することと、かつ今回のゲームの勝利条件である裏切り者の役割を持たせるための条件を加えさせる、となれば一つしかない」
「実地調査、つまり転校さ」
「そう、転校、俺達の下へ送り込み、実地調査を経て俺達が登場人物として相応しいと認定し、計画にゴーサインを出したのさ」
ここで説明を終える、黒瀬は少し考えてこう切り返してきた。
「なるほど、確かにお前の言うことはそのとおりだと思う、だがそれだと俺が裏切り者が論拠にはならないような気がするが」
「ああ、だから俺はピカトリクスに質問したのさ」
「え!?」
「裏切り者はいつ「転校」してきたのか、ってな」
「!」
「そして、ピカトリクスがこう答えた「俺達の中で一番最後に転校してきた」と、そう、中学3年の初め、親元を飛び出し、進級と同時に転校してきたお前だよ黒瀬」
「…………」
「そしてそれが俺達を殺す順番、転校してきた順番が、殺す順番だったんだ」
「ザワが思い付いた出席番号ってのは間違ってはいたけど悪くない発想だと思ったんだ、だから色々考えた、誕生日だったり、身長だったり、学力だったり、性別だったり、順番って本当に色々な理屈をくっつけてつけられるものだよな」
「その中でどうして転校だと思ったんだ?」
「あの登場人物の裏設定、まさに出席番号の他にその誕生日だったり色々な理由をくっつけられるものがこれ見よがしに並んでいた。だが単純にそれを殺す順番としてしまうと説得力が無い」
「説得力って」
「違う、この場合の説得力ってのは、俺達に対してじゃない、お前たちの自分達に対しての説得力だ、要は誕生日順なりに殺して他のメンバーが納得するか否かだ」
「…………」
「ならお前らが納得する理由は何なのか、それは二つの条件を満たす必要がある。まず散々言った殺す順番がヒントとになっていなければならない点、これがまあ条件というよりも、前提条件と言い換えた方がいいか」
「この前提条件を踏まえると、登場人物紹介の欄に書いてあった誕生日等だと「「一回の権利行使で」裏切り者特定にはならない」から採用できない、難易度調整のツールとしては融通が利く最適装置だが、その方法はもっともやってはいけない悪手の一つだからだ。だからこそこれ見よがしに並べたのさ、それを気づかせるために」
「さて続いて二つ目の条件についてだが、これらを踏まえて俺達の中で「固有の順番」を考える必要がある。この登場人物欄での固有の順番であり登場人物欄にヒントがあり、納得できる理由、それが転校順序だ」
「ついでに言えば、俺達を登場人物させることを決定し、この日の為に俺達に姿を現した始まりの日、そう捉えれば劇的って要素もお前ら好みか?」
「さて難易度調整のツールとしては最適だったが、ここでピカトリクスは一つミスをした、それは、殺す順番があるということを「重要なヒント」だと俺に気づかれてしまった事」
「これは推理物でよくある見立て殺人じゃない、順番を誤魔化したりトリックを誤魔化したりそういったツールの役割は求められていない。だがピカトリクスは頭が切れるからな、俺に気付かれてしまうと気づいたのさ」
ここまで説明を切ると、黒瀬が苦笑する。
「確かにピカトリクスが転校した日は俺が転校してきた日だ、その論理でいえば俺が裏切り者ってことになる、だがな、転校するってのを論拠とするには、いくつか疑問が」
「さて、こんな感じで色々な言い逃れが出来てしまうと考えた」
「…………」
「何故ならこのゲームのクリアのためにしなければならないことは二つあるからだ。一つは裏切り者が誰かを特定すること、もう一つが、今みたいに言い逃れをするからそこから詰めて自供させることだが」
俺は冷めた目で黒瀬を見る。
「悪いな、2つ目についてはもう終わってんだよ」
「え?」
「俺はさっき、ピカトリクスに国井が自殺したことについて、これはお前達の不祥事だ、故にスガの分も含めて一日で2回権利を使って行使させろってゴネたんだよ、んでさっきも言ったとおりその要求は通ることになり」
「俺は既に一日に2回の権利は既に行使済みだ」
「!!」
明らかに黒瀬に動揺の色が出る。
「さて、一つ目の質問は裏切り者はいつ転校してきたのか、そして二つ目の質問、俺はピカトリクスにこう聞いたのさ」
「お前が知っている「黒瀬涼と名乗る人物」のこの計画に基づくすべてのことを包み隠さず教えろ、とな」
「つまり、自供はもう既になされている、お前じゃない、お前の共犯者がな。知ってるか? 刑事司法だと共犯者の自供は証拠になるそうだぜ? 証拠を見せろというのならピカトリクスにもう一度言わせようか?」
「…………」
黒瀬はじっと聞いていたが、すっと、雰囲気が変わる。
「そんなことをしたら、興ざめもいいところじゃないか?」
声質が変わり、ピンと空気が張り詰める、一気に重力がかかり体が重たくなる、そんな錯覚に陥る。
黒瀬は髪をかき上げてオールバックにする。
髪をかき上げる、自分が美男子であることを知っていて、それで如何にカッコよく見せるか、といった俺の知っているチャラい仕草ではない。
オールバックにするだけで髪型以上に変化し、正体を現したのだろう。
「全く同じことをピカトリクスにもいわれたよ、だがそれはお前たちが無能だからだ、文句はお門違いだぜ」
「そうだな、まあお前に無能って言われるのなら、それを甘んじて受けないとな」
黒瀬はじろりとピカトリクスを睨む。
『自殺者が出た時の説明をしていませんでした。それを盾に一日に二回の権利行使を迫られました、こちらのミスを突かれてしまいましたね』
「ふざけるな、一日2回だと? 却下することも十分に出来た筈、そっちの方が面白いと思ったんだろう?」
『ふふっ、権利行使の2回を迫られた時、私は笠見さんにゲームクリアされると判断しました。となれば司会進行役として出来る最後のことは、場を盛り上げることですからね』
「盛り上げるか、そもそもお前は笠見に甘すぎるようにも思ったがな」
『おっと、実際にゲームが始まった後は、役割についての文句は言わないし、聞きません、それが私たちのルールだったはずです。貴方ももっと上手に動けたんじゃないですか?』
「俺の場合はなまじっか付き合いがあるから、挙動を悟られない様に振舞うのにリソースを割く必要があったからだよ。っとまあ、そうだな、確かに言いあっても詮無きことか」
と2人で当たり前のように会話をしている、その光景に自分で暴いておきながら何故か不思議に見える。
その錯覚を振り払い俺は2人に問いかける。
「そういえば、裏切り者を暴いた後の段取りを聞いていないが」
俺の声に黒瀬が答える。
「クリアしたらここで説明する段取りになっている、ピカトリクス」
『はいはい~、見事な推理「劇」でした、笠見さんクリアおめでとうございます、貴方は見事、裏切り者の正体を突き止めました』
いつかの最初の時のように、スカートを掴み、トンと踵を鳴らす、ピカトリクス。
そのモニターの横に立つ黒瀬。
「もう面倒くさいこと言わず、答えてくれるのか?」
「お互いの裁量の範囲内ならな、というかピカトリクスはどこまで話したんだ? お前の推理とおり、俺は裏切り者役として入っただけで、今回のゲームで細かいルールやピカトリクスがお前と何を話したなんて、本当に分からないんだよ」
「それは分かっている……」
なんだろう、本人が自供したら色々と話そうと思っていたんだが、言葉が続かない。
黙ってしまった俺を見て黒瀬が目を細める。
「俺が裏切り者だって知っていて、責めるようなことはしないのか?」
「涙ながらに訴えれば、警察に自首でもしてくれるのか?」
「その希望には添えない」
「だったら意味が無いさ」
「…………」
「…………」
「なあ黒瀬、一つ聞いていいかい? 大城の気持ちは知っていたんだよな?」
「え? ああ、もちろん、知っていたぜ」
「そうか、実はさ、俺は個人的に応援していていたんだよ。しっかり者でいつも迷惑ばっかりかけている大城の恋路だからな。まあお前に一目ぼれって「顔で選んだかぁ」なんて茶化したりもしたけど、実るのなら、協力はなんでもするつもりだった。谷森は塚本を応援するとか言っていたけど、どっちみち仲間の女と付き合うのなら、付き合っている間だけは、浮気は絶対にさせないとか話していたんだよ、知ってたか?」
「ああ、谷森が律儀に言ってきたからな「部外の女なら何人と付き合おうが何股かけようが自由だ、それで軽蔑したりしない。だが仲間と付き合うのなら、二股は絶対に許さないし、軽蔑する」ってな」
「ははっ、アイツらしいな」
「笠見、お前だってそうだろう、俺が加奈子ちゃんと話している時、マジな殺気をお前から感じてたんだぜ、肩でも触れようものなら殺すって」
「ふん、当たり前だ、加奈子だって年頃の女の子だ。お前みたいな年上爽やか系の2枚目と交流があれば惚れることも十分に考えられる。俺は大城が例外だなんて甘い考えはしない。その時の為に色々想定していたな、まあお前は仲間だ、付き合って1年、お前が一切の浮気をせずに一途に加奈子を思い続けるのであれば、手を繋ぐことを許可しようと思っていた」
黒瀬は思わず吹き出してしまう。
「お前は本当に変わらないよな、加奈子ちゃんもこれでよく兄貴を慕っているよな」
「何とでも言え」
「それと、マジで二股とかかけたことないんだけどさ」
「事実でも嘘でもどうでもいい、俺も谷森と同じだよ、仲間と加奈子以外なら三股だろうが四股だろうがな、男の人情舐めんなよ」
「それは感謝すればいいのかまったくもう、しかしこのゲームでのお前は凄かったな」
「大したことはしていない」
「いやいや、水着泥棒事件の時にお前が見せた推理「犯人を捕まえるためには、犯罪の性質と犯人の性質を分析すること」って言った言葉、成程って思ったぜ、結果お前の行動がこのゲームの根幹を作ることになったんだ、探偵役はお前しかいないって思ったし、俺のその進言は間違いじゃなかった」
「そうかよ、しかし水着泥棒事件かー、逞しかったのは俺らじゃなくて我が女性陣だったなぁ」
「ぷはは! 怯えるどころか、奮起していたからなぁ。俺達が捕まえた水着泥棒をリンチしようとして、俺らが逆に止めたっけ」
「ああ、んで折角だから事件解決記念に仲間たちと一緒に海に行こうと計画したのにさ」
「これは女子会だから男子は来るなってな、あれはないよなぁ、俺達頑張ったのに」
「下心があったのは認めるけどよ、こう、別に見るぐらいは良いじゃないかと思うんだよなぁ」
「全くもってそのとおり、ああ、そうそう、2学期の時さ」
と黒瀬と思い出話に花が咲く。
ああした、こうした、誰があの時こうだった、誰がこの時校だった、思い出話に盛り上がる。
ああ、楽しい、本当に楽しい、仲間と会話をするのは本当に……。
「なあ黒瀬、裏切り者役のキャスティングに一ついいか?」
「なんだ?」
「お前の役割、その中で一番やってはいけないことは情にほだされることだ。お前らにとっても一番危惧していたことだった筈だぜ、なんせゲームが崩壊してしまう。俺達と1年以上の友人としての付き合いで、本当に裏切り者の役を果たせるのか、果たすのに「良心の呵責」がはなかったのか……」
俺の言葉に一瞬だけ間を置いた後。
「だから俺が選ばれたんだよ」
本当に変わらず、黒瀬はこう答えた。
「…………本当に人間か、お前?」
その言葉に、黒瀬は何も答えず、何故か寂しそうな顔をして告げた。
「なんで泣いてんだよ、笠見」
「お前と一緒にするな、俺にとって仲間は、全員大事だったんだよ」
「そうか……」
寂しい表情のまま、一言だけ返して、それも途切れる……。
『如月』
珍しく、空気を読んでくれたのか、会話がこれ以上続かないことを悟りピカトリクスが呼びかける。
そう、如月、如月蓮、それがこいつのピカトリクスが知っている名前だ。
「なんだ?」
『ゲームはクリアされました、あとは所定の運用のとおり、こちらに来てください』
「わかった」
と画面脇の壁に手を触れると、自動で開いた。
黒瀬は扉の中に入り振り返る。
「「…………」」
お互いに無言で見つめ合ったまま「黒瀬」は、姿を消した。
ここで俺とピカトリクスだけになる。
『笠見さんは素晴らしいです』
『お世辞抜きに私の出番は本当になかった。私は司会進行役として貴方の推理とおり、詰みの状態にならない様に難易度を緩めることを考えいたのですが、とんでもないですね。緩めた瞬間に貴方は即座に見抜いて詰め寄ってくるので、油断できなかったですし、失言もしました』
『それにしても、色々と盛り上がる要素はあったと思うんです、ありがちにパニックになったり、疑心暗鬼に陥ったり、笠見さんの摩耶さんとの恋愛も好意的にとらえていたんです、こういった物語のスパイスとなりうるものでしたが、それもなかった』
『何より、凄いと思ったのは、隠れて権利行使をする人間がいなかった事』
『これはもうあるという前提で進めていました。人間関係が崩壊しては、それこそ詰みになってしまいますからね。考えうるあらゆる想定に対応するつもりでした。それこそ殺し合いに発展することも考慮していたんですよ? その際の難易度調整や補填措置としての役割も期待されていたんですがその必要すらなかった』
『私は非常に満足しています』
「講評は以上か?」
『もっと話したいぐらいですが、万感の思いでこれ以上出てきません。しかしそれにしても、ずいぶん落ち着いているんですね?』
「戦いにおいて、一番大事なのはなんだかわかるか?」
『? その口ぶりだと、勝つことではないのですか?』
「勝ち負けってのはただの結果だ、大事なのは「負けた「後に」どうするか」だよ」
『勝った後は含まないのですか?』
「勝ちってのは、自分たちの主導で物事が進むから流れに沿えば自ずと流れに乗れる、だが負けは相手の主導で話が進む、だから相手の出方を探る必要があるからな」
『つまり?』
「つまりさ、ゲームの「エンディング」を迎えるにあたり、必要な手順は何なのかってことだよ」
俺は自分の首輪を指さす。
「このギミックで強制睡眠剤を注入、俺たちを無力化する、そして俺達を日常に返す」
『お見事、本当に貴方は主人公として最高でした。正直全滅エンドが8割がただろうと思っていました、だからこそ一つ教えてください』
「なんだ?」
『黒瀬が裏切り者だと確信を持っていたのに、それこそ不意をついて拘束するとか、色々とやりようがあると思うんですよ。正直、彼は捕まり、拷問される覚悟までしていました、貴方なら、その程度の裏をかくことぐらいはできたはずです』
「じゃあ逆に聞くぜ、してどうするんだ?」
『…………』
「結果は同じなのさ、拷問したとしても、結果は変わらない。現に黒瀬の自供は代わりにお前から聞いたし、このゲームについては元より登場人物以上の知識は与えられていないと思っていたからな、お前の正体が突き止められるのなら話は別だが」
『素晴らしいです』
「はっ、馬鹿かお前?」
『え?』
「それはただの理屈だ、お前にはわからないだろうな、仲間を痛めつけても気なんて晴れないんだよ、今はただ、何故だ、どうしてだって、悲しいだけなんだよ」
『…………』
「さっさとこれからの段取りを説明しろ、ピカトリクス」
『……はい、まず笠見さんの推察どおり、首輪から強制睡眠剤を注入、皆さんを無力化したところで回収します』
『返す場所については色々考えましたが、神代中学校にしました。皆さんが一緒に寝た教室、そこで覚醒します、元より相沢さんが申し込んだ日付はこちらの方で自動更新しておきましたので、いることについては問題ありませんよ』
『加奈子さんについては、誘拐してからの今日まで監禁状態だったものの、不便なく過ごすようにしました。彼女も落ち着いていたので手間はかかりませんでしたね』
『それと加奈子さんには笠見さんが置かれている状況を簡単に説明してあります。ゲームクリアと共に神代中学校で目覚める段取りをしてありますので、覚醒の後に本人から説明を受けるように言ってあります』
「その点について聞かせろ」
『なんでしょう?』
「俺たちがクリアしなかったら加奈子をどうするつもりだったんだ?」
『もちろん無事に解放しますよ、ゲーム以外で殺すことはないと、説明会で明言しましたからね』
「そうか」
『そうそう報酬の3億についてですが近日中に振り込みますので確認をよろしくお願いします。高額の金額をが振り込まれると色々不便もあるかもしれませんが、ご容赦を』
「……そうか、わかった、ピカトリクス」
『なんです?』
「お前のこのゲームにおいての身上話を聞かせてくれ」
『その質問については「特典」をご利用くださいませ』
「そうかい」
『あ、そうだ、条件付なら話しますよ』
「なんだ条件って?」
ここでピカトリクスは、初めて「妖艶」に微笑む。
『摩耶さんから私に乗り換えません?』
「お前は、絶対に殺してやる」
『ふふっ、ははっ、是非殺しに来てください笠見さん、それでは、ごきげんよう』
ピカトリクスは、お嬢様のように淑やかに振る舞い一礼する。
ブツっと、意識が途切れた。