十二話目 質問しよう!
「おはよう、ハルヤ」
「……おはよう、」
俺の最初のおはようは妹のセテルに対して言うべき言葉だったのだが、今日は違った。
この声とこの顔はセテルではない。
覗き込むのは真っ白でスベスベな顔のカナン。もうちっと成長の見込みがあれば良いものを、出会って日も浅い遠い親戚に起こされた気分だ。小学生くらいのな。
「そこ、退いてくれないかしら?……朝はそこでモーニングコーヒー啜るのが至福の一時なのよ」
「渋いな……」
ロリの癖に、モーニングコーヒーか。昨日とのギャップが半端ない。
俺のいっこ下のセテルだってコーヒー飲めないぞ?
つまり、まぁ、俺はコーヒーが飲めないということなんだがな。
……でも、普通か。
中身はババァですもんね!(失礼)
「なんとでもいいなさい。……いえ、ダメね。言うのも思うのも控えなさい」
カナンは俺の目を見て、ジト目でこんなことを言い放った。
どうやら、不穏な空気を感じ取られたらしい。釘を刺される。
……まぁ、その物言いだと俺に人権が無いことになるんですが、どうだろう?
この世界の法律がどうなってんのかはよく知らないけれど思想の自由くらいはあってほしい。
「とりあえず退きなさい。……ていうか、一晩泊めてやったんだから、今からエスタの所行って新しい部屋でも貰ってきなさいよ」
はいはい、と適当に返しつつ、俺は少し考えた。
このままここを去ってしまって良かろうか?……と、
絵面的には好めないが、コイツ結構常識人だし、コレからの部屋決めで誰かと相部屋になっても困る。
見ただろう?……あの廊下通ったときのここの住人たち言葉も通じるかどうかも危ういんだぞ?
だからこそ、安全牌を今のうちに確保しない……と……………お?
……あれ?
なんで俺、今しがた相部屋になるかもしれない……なんて考えたんだ?
この屋敷はとんでもない大きさだ。
ならなんで………?
「退くのはいいんだけどさ……、ちょっと考えてみたんだが、俺が貰えるだろう新しい部屋って、あるのか?」
一拍、沈黙が生まれる。
やはり、カナンも少し考えたようである。
何故エスタが『カナンの部屋』を客室として提供したのか?、を。
「……こんな広い屋敷はそうは無いわよ?一部屋二部屋くらい余裕でしょ?」
なんで俺に聞くの……?
とは、考えない。カナンは自分の推論があってるか不安だから尋ねているんだ。まぁ、本当のことは知るよしも無いけれど、『館が大きい』……それくらいは見たら分かる。
当然、俺も見たときはそう思った。
そうだとしても、空き部屋が無かったから、客室として今は誰も使ってないだろうこの部屋を提供したんじゃないか?
既に満員だったからこそここを選ぶしか無かったのではないだろうか?
その旨をカナンに伝える。ふーん、と言いつつもカナンは頷きつつ話を聞いていた。カナン、マジ優女。
「――教える部屋間違えたんじゃない?」
「……いや、それはない。エスタがこの部屋を紹介してくれたときに『昔、ここに住んでた人がいたんですが、めったに帰らなくて……』とか言ってたぞ?……それって、カナンのことじゃねーのか?……というか、連絡くらい入れてやれよ」
「……うっさいわねぇ、……忙しかったのよ、あの時は!……もし仮に時間があったとしても、まさにゴブリンの大群が山のように攻めてきたんだからっ……!」
とは言え、一辺諭してみると、カナンは沸点を超過して立て続けに捲し立て、そこから、頼んでもないカナンの長編アドベンチャー物語が始まり、詰まる所長々しい言い訳からの自慢話が始まった。全米が鼻で笑っちゃうようなものである。
まぁ、カナンに子供っぽいところもあって新鮮でしたマル。
気持ちって表に出るというけど本当だったんだな……。同様にクライスは非常に分かりやすい典型的なソレなんだが。隈とか重なりすぎて群青色になってる。
でも、絶対連絡するの面倒になった奴だろコレ……
はてさて……、本当のところ、どうなのか疑わしいが。
まぁ、気にしても仕方のないことではあるし、言及できるのはこの館の持ち主であるエスタくらいのものだろう。
スルーさせてもらおうか。
それに、今のところエスタとはペットのドラゴン『エナ』のことで話があったし、好都合だ。
まとめて聞いてみることにした。
そうと決まれば、早速動いてみるかー。
寝起きなのでラジオ体操第一を一巡してから、
「解った。……一応泊めてくれたんだし、礼くらい言わせてくれ……じゃあな、一晩泊めてくれてありがとう」
と会釈すると、さっきの長編アドベンチャーはぴったりと止まり、
「どう、いたしまして………?……(別にいいのにさ)」
疑問符を浮かべられて、ちゃんと伝わっているか不安だったが、ボソボソと何か言われたような気がするけど全く聞こえないのを見ると何事か俺を見ながら思案中の御様子。邪魔するのもいけないかな……と思い。俺はカナンの部屋から出ていった。
最後までカナンの視線は背中にビンビン突き刺さってたけどな。
……さて、エスタの部屋の前までやって来た。
前みたいなヘマはしない。キチンとノックを四回する。ちなみにノックは二回だとトイレ、三回だと親しい相手に、四回は礼儀を重んじる相手へのノックなので要注意。俺はもう使わないと思ってたけど、異世界で使うはめになるとは……、
上流階級な御方と知り合う機会とかまるで無かったからなぁ。あの村にいた時はなんとなく二回ノックしてました。一応もう一度言うが二回ノックはトイレだから真似しちゃダメだからな?
まぁ、エスタに対しては三回でも良いんじゃないかと思いもする。よし、次から三回にしよ。……決断はや。
とか自分にツッコミながら考えていると、ドアの向こうから、ドタンドタンと慌てるような音が聞こえてきた。
……見られたくないものでもあったのだろうか?
それともただドジなだけ?
とにかく、前者の場合は経験もあるし、見たこともある。以外と静かに片付けたつもりで大きな音が鳴ってることがしばしばあるので、いきなり友人が家に来たときは気を付けた方がいいと思う。
あと、女性がこれを男性にやると、男性側が『好感度足りてないんだな……』ってなるから―――うん、何も言うまい。
そうこうしている内にやっとドアが開いた。
ワンピースのようなゆったりとした寝間着を着こんだエスタが櫛を片手に急いで出てくる。髪をとかしていたのか。
「お、御待たせしました……ふぅ」
やはり、ドタンドタンしてるからその表情には疲れが見え隠れしている。
「寝てたの?」
「……それ、は、どういう…………、…………!!」
やっと寝間着を見ていた俺の視線に気がついたようで、エスタはリンゴみたいに顔を真っ赤にした。
「……あははは!、そんなに照れなくても良いのにさ。エスタ、まだ皆寝てる時間なんだぜ?」
注意、まだ五時です。
「いえ、色々考えてたら眠れなくて、失念していました。私ったら………。……あの?」
エスタは首を少し曲げてこちらを見る。猫みたいな愛らしさである。つまり、可愛い。
可愛い女の子には紳士は優しくしなければならないのである。可愛くない女の子はノリで優しくしなければならないのである。
どっちも変わんねー。
さて、と。俺は詳細を問い返した。
「何?」
「あの、着替えるので……」
俺はそっと扉を閉めた。引き戸なのでエスタに怪我は無い。万事オッケー。
続く。




