悪魔の城
この身一つで武功を立て、王国の軍を率いるまでに出世した自分は特別な人間だと思っていた。
自分は持つもの。故に持たざるものたちに与えるもの。
そう思っていた。
しかし、国王はそうでは無かったようだ。
歳を重ね、軍の役職の任を解かれたあとは、首都から遠い辺境の地へと追いやられてしまった。
そうして俺は表舞台から姿を消すことになった。
城の門は開けることも無くなった。
城にいた人間も、俺を恐れて数を減らしていた。
「血濡れの将軍」
よく考えればこの二つ名も、誇れる名前では無いような気がしてくる。
怯えられて生きる俺には相応しいのだろうが。
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城に数えるほどの人間しか居なくなって、初めて見覚えのない女を見つけた。
正直、覚えている人間などいないが、彼女ほど美しい人が居れば覚えられないはずが無かった。
「何をしている、出ていけ。」
美しさに息を呑んだが、嫌われ者の俺の城に潜り込んだモノ好きだと思えば冷たい声が出た。
「あなたのお力になりたいの。」
声まで美しい。
突き放そうとしても、彼女は否と俺のそばに居ようとしていた。
気恥ずかしいが、久しぶりに嬉しいと言う感情が生まれたようだった。
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どこへ向かおうとついてくる彼女。
寝室へ入ってもついてこようとする彼女にギョッとしたが、「ふふっ」と控えめに笑う顔に見惚れてしまった。
「俺はもう寝るんだ、朝に出直してくれ。」
「嫌です。」
きっぱりと返され困ってしまう。
どうしたものかと考えていたら、彼女は俺の寝室へと入ってしまう。
「寝るのなら、どうぞ眠って。」
ベッドに腰掛ける彼女をみてなんとも言えない気持ちにもなった。
こんなに美しい人が、いつも自分が寝ているベッドに無防備を晒している。
彼女の元に歩みを進め、横に抱き上げベッドの真ん中に少し乱暴に投げた。
怯えて出て行っても良いと思いながら。
「俺に構うとはこう言うことだ。」
「いいよ。」
そう言って手を伸ばす彼女。
「可愛い子。」
彼女のその声を最後にその先どうしようとか、考えた記憶が無くなっていた。
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「君は人間なのか?」
ベッドで彼女を抱き寄せながら聞いた。
「いいえ、悪魔よ。」
その答えを聞いて腑に落ちてしまった。
人間なら、怯えて俺の元に来るはずがない。
「可愛い人。」
そう言って俺の体に抱きついてくる彼女を見ると、人間かどうかなんてどうでもよかったのだと理解できた。
「悪魔なら、手加減をしなくても良いだろう?」
「ふふふ、どうぞいらして。」
「……子どもは出来るのか?」
「あなたが望むのなら。」
一体何人生まれることやらと己で笑った。
そうして再び思考を捨て去ってしまった。
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城から城下を見下ろせば、家の前で荷物をまとめている家が増えていた。
いつのまにか、城に自分以外の人間は居なくなった。
その代わり、彼女の仲間が少しだが増えて居る。
形は様々、人の形をしていないものも勿論あるが、俺にとってはどうでも良いことだった。
「ちちうえー!」
まだ幼い長男の声。
自分の子どもの頃と似て居る気はするが、どこか彼女の艶やかさが垣間見えるような子だった。
「あれ、ちちうえ、かなしくない?」
子どもは俺の感情に敏感だった。
自分の意思で移動できるようになってから、少しでも俺の胸にもやがかかると俺の元に寄ってきた。
母親に似たのだろう。
彼女もまた、そうした時にベッドに誘い慰めてくれる人だ。
「お前たちが居れば、悲しい気持ちなど忘れてしまえるよ。」
家族の眼差しが、こんなに暖かいものかと思う。
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何年かの時が経ち、鏡に映る自分の顔に何月を感じるようになった。
まだ若いような気持ちでいたこともあって、落ち込むほどではないが、そうかと思った。
彼女が腕を引く
と言うことは、思ったより俺は落ち込んでいたのかもしれない。
「俺も良い歳だろ。」
「関係ないわ。」
彼女の変わらない態度にホッとしてしまう。
自分を男として求めて居ると言うことに嬉しさを感じてしまう。
「城にある鏡は全て、捨ててしまいましょうね。」
「ああ、そうだな。」
そうして俺は時の流れを忘れてしまう。
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思い出したように城から城下を見下ろせば、人の姿を見ることは無くなった。
いつの頃からだったか、思い出す事は出来なかった。
こうしていると、いつも彼女が現れる。
そして、俺の手をひいてベッドへ誘う。
「君はいつまでも美しいな。俺も歳をとっていることを忘れそうだ。」
「ふふ、それは嬉しいわ。いつまでもこうしていたいもの。」
いつまで経っても変わらずに俺を求めてくれる彼女に、どうしようもなく嬉しさを感じる。
永遠であれば良いと思えるほどに。
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己が衰えてるのが分かる。
今日は立ち上がることすら出来ないらしい。
「父上」
自分を悲しげな顔で覗き込む長男の姿。
自分の若い頃にそっくりだった。
長男というには若すぎる見た目だが、母親がああなのだから仕方のないことだろう。
自分が老いて伏しているこの状況で、なんと恵まれたことだろう。
「母上を呼んでくれないか?」
「あら酷い、ずっとここに居るのよ?」
声がする方を見ると、美しいその人が立ち上がり自分の方へと寄ってきている事に気づいた。
「俺は君のおかげで幸せだった。」
「私も、あなたに会えて良かったわ。」
「俺は君のことが好きだ。」
「嬉しい、いつも言ってくれないのに。」
「この城は、君と子どもたちで好きにしてくれ。」
「心配しないで、あなたは立派な人だったわ。」
いつの間にか長男以外の子どもたちも部屋に集まっていたようで
その中にはまだ幼い見た目の子が居るのがまた笑えるようだった。
「お前たちのおかげだ、幸せだと感じながら伏せるのは」
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この国は、とある1人の男によって守られたと言っても過言では無い。
他国との戦争も、魔物たちからの脅威も、とある1人の男の働きは特にめざましかった。
他を寄せ付けない雰囲気を纏う男は、やがで軍の最高責任者にまで上り詰めることになる。
血濡れの将軍
敵も味方も彼をそう呼んだ。
「君のこれまでの働きに感謝の意とこれからを期待して、辺境の地を任せたい。」
王の言葉に将軍は目を丸くして居た。
人々の視線が王の言葉の返事を待って男に突き刺さる。
「っ……ありがたき幸せ。」
言葉を詰まらせながらなんとか返事をする。
軍を動かすほどの大人物でも、緊張することがあるのだと王は思った。
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辺境の地は魔物に脅かされる土地である。
それは、悪魔からすれば近くにあるいい食事の場でもあるということでもあった。
人々は生活を営みながらも日々恐怖を抱えて生きている。
そんな中、この地の城に入ってきた英雄は一際悲しみを背負って居た。
それが悪魔に分からないはずは無かった。
「新しい領主様ってどんな方なんだろうね?」
その話題一色と言っても過言では無かった。
何を隠そう、領民達は国の英雄のことを見たことが無い。
噂だけの存在になっているのである。
いつ城に入ったのかもわからなかった。
城はいつも静かで、夜になると灯りが灯ることから人がいるのだと言うことはわかる程度だった。
「一目でいいから見てみたいよなあ。」
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国の英雄が、とても怖かった。
机に向かって仕事はするけど、いつでも機嫌は悪かった。
「あの、メイド長……。」
申し訳なさそうな声を聞いて、ああまたかと思った。
「あなたも?」
「ごめんなさい!実家に戻らせて下さい!」
日に日に城に勤める人が減っている。
彼女はまだマシだ。
辞めたいと伝えてくれるのだから。
血塗れの将軍
恐ろしい二つ名と、短気な性格。
言葉を交わすことはなく、花を飾れば不要だと吐き捨て、休憩を促せば物が飛んできた。
目が合う時はいつでも眼光が鋭く、恐ろしい。
城で働いている者全てが、彼を恐れていた。
「あの、メイド長……。」
ああ、またかと思った。
「働きたいと言ってくださってる方が来てます。」
「えっ?」
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王は困っていた。
辺境の地を任せた英雄からの便りが無いのである。
こちらから送った手紙も、辺境への門を潜る事も出来ないらしい。
「一体何が起きている?」
「失礼します!」
「ああ、どうした?」
彼から聞いた話しに王は耳を疑った。
商人ですら辺境の地には入れないのだと言う。
門を通れるのは出て行く時だけで、住人でさえ出て行ったら入ることは叶わない。
ひょっとしたら、この国の英雄は辺境の地に辿り着けてすら居ないのでは?
辺境の地は、自分たちの領地として機能して居ないのでは?
あの地は元々魔物も多く、英雄と言えど相手をするには多すぎたかもしれない。
「人を呼んでくれるか?対処せねばならぬかもしれぬ」
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ある日、国の英雄の国葬が執り行われることになった。
英雄の体はそこには無い。
その英雄は、まだ生きて城に篭っているのだが。
それをする術は断たれてしまって居た。
「前の将軍様ってどんな人だったの?」
「とても静かで、強い方だったよ。男連中はみんな憧れてたんじゃないかい?」
「そうとも、憧れの的だぜ!あの方の偉業はきっと歴史に残るぜ!」




