第7話 ありがとうを囁く聖女
セコの話が途切れ、祭りのざわめきが再び耳に戻ってきた。
背中に感じる彼女の体温は、さっきよりずっと近く心に響く。
俺は深く息を吸い、口を開いた。
「……セコ、お前の気持ちはわかった」
背負ったまま、ゆっくりと。
「だけど、もうこれからはズルはするなよ」
背中から小さな息が漏れる。
「わかったわよ……タダシは、私がまた周りに迷惑──」
「違う!」
思わず強い声が出た。
「……違う?」
セコは戸惑うように呟く。
「俺は、お前がズルをすることで周りがどうかとか、ぶっちゃけどうでもいい!」
振り返るように背中へ言葉を投げる。
「俺は……お前が心配なんだよ!」
背中のセコが、ぴたりと動きを止めた。
しばらく沈黙が続いた後、かすかな声が背中越しに届く。
「……タダシ」
振り返ると、セコの顔は耳まで赤く染まっていた。
それから──セコの足の痛みも引き、
俺とセコは二人きりで参道を並んで歩く。
浴衣姿の彼女は、いつもの清楚スマイルを浮かべながらも、少し真剣な顔で俺を見上げる。
「もうズルはしないわ。タダシくんに嫌われたくないから」
その言葉に、俺は少し驚いた。
「……ならいいけど。ちゃんと守れよ」
だが、次の瞬間。
セコは袖の中から、こっそりと炭酸タブレットを取り出し、
それを金魚すくいの水槽にぽちゃんと投入。
シュワシュワと泡が立ち、金魚たちが驚いて次々にジャンプ!
まるで自分からバケツにダイブしていくように。
「……あら?私、網で全然すくってないのに、金魚の方から勝手にバケツに入ってくるわ!」
セコは全く恥じる様子が無い。
「お前……約束破るの早っ?
ってか、屋台で炭酸実験するな!!」
さらに俺は屋台のおっさんに振り返る。
「おっさん!?あんたも何で気付かないんだよ!」
するとセコが得意げに笑った。
「ふふん♪だってこの人、さっき射的でイカサマしようとしてたの、私が写メ撮っちゃったんだもん」
「おっさん、あんたもかよ!!」
結局、セコの袋には金魚が何匹も泳いでいた。
俺はため息をつきながら、つい口にしてしまう。
「ほんとお前のその嬉しそうな笑顔、ズル可愛いな」
「はぁ!? 見抜かれて嬉しいとかじゃないし!
ただ……その、得しただけ!」
けれど次の瞬間、セコは俺の肩に寄りかかり小さく囁いた。
「……さっきの言葉、嬉しかったよ♪」
笑いと温もりが入り混じる、最高の──夏祭りの夜だった。




