第1話 答案を操る聖女 ※冒頭のみ三人称
昼休みの教室。
ある女子生徒が先生の机に積まれた答案用紙を、まるで整理を手伝うかのように手に取っていた。
隣の席の女子が首をかしげる。
「聖子さん……何してるの?」
聖子は一瞬だけ手を止め、にっこりと清楚な笑顔を浮かべた。
「ううん、なんでもないわ」
そんな聖子の仕草は、まるで聖女のよう。
……けれど、答案の端には赤ペンで書かれた数字が、ほんの少しだけ不自然に塗り直されていた。
***
答案返却の時間。
先生が「聖子は満点だな。さすがだ」と言うと、クラス中が「すごーい!」と拍手で盛り上がった。
俺はふと、彼女の答案の端に目をやる。
(……ん?今、下に“92”って透けて見えたような……)
思わず声が漏れた。
「え、セコのこれ……92点じゃないか?」
その瞬間──「チッ……」
教室の隅から低い舌打ちが響いた。
まるでヤンキーがケンカ前に鳴らすような重低音。
(えっ!?今の舌打ち……誰!?
なんで俺に向けられた感じなの!?)
俺はビクッと肩を震わせ、慌てて周囲を見回す。
しかしクラスメイトたちは拍手の余韻に包まれていて、誰も気にしていない。
(俺だけ聞こえたのか?いや、絶対誰か“黙れ”って圧かけてきたよな!?)
心臓がドクンと跳ねる中、俺は口をつぐんでしまった。
その直後──周囲のクラスメイトが一斉に振り返る。
「タダシくん、何言ってんの?聖子さんがズルなんてするわけないじゃん」
「そうだよ、聖子さんは清楚で完璧なんだから」
「タダシごときが、学校一の美少女聖子たんを疑うなんて、失礼極まりないでござる!」
クラス全体が“聖女”セコを守るように庇い立てする。
俺は「いや、でも……」と口ごもった。
そのとき、セコはゆっくりと俺のほうを振り返る。
笑顔は完璧。だけど、その瞳は氷のように冷たく、無言の圧を放っていた。
──目で殺すような視線。
背筋に冷たいものが走る。
(この目はやばい……完全に“黙れ”って言ってる!)
「……いや、なんでもない」
俺は慌てて言葉を引っ込めた。
すると、セコはにっこりと微笑み、答案を胸に抱きしめる。
「そうそう、お利口さんね♪
タダシくん。あなたはな〜んにも見ていない、わよね?」
機嫌を良くした彼女はそう言って俺にウインクした。
(くそ……ゲス可愛いじゃねえか!)




