Act03:髪飾り
夕陽の逆行で見えなかった顔が、だんだんと見えるようになってきた。
「お前らどこ行ってたんだよ。心配するだろうが、行き先も言わずに」
人影の正体は、ここ最近ファイがお世話になりっぱなしの美容室の店長兼シディアとルビィの保護者──ウサピィである。
頭をがしがしかきながら、まったくもうと苦い顔をしていた。
「あれ? ウサピィ仕事はどうしたの?」
「忘れたのか、ルビィ。今日は定休日だぞ」
「でもウサピィさん、お店で何か作業してましたよね?」
「休みの日だからこそ、店の掃除と道具の手入れをしっかりするんだよ。それでも、半日もあれば終わるからな。午後からはこの前お客さんがお土産に持ってきた紅茶と茶菓子を食べてた」
お菓子という単語を聞いたとたん、シディアとルビィの目がくいっと釣り上がった。
「ウサピィ、ズルい! なんで一人で食べちゃうのさ!」
「いなかったお前らが悪い」
いやでも、その間にカップケーキ作って食べてたよね、ルビィちゃん。
「ウサピィさん、お菓子、もう残ってないんですか?」
「『みんなで一緒に食べてください』って言われたからな。ルチルの分も含めてちゃんと残してあるよ」
「さすが、ウサピィさん!」
「ボクは信じてたよ、ウサピィならきっと残してくれてるって!」
「ほほぅ、さっきまで俺の事を『ズルい』なんて言ってたのは、どの口だたかなぁ?」
調子のいいルビィに、ウサピィは笑顔のままピキピキと額に青筋を浮かべる。
必死に目をそらしてるけど、それって自分が言いましたって暴露してるのと一緒だからね、ルビィちゃん。
「で、説明してもらっていいか? ファイ」
「あ、はい」
ウサピィに促されて、ファイは事のあらましをかいつまんで説明した。
二人が魔法ギルドまでわざわざ、自信のない自信元気づけようとして来てくれた事。しかし、なぜかそこから一緒にケーキを作る流れになった事。そしてすっかり遅くなっちゃったから二人を家まで送り届けていたという事。
ファイが絡んでいると知ったウサピィは、ほんの少しばつの悪さから難しい顔になった。
シディアとルビィは、なかなか魔力を取り戻せないファイの力になりたくて、魔法ギルドまで出向いていたのである。
そしてその責任の一旦は、ウサピィ自身にもあるのだと。自分の施術が上手くいきファイが魔力を取り戻していたなら……。
そう思うと、怒るに怒れない。ファイのためでもあるが、それは同時にウサピィのためでもあるだけに。
「まあその、なんだ。悪いな、期待に応えられなくて」
「いいえ。原因は、ルチルさんの言っていたように、わたしの方にあるので。それに……」
前を歩いていたファイは、そこでひょいっとウサピィへと向き直り、
「ウサピィさんのしてくれる髪型、ギルドでも可愛いって評判ですから。ありがとうございます」
今できる精一杯の笑顔を浮かべた。
自信を取り戻す事はやっぱりできなかったけど、シディアとルビィのおかげでほんのちょっとだけだけど、明るくなれたような気がする。
うじうじするだけの今までとは違う、わずかずつでも前へ進めているような、そんな気がするのである。
「前より、優しく笑えるようになったんだな」
「はい。シディアちゃんと、ルビィちゃんのおかげで」
「えへへへ。シディア、ボク達のおかげだって」
「もっとがんばりましょう、ルビィちゃん!」
「調子に乗るなっ」
と、ビシッとシディアとルビィの頭にウサピィのダブルチョップが降ってきた。
頭を抱えてうずくまった二人は、涙目になりながらウサピィを見上げる。
「ギルドの人達に、どれだけ迷惑かけてたと思ってるんだ?」
「うぅぅ、私とルビィちゃんは、ケーキ作ってただけなのに」
「そうだよ、ウサピィ。誰にも迷惑なんてかけてないよ」
だめだ、全然わかっていない。ウサピィは心底疲れたようなため息をつきながら、おまえらなぁ、と目をギロリと釣り上げた。
あ、お説教モードに入っちゃったみたい。
「その時点で迷惑かけてるって、気付かないのか?」
「かけてないです!」
「そうだよ! かけてないもん!」
「ギルドの仕事せずに一緒にケーキ作ってもらってる時点で十分迷惑だろ!」
「だったらいいです。そんなイジワル言うウサピィさんには、お土産のケーキはありません」
「そうだね。ルチルと三人で食べよう。ユーディが来ない内に」
「あぁ、そのバスケットの中身はケーキだったのか。うまそうな匂いがすると思ったら」
ウサピィはふと、二人の持っているバスケットを見やった。
こんなものは家にはなかったのでどうしたのかと思ったら、そう理由だったか。
「二人とも、それウサピィさんや友達と一緒に食べてって言われてたよね」
「だって、ウサピィが悪いんだもん!」
「そうです。私達を迷惑扱いするなんて、ひどいです!」
「それは、そうなんだけど……」
そもそも忙しいのはギルドを開いた早朝だけなので、割と暇な時間ではあるのだが。
でも、さすがにケーキを作っちゃうのはファイもどうかと思う。うん、ダメだよね、仕事中にケーキ作っちゃ。
「いや、別にいいけどさ、俺は……」
「え? 本当にいらないの、ウサピィ?」
「やりました。ルビィちゃん、いっぱいケーキ食べられます」
さっきまで痛みでうずくまっていたルビィとシディアなのに、わいやわいやとスキップして先に行ってしまった。
「ったく、仕方のないやつらだな」
でも、ウサピィはまんざらでもなさそうに、ふっと口元に笑みを浮かべている。
「大変ですね、保護者さんも」
「まあ、自分で決めた事だからな」
ウサピィはファイと歩調を合わせながら、二人を追って歩き始めた。
「それに、見ろよあいつら。危なっかしくて、ほっとけないだろ」
「あぁ、確かにそうですね。今日も大変でしたから」
「済まんな。うちのが迷惑かけて」
「いえいえ。でも、ケセラスは楽しそうでしたけど。あ、ケセラスっていうのは、ケーキ作りの先生してくれたギルドの人です」
ウサピィは並んで歩くファイを、そっと見下ろした。こんなちっちゃななりをしているのに、ウサピィには想像もできないような重荷を背負った女の子。
王族の護衛まで務めていた彼女が、今はこんな場所でギルドの事務仕事なんてしている。魔法を使えなくなってしまうほどの心の傷とは、いっちいどれほどのものなのだろう。
シディアやルビィ、ルチル、そしてユーディすらも、そんな話は聞い事がないと言っていた。
「そっか。なら今度、何かお礼でも持たせてやらないとな。ケセラスさんだっけ、何かいいものないか? あんまり高いのは勘弁だけどよ」
なんとかしてやりたい。始めは気軽に受けた仕事だったが、ウサピィはいつの間にかそう思うようになっていた。
美容師としての誇りと矜持もあるが、この無理やりとりつくろった笑顔の内側にある暗闇を、少しでも晴らしてやりたいのだ。
「だったら、今度ケセラスが行くみたいだから、サービスしてあげてください」
どうすれば乗り越えられるかもわからない、見えない壁の前でもがき苦しむ姿に、過去の自分がだぶって見える。
それを乗り越えたウサピィだからこそ、ほんの少しだが今のファイの気持ちがわかった。故に、少しでも手助けをしてやりたいのだ。壁を乗り越えた先輩として。
「あぁ。しっかりサービスさせてもらうさ」
「じゃあ、そう伝えておきます。って、二人ともどうしたの?」
かなり先を行っていたはずのシディアとルビィが、お店のガラスに顔をくっつけていた。
「ウサピィ! 見て見て!」
「とっても可愛いです!」
「いいから、とっとと離れろ。顔が汚れてるぞ」
ふぇっ? と顔を離したシディアとルビィは、それぞれの顔を見てぷっはーっと笑い出した。
あ~あ、顔が砂埃とかその他諸々で真っ黒になってる。
「ったく……。ほら、じっとしてろ」
「うぐっ、ウサ、ピィ」
「むはっ、痛い、ですぅ」
ウサピィはかがみ込むと、清潔なハンカチでごしごしと二人の顔をふいてやった。
もうしっかりと、保護者が板に付いちゃってる感じである。うん、年の離れた兄妹って感じかな。しっかり者のお兄さんと、やんちゃでおてんばな妹の。
「それで、いったい何を見てたんだ?」
口をへの字にしてされるがままのシディアを横目に、ウサピィは二人の張り付いていたお店の方を見やった。
「ウサピィ、これ欲しい!」
「ん~。とっても可愛いです!」
ショーウィンドウに飾られていたのは、様々なタイプの髪飾りであった。
子供向けから大人向け、質素なもの、可愛いものから綺麗なものまで、様々なタイプの髪飾りが売られている。
その中で一つ、ウサピィの目に止まったものがあった。
「簪みたいなデザインだな……」
「カンザシって、なんですか?」
聞き慣れない単語に、ファイははてと首をかしげる。
「俺の国で昔から使われてる髪留が、こんなデザインなんだよ。今はあんまり使ってる人いないけど、昔から続いてる伝統的な衣装を着る時には、使ったりするんだぞ」
「へぇぇ、そうなんですか」
目を細めて懐かしむウサピィ。ファイはその視線の先を追いかけた。
細長い棒のようなものの先端に、可愛らしい赤い花。そこからは金色の極細チェーンが延び、サイズも色もまちまちな、でも趣深い珠で彩られた髪飾りである。
「……きれぇ」
異国情緒あふれるその髪飾りに、ファイは思わず目を奪われた。髪飾りにはちょっと見えないけど、でもとっても可愛い。
これでどんな風に髪を留めるんだろう、使ったらやっぱり可愛いくなるのかな。今は色んな髪型を試しているし、買ってみても……。あ、でも魔法が使えないのは心の問題なんだった。
一瞬だけ輝いた瞳はみるみる光を失い、最後には深いため息が出てしまう。はぁ、しっかりしろ、わたし。これじゃ、いつまで経っても魔力を取り戻す事なんてできない。
「もしかして、これ欲しいのか?」
「ふぇっ!?」
え? なに? わたしそんなに欲しそうな顔してたの?
いきなりウサピィから声をかけられて、ファイはちょっとびっくり。
「いや、そんな顔でため息なんかついてたからさ」
えっと、ものすごく欲しそうな顔をしていたみたいです。
そしてそこから、更に予想外の言葉が飛び込んできた。
「最近お世話になりっぱなしだし、これくらいなら買ってやってもいいぞ?」
言っている意味が理解できずに、ファイは一瞬キョトンとしてしまう。
しかし、三秒ほど遅れて脳が理解したところで、ハッとなってウサピィを見上げた。
「あぁー! ファイばっかりズルい!」
「そうです、ウサピィさん! 私達にも買ってください!」
耳ざとく聞きつけたルビィとシディアは、腕をぶんぶん降ってウサピィに抗議する。隣を通るおばちゃん達が、ほっこりした笑顔を浮かべていた。そんなおばちゃん達のリアクションも恥ずかしいのだけど、ウサピィの提案も嬉しいの気恥しいので、ファイの頭の中はもうわやくちゃである。
そんな慌てふためくファイとキャンキャン言ってるシディアとルビィを相手に、ウサピィはおばちゃん達に手を振っていた。
「……お前らな、それは今日の晩飯代がどこから来ているか知って言ってるのか?」
おばちゃん達からシディアとルビィに向き直ったところで、ウサピィは真剣な声音で二人に問題を出した。
猛烈な抗議をしていた二人も、とりあえずはぶんぶん回していた腕を止めて考えてみる。
えっとまず、ウサピィの職業はビヨウシで、お店に来たお客さんからお金をもらっている。
で、最近よく来るお客さんはぁ…………、
「あ、もしかしてファイちゃんが払ってくれてるやつなんですか?」
「そうだよ。魔力が全然戻らないのに、律儀に払ってくれてるんだよ。おかげで俺の良心がそろそろ擦り切れそうなわけ……」
と、ウサピィは明後日の方向を見ながら、深いため息をついた。
ファイからすれば、毎回こんな可愛い髪型にしてくれているし、ビヨウインとは髪を切ったりセットしたりする職業なのだから、当然お金を払うべきだと思っているのだが、ウサピィ的には心苦しいらしい。
本人の言葉を拝借すると、ファイの最も重要な要望──魔力を取り戻す事ができていない、というのが引っかかるのだそうだ。
ファイの心の方に問題があるとはいえ、そのきっかけすら作れないのが悔しいのだとか。
でも、これはファイ自身の問題なので、ウサピィに頼り切りでもいけないのだけれど。
「そっかー。なんだかんだ言っても、まだまだお客さん少ないもんねぇ。まぁ、気を落とさずに頑張りなよ、ウサピィ」
「ルビィ、店の売り上げ低いとご飯もグレートダウンするだぞ。店のローンだってあるし」
「あ、だからちょっと前までウサピィ、具無しチャーハンなんか作ってたのか。具なら雑草入れればいいのに」
「雑草チャーハンなんてもんは認めんと何度言わせるつもりだ、お前らは……。あんなもの、食べ物じゃない」
「ウサピィさん、雑草は偉大なんですよ! いくら食べでも根さえあれば生えてくるんですから! まさに、食のエイキュウキカンです!」
てか二人とも、ウサピィが来るまでどんな生活をしていたの。雑草チャーハンなんて見た事も聞いた事もないよ。
「とにかくだ、最近まともなもん食えるのは、ここにいるファイのおかげなんだ。わかったか?」
「そうだね。ファイには感謝しないとね」
「はい。かわいそうなウサピィさんを助けてくれて、ありがとうございます」
そう言って、ルビィとシディアは両掌をぴたりと合わせて、深々とお辞儀を始めた……。
「だからって拝むな」
ゴツンと、ファイを拝む二人の頭にウサピィのゲンコツが降ってきた。
当たりどころが悪かったのか、うずくまったままくぐもった大声で叫んでいる。なんて器用な……。
「そんなわけだから、お礼というか、お返しをさせてくれ。じゃないと俺の精神が持たない」
「ふふふふふ。はぃ、わかりました」
三人のやりとりを見てころころ笑っていたファイは、素直に首を縦に振る。
ホットしたウサピィは、ちょっと行ってくると手を振ってお店の中に入っていった。
「うぅぅ、ヒドい目にあいました」
「なんか、最近のウサピィのボク達に対する態度が雑な気がする」
あ、生き返った。さっきまで悶絶していたシディアとルビィは、頭をさすりながらファイのそばまでやって来た。
「でもいいな~、ファイばっかり。ボクも何か買って欲しかったな~」
「でもルビィちゃん、とめるには長さが足りないと思います」
「それを言うなら、シディアだって他の髪留め使う気ないじゃん」
「それは、そうなんですけど」
どうやら、二人はそれぞれに大切な髪型があるらしい。
ルビィちゃんはショートボブ、シディアちゃんは三つ編み。
確かシュネーヴァイス家に伝わる髪型は、オールバックの髪をうなじの辺りで尻尾みたいに束ねたものだったかな。
軍属というのもあって、戦闘に邪魔にならない髪型が好まれてたみたい。ただ、ファイはここ最近やった覚えがないけど。
シュネーヴァイス家の髪型の話はまだウサピィにはしていないから、話してみるのも参考になるかも。お店から出てきたら言ってみよう。
なぜ今まで言わなかったのかって? 単に忘れてただけです。だって、今はこんな状態だしね。
そんな事を考えていると、ファイは二人が自分を見ているのに気付いた。
「あ、あの、どうしたの、二人とも?」
「う~んとねぇ、ファイなら髪長いから」
「色んな髪留めが似合うんじゃないかなぁって、ルビィちゃんと話してました」
「そ、そうかなぁ……」
自分ではわからないのだけれど、似合うなんて言われたらちょっと恥ずかしいな。
でも、嬉しいんだけどね。ただ、言われ慣れていないせいで、顔がとっても熱い。
「あぁっ!!」
すると、唐突にルビィが叫んだ。
シディアとファイは、いきなりの大声にビクンと背中が跳ねた。
「ど、どうしたの? ルビィちゃん」
「ルビィちゃん、隣で大声出さないでください。耳が痛いです」
耳を両手でふさいでいるシディアの隣で、ルビィは地面に倒れ込んでシクシクシク。
「一昨日から天日干ししてる薬草、今朝取り込むの忘れてたの思い出した……。乾かしすぎてダメになってるかも……」
あぁ、それは、やっちゃったかもしれない。
「せっかくウサピィを拝み倒して、薬草の本買ってもらったのに……」
「確か、干す時間によって効果が変わるだよね?」
「うん。それを試そうと思ってたんだけど、また作り直さなきゃ。ウサピィに頼まれてたのもあるし、売る用の薬草も取りに行かなきゃならないし……。あぁ、でもあの薬草ってなかなか手に入らないしぃ、うがー! 時間がないー!」
しかもパーにしちゃった薬草は、なかなか見つけられないものらしい。頭を両手で抱えたまま、半狂乱一歩手前のところで荒ぶるルビィのポーズをしている。
まあ、今日のカップケーキ作りを見ててもわかるけど、ルビィちゃんはけっこう雑だから。薬師を目指すなら、まずはそういう細かい所まで気を回せるようにならないと、薬の管理とかできなさそう。
風邪薬とかだったら、分量とか間違えていそうで怖い。
だがまあ、それはひとまず置いといて、
「珍しい薬草かぁ……。そういえば……」
ファイは過去に請け負ったクエストを思い起こしてみる。
確かその中に、珍しい薬草の生えている場所があったはずである。
確か場所は、
「コルサーンの森の奥に、珍しい薬草がいっぱい生えてるとこがあったよ?」
「えっ!? ファイ、それほんと!!」
「うん、森の最深部にある遺跡。何年か前に仕事で行ったけど、迷いやすいから一般には非公開になってるの」
よっしゃーと、ルビィの瞳に炎が灯った。瞳も赤いから分かりにくいけど。
もっとも、ルビィの欲しい薬草があるかは保証できないのだが、そこはある事を祈るしかないか。ファイ自身も薬草には詳しくないので、聞いたところでわからないし。
「それで、ファイ。場所はどこなの?」
「さっきも言ったけど、迷いやすいから非公開になってるから、教えても行けないと思うよ?」
「そんなー。じゃあ聞いたって意味ないじゃん」
「だから、わたしが案内してあげる。今日のお礼」
「本当!?」
「うん。本当だよ」
その時ルビィの目には、ファイがまるで神様のように見えた。
いやいや、最近のご飯のグレードアップだけじゃなくて、薬草探しまで助けてくれるなんて。神様みたいじゃなくて、もう神様にしか見えない。
もしかしてこれって、さっき拝んだ成果だったりするのだろうか。いや、そうに違いない。うん、そうしよう。
「よっしゃあ!! やったよ、シディア、これでウサピィに怒られずに済む!」
「よかったですね、ルビィちゃん」
ルビィが喜んでるのが嬉しくて、シディアもにっこり。一緒に手を取り合ってくるくるとダンスまで踊りだした。
「それでファイちゃん、薬草ハンティングにはいつ行くんですか?」
「えっと、お仕事あるから、週末でもいいかな? ケーキは食べられなくなっちゃうけど」
「全然いいよ! ケーキよりご飯が大事だもん!」
「え、なんでそこでご飯が……」
と、ファイが疑問符を浮かべていると、代わりにシディアが応えてくれた。
「ルビィちゃん、本買ってもらった代わりに、色々とウサピィさんの仕事で使うものを頼まれてて。ちゃんとできなかったら、ご飯のグレードを落とすって言われてるんです」
「説明ありがとう、シディア」
「た、大変だね、ルビィちゃんも」
そういう意味だったのね、とファイは苦笑いを浮かべる。
約束の期限がいつまでかは知らないが、ルビィの表情から察するにあまり時間はなさそうだ。
たぶんルビィの事だから、ノリと勢いだけで引き受けてしまったのだろう。いくら本が欲しいからって、ちょっとは計画性というものを身に付けた方がいいと思う。
「ほほう、ミスったのか……」
「っ!?」
そこへタイミングよく──ルビィにとっては最悪な──髪飾りを買ったウサピィがお店から出てきた。
「ウ、ウサピィ! あの、これには口では説明しづらい、色々と深い事情があって……」
「大丈夫だぞ、ルビィ。約束の日“まで”にできれば、俺は何も言わない」
「は、はぃ」
胃袋もとい、食費を握られているルビィは、ただただ首を縦に振って応えるしかない。
それにしても、不思議な光景だ。強力な魔法を使えるはずのルビィが、これっぽっちも魔法の使えないウサピィに頭が上がらないなんて。
先日のギルドでの一件からもわかるように、魔法使いはそうでない者を蔑み、見下し、魔法を使えない者は使える者に憧れ、畏怖を覚える。
ラグトゥダの場合は地位と権力があるが、ウサピィにはそんなものはない。だから、改めと考えると不思議なのである。ルビィとシディア、そしてウサピィの関係というものが。
「ファイ、ここまで来たなら、ついでに晩飯も食っていけよ」
「あ、いえ、大丈夫ですから!!」
声をかけられたファイは、慌てて手をぱたぱた振って断ろうとする。
そんな、雑草を具にしないといけないような懐事情なのに、食事をごちそうになるなんて……。
しかし、
「気にすんなって。こいつらも喜ぶから」
「はい。大歓迎です」
「ウサピィってこう見えても料理が上手だから、味は保証するよ。地味な料理しかでないけど」
「『こう見えても』ってのはどういう意味ないなんだ、ルビィ。あと、地味とかいうな。節約してるだけだ」
ファイの事などお構いなし。気付けばもう晩御飯をご馳走になる流れっぽくなってしまっていた。本当、無理やりなんだから。
シディアやルビィもそうだけど、ウサピィもこういう時は二人に負けず劣らず強引だ。
「じゃ、じゃあ……。お言葉に甘えて」
でも、悪くない。絶対に、悪くなんてない。
ファイの口元には、本人すら知らぬ間にうっすらと笑みが浮かんでいた。




