Act02:思いやりは甘い味 Ⅱ
魔法ギルド、クエスト受注フロア。その地下には魔法使い達からは見向きもされない酒場が、ひっそりと運営されている。
そこは街中騎士達の待機場兼憩いの場ともなっており、今も数人の騎士達が談笑していた。
「おーい、昼間から飲んだくれてんじゃないわよ」
「あ、姐さん! ご無沙汰してます!」
「大丈夫っす。これ、ジュースなんで!」
騎士達はケセラスを見たとたん、大慌てで居住まいを正す。
そのど真ん中をカツカツとヒールを鳴らして通るケセラスの後ろに、三人の少女(約一名二五歳児)が続く。
やや暗めの照明、濃いブラウンを基調とした内装。シックな雰囲気が大人な空間を醸し出している。
「ケセラスさん、さっきの人達、知り合いなんですか?」
「まあね。魔法使い時代には、よく一緒に飲んだものよ。あ、飲むって言ってもお酒だから、シディアちゃんにはまだ早いかなな」
物珍しげな三人を厨房に連れてきたケセラスは、貯蔵庫からケーキ作りに必要な材料を次々と取り出す。
分量的に、三人で食べきれる量ではない。たぶん、上にいる他の職員や、待機中の騎士達の分も作ってあげるのだろう。
ケセラスは時々、お家でお菓子を作って持ってくるのだけど、これが美味しいとなかなか評判なのだ。
「手は洗ったかー!」
「「おー!」」
「ぉ、ぉー……」
子供もいるせいか、かなり手慣れている感じである。
あれ、もしかして自分も子供扱いされちゃってる感じなのだろうか?
「やる気はあるかー!」
「「おー!」」
「ぉ、ぉー……」
そんな事を思ってはいても言い出せないファイは、しぶしぶケーキ作りに参加する事に。
「ほんとにケーキを食べたいかー!」
「食べたいです!」
「食べる食べる!」
「……別に、私は……」
「では、さっそく調理を開始します。三人とも、持ち場について!」
そしてケセラスの指示の元、ケーキ作りは順調にスタートする。
あれ、そもそもシディアちゃんとルビィちゃんって、何しに来たんだっけ? しかし、ファイのそんな疑問に答えてくれる人物は、この場には一人もいないのであった。
まあ、こんな調子で約二時間。ファイの奮戦もあって、特に大惨事が起きる事もなく、カップケーキ作りは完了した。
だって、だってだよ? ルビィちゃんは分量が適当だし、すぐイライラして材料ひっくり返しそうになるし、シディアちゃんはシディアちゃんで何度も材料間違えそうになるし。
いくら薪オーブンが待てないからってルビィちゃん、カップに入れた生地を魔法で直接焼こうとするんだもん。シディアも素手で薪オーブンを触ろうとしたり……。
もし火傷なんてさせちゃったらウサピィさんに顔向けできないから、思わず大声で叫んじゃった。いや、本当に何事もなくてよかった。
ケセラスも手伝ってくれたら、もう少し楽だったんだけど。なのにケセラス、ただ見てるだけで止めようとはせず、ファイは二重の意味で大変だったのであった。ちゃんとしてよ、責任者兼保護者。
そのファイがカウンターでダウンしている間に、シディアとルビィはケセラスに習って、生クリーム、チョコムース、あとフルーツでトッピング。酒場にいた騎士達や上にいる職員達に、できたてのカップケーキを配った。
シディアやルビィに手渡しされた騎士や男の職員達はデレデレ。鼻の下がのびきっていたジルベールなんか、危うく騎士達に連行されそうになっていた。もちろん、冗談でなんだけどね。
そしてケーキを配り終えて程よくカップケーキが冷めたところで、四人はちょっとしたお茶会へと洒落込んだのであった。
「二人とも、今日は来てくれてありがとね」
「ううん、そういうのいいって。ボク達もケーキ作るの楽しかったし」
「はい! とても楽しかったです! ケセラスさんの方こそ、ありがとうございました!」
「ふふふふ。じゃあこれ、余ったケーキ。ウサピィさんだっけ? 帰ったらみんなで食べてね」
とはいえ、楽しいお茶会も長くは続かない。
日はもうすぐ山にかかりそうなくらい落ち、夕暮れの時間を知らせている。
「ありがとう、ケセラス!」
「ありがとうございます!」
「またいらっしゃい。今度は別のケーキを作りましょう」
「うん!」
「はい!」
ケーキを作るのはいいが、次からはケセラスも危なっかしい二人の面倒を見て欲しい。
果たして、ファイの切実な願いが叶う日は来るのか来ないのか。来てくれたら嬉しいな。
すると、ケセラスが二人からファイへと視線を向けた。
「ファイちゃん、しっかりと二人をお家まで連れて行ってあげてね」
「え? でも、この後は、ラグトゥダさんと一緒に……」
地下の酒場での飲み会をやるので?
「そんな事より、こっちの方が大事でしょ。頼んだわよ。可愛い騎士さん」
にっこりと、ケセラスはファイに微笑む。
任せてくれている。魔法の使えない自分に。いや、例え魔法がなく経って、何かあればやれると信じてくれているのだ。
「大丈夫。いざとなったら、ちゃんと守るよ。騎士の誇りにかけて」
ファイは背筋をぐっと伸ばして、ケセラスにそう返す。だったら、その期待にちゃんと応えないといけない。こんな自分でも信じてくれているケセラスを、裏切らないためにも。
そこにあったのはいつもの頼りない女の子ではなく、矜持を宿した凛々しき女騎士の姿。シディアとルビィは初めて見るファイの新たな一面に、思わず見入っていた。
「おう、行ってきな。じゃ、シディアちゃん、ルビィちゃん、またね」
「バイバ~イ」
「さようなら~」
ケセラスに見送られ、三人は魔法ギルドを出発した。
シディアとファイにはそれぞれカップケーキの入ったバスケットを持ち、仲良く手をつないでいる。
「それにしても、ケセラスのケーキ、すごく美味しかったね」
「それに、お土産まで。ケセラスさん、すごいです」
「ケセラスさん、時々お菓子作って持ってくるけど、どれも美味しいって評判なんだよ」
「「へぇ~」」
感心する二人の目に、お星様がキラキラと浮かんでいる。
そんなに期待いっぱいの目で見られても、反応に困っちゃうんだけど。でも二人が頼んだら、たいていのお菓子なら作ってきてくれそうだ。
「あれなら、ケーキ屋さんだってできますよ」
「うん! 売ってるやつより美味しいくらいだったしね」
「あれ、ルビィちゃん、いつケーキなんて買ったんですか? 私も食べたかったです!」
「あ、これはその、きっと売ってるやつより美味しいんじゃないかなって思っただけで……」
そういえばと、ファイはウサピィと何度か交わした会話の内容を思い出す。
生活費はウサピィが出してるけど、お小遣いは『自立の一環』って事で、二人とも自分達で稼いでいるらしい。
ただし、金額については……。悲惨な事くらいは想像がつく。
広場で百何イェンで喜んでいたルビィに、何十イェンの依頼しか受注していないシディア。とてもじゃないけど、ケーキを買えるような金額ではない。
1ホールなんてとんでもない、ショートケーキですら買えないだろう。
「それなら、今週の休み、ケーキ食べる? お金なら私が出すから」
「いいの!?」
「本当ですか!? ファイちゃん!!」
シディアはファイの右手を、ルビィは左手をつかみ、目をうるうるとさせて再確認してくる。
そ、そんなになるくらい食べたかったのかな、ケーキ……。ちょっと不憫になってきた。
「どうしようシディア、食べたいケーキがありすぎてどうすればいいかわからないよ!」
「落ち着いて、ルビィちゃん。まずは王道の生クリームとイチゴのケーキだよ」
「そ、そうだね。だったら、次はチョコレートケーキかな」
「チーズケーキも捨てがたいです」
「モンブラン、ミルフィーユ、ダメだ、ボク週末まで待てる気がしない……」
虚ろな目をしたルビィは、頭をかかえてへにょんとうずくまった。
そ、そこまでなるような事なの…………かな?
「頑張って、ルビィちゃん! ルビィちゃんならきっと乗り切れるから!」
愕然とするルビィの元まで歩み寄ったシディアは、その肩にそって手をおいて力強く語りかける。
うわぁ、シディアちゃんがすごく大人っぽく見える。内容はすごく残念なんだけど。
「シディア……!」
「ルビィちゃん……!」
ガシッ。二人はなぜか道のど真ん中で友情の固い握手を結んでいた。
ルビィちゃん、五日くらい待とうよ、もぉぉ……。
「お、こんな所にいやがった……」
すると三人の進行方向から見慣れた人影が一つ、どんどんと近付いてきた。




