5-7 本気、超振動
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地下空間に轟音が鳴り響く。
水面に爆弾でも落ちたような破裂音。金属が無理矢理引き裂かれる不快な高音。エンジン音と共に金属が削り取られるような重低音。
ヘビがこの音を認識するより前に、既に液体操作金属が動いていた。自動防御プログラムにより、店長の初撃を見事防いでいたのだ。
超音波の刃による斬撃で金属は裂かれてしまったが、直ちに修復し、使用者であるヘビの身を防ぐ。
自己修復が完了した液体操作金属に、更にチェーンソーの斬撃が襲いかかる。無理矢理に削られてしまうが、やはり高速で自己修復し、使用者であるヘビの身を防ぐ。
――この間、コンマ三秒の出来事であった。
店長は怯まず更に攻撃を続けていた。
ヘビが攻撃されていることに気づいたのは、既に店長が六回斬りつけた後だった。
「ぬ、ぬおぉぉぉぉ……!」
ヘビは既に自分が襲われ、液体操作金属がこの身を防いでいることに驚きつつ、自身も身構える。構える剣にてこちらも攻撃を仕掛ける――つもりだったが、目の前にいるはずの店長を見失ってしまった。不気味にエンジン音だけがどこからか聞こえる。
「くっ……どこに――」
ヘビが後ろを振り返ろうとした瞬間。再度、液体操作金属の自動防御プログラムが作動した。
背後にできた銀色の壁の向こう側から聞こえる耳をつんざく金属音。一瞬入った亀裂のすき間から見えた店長の顔。
いつもどおりの無表情だったが、いつもと何かが違う。いつもの気怠げなカカシの様な雰囲気が一変し、鬼気迫る殺人マシーンのようだ。
ヘビは再び身構えようとするも、店長の姿がまた消えた。
「て、店長、貴様ぁぁ!!」
ヘビの叫び声が地下に響き渡る前に、再び液体操作金属と店長の得物がかち合った。
店長の動きが見えない、追えない、察知もできない。
屈辱だった。てっきり互いに本気を出しているものかと思っていた。こちらに地の利こそあれど、互角になったと思っていた。
それが、まさか、これほどまでの力量を見せつけられるとは。
「どこまで……どこまで俺をコケにすれば気が済むのだぁぁぁ!!」
ヘビの悲鳴とも似つかない叫び声と金属の鳴り響く轟音が地下に広がる。
◇◆◇◆
店長が本気を出してから、三分が経過した。
(うーむ。やっぱりあの液体操作金属っつーの、面倒くせぇなぁ……)
猛攻を繰り返しながら店長はそう思っていた。
常にヘビの背後を取るように超高速で移動し、攻め込んでも自動防御プログラムなるものが防いでしまう。
それ自体は別に良いのだが、問題はその自己修復の早さ。さすが液体といったところか、斬った箇所に流れるように新たな金属が入り込んで傷を塞いでしまう。
何か手立てはないものか。早くしないと超音波ブレードのバッテリーが切れてしまう。残り一分と数十秒しか残っていないだろう。
(だが、まぁ、やり続けるしかないか)
のんびりそう考えながらもヘビの背後から強襲。やはり防がれてしまった。店長は残像を残しながら再び地面、というかほぼ水面を蹴って移動する。
もうこれで何度目か忘れた背後からの攻撃。がらんどうのヘビの背後に迫った瞬間だった。
「俺を、俺を舐めるなぁぁぁ!!」
ヘビの雄叫び。液体操作金属の自動防御プログラムは作動せず、代わりにヘビの体を一瞬で金属が覆った。かと思うと、まるでウニのように銀色の針が伸びた。
「! うぉ、あっぶねっ!」
突っ込んでいた店長はあわや串刺しになるところだったが、すんでのところで緊急停止、からの後方へ離脱した。
数本の銀の槍が頬と腹、エプロンのポケットを掠めた。ポケットは破れ、ナイフや非常食、何か入った小さな袋が溢れ落ちた。
「は、ははぁ! どうだ!」
「うーん、ヤケクソ感はいなめないが、目で追えない敵への全方位攻撃は最善手だな」
店長は頬から溢れる鮮血を拭う。腹の方も、服にじわりと血が滲む。致命傷とは言えないが、地味に痛い。
銀色のウニのように変形した金属が溶け、中からヘビが姿を現す。息を荒らげ、顔を引き攣らせながら笑っている。
「こ、この、我が相棒、銀色蛇刀がある限り、俺は負けん!」
そんな名前だったかなぁと首を傾げながらも、体勢を整える。
「さいで。まぁ、勝ち負けとか知らんけど。俺は俺の邪魔をする奴を排除できりゃそれで――いい!」
パァンッと水が爆発するような音と共に再び店長は前進――と思わせて超高速でヘビの背後に回り込む。当然反応できていないヘビは再び銀色の液体金属を身に纏う。
あぁ、あと何度これを繰り返せばいいんだ。
――いい加減、本気出すか。
未だに本気を出していなかった店長。久しぶりに、一瞬だけ本気を出すことにした。
コンマ数秒、刹那の中。
何十、いや、何百もの斬撃を二つの得物で繰り出す。音を置き去りにするほどの連撃。
しかし真に驚くべきは、液体操作金属の自己修復力だった。店長の連撃で切り裂かれはするが、瞬く間にその傷を埋め、ダメージをなかったことにしている。
旧時代の遺物の恐るべき技術力に畏敬の念すら覚える。もはやこれはヘビとの決闘ではなく、旧時代の技術との対決。
(また旧時代か。俺を苦しめるのは、いつもお前らだよな。臨むところだ、俺は俺のやりたいことをするだけ。根比べだ……!)
更に連撃を重ね、重ね、重ね。液体金属が傷を直し、直し、直し……無限にこの連鎖が続く――そう思われた瞬間だった。
ボボボボボッと小さい爆発音のようなものが鳴り響いた直後、
液体操作金属が崩壊した。
――これは後日、矢部医師から相談を受けていた水の汲み上げ用ポンプが崩壊する件について調べた時に知ったこと。
「キャビテーション」という現象がある。液体が超振動に晒されると、水分中に含む気体分子が膨張、大きな圧力を生み、弾けて衝撃波を起こす現象。
水中で回転するスクリューの表面上で発生し、スクリューを崩落させてしまう現象なのだが、それが起こった。
水飛沫が飛び交う中での、店長の度重なる連撃。自己修復する液体操作金属の内部に、修復の度に少量ではあるが水分が入り込んでいた。
また、店長がエプロンのポケットから落とした小袋。中身は矢部医師から受け取っていた吸水ポリマー。これも液体操作金属の表面部に付着し、変形の都度内部に取り込まれていた事をヘビも店長も知らない。
更に、亜音速にも近い店長の猛攻。加えてその得物は超音波を発生する日本刀と高速に回転するチェーンソー。液体操作金属に短時間ではあるが絶え間なく超振動が当てられた。
そう、誰もが知らず知らずのうちにキャビテーションの条件が整ってしまっていた。
その結果、液体操作金属の内部、細部至るところに入り込んだ水分は膨張し、弾けて発生した圧力は金属を内側から爆発させた。
液体操作金属の攻略法である「使用者の脳波コントロールの妨害」もしくは「爆発物により粉微塵に破壊」。店長が諦めていた後者の攻略法が達成されたのだった。
しかし、当の本人達は、何が起こったのか理解できていない――。
崩壊し、飛び散る液体操作金属。一瞬、攻撃の一種かと思ったが、露わになるヘビの身体は無防備そのものだった。これは攻撃ではない。よく分からないが、空前絶後の隙、千載一遇のチャンス。
店長は今日一番の万力の力を足に込め、前に跳ぶ。水と液体操作金属の飛沫を浴びながらヘビの懐へ入り込む。
刹那より短い刻の中。幻聴かもしれないがたしかに店長とヘビは会話した。
「結局、俺が積み上げだ努力は無意味だったというわけか……クソっ……血筋には勝てないのか……」
「血筋のせいにするな。これは俺が積み上げた努力の結果だ。お前の努力だってきっといつか、意味のあるものになるさ」
一閃。ヘビの身体に渾身の一撃が振り下ろされ、戦いの幕は閉じた。
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