4-8 一対一、二手
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矢部医師の解放条件が「店長とヘビの決闘」。
そんなくだらない条件で良いのだろうか? どうもきな臭い気がする。が、たしかにこんな状況でもなければ自分はヘビと真剣勝負などしないだろうとも思える。まぁ、なんにせよ今は奴の言うことを受け入れるしかない。
「わかった。その条件を飲もう。ちなみにだが、俺が勝った場合でも矢部は返してくれるんだろうな」
ヘビは鼻で笑う。
「もう勝った気でいるのか。相変わらずの傲慢さだな。まぁ、それでこそ店長だ。……もちろん、決闘が条件なだけで、勝敗は関係無い。貴様が勝っても負けても矢部医師は返してやろう」
それを聞いて一安心し、溜め息を溢す。
「よし、じゃあ早速始めようか。あいにく、こちらには時間の余裕がないんだ」
乗り気になった店長を見下ろした、ヘビは満足気な笑みを浮かべて言う。
「我が剣も今か今かと疼いているところだが……ここでは雑音が多すぎる。特に、そこの変態姉弟とかなぁ! 俺がしたいのはあくまでも一対一だ。こことは違う場所で執り行わせてもらおう」
そう言ってヘビは店長達から見て右側を指差す。
「今、俺達が立っているここは南棟。この下にある正面玄関から入るとすぐに東棟と西棟に分かれる通路がある。俺は東棟にて一人で店長を待つ。貴様は一人で来い。そこが決闘の地だ」
そして左側を指差す。
「変態姉弟や小娘にこの決闘を邪魔されたくないのでな。ドクター矢部は西棟の何処かに隠す。せいぜい探すがいい。決闘が無事に終われば解放してやるが、それより早く解放して欲しくば
……力ずくで取り返すんだな。狸座の諸君がお相手してくれるだろう」
言い終わったヘビの後ろで、すっかり空気と化していた狸座当主である狸がニヤリと微笑む。
「というわけだ。……野郎ども! 準備に取りかかれ! それじゃあな、店長そしてホモ姉弟。せいぜいどうするか悩め。ガハハハ!」
狸の下卑た笑いが木霊すると、周囲に居た大勢の気配が突如として消えた。そして気付くとヘビと狸も窓際から離れたのか姿を消していた。
「悩め」ね……。
店長が顎に手をやり考えていると、他の三人が詰め寄る。まず口火を切ったのは兎だった。
「こんなの……絶対罠に決まってます! 「西棟に狸座の方々がいる」と言っていましたが、本当は店長を単身、東棟に呼び寄せておいて、あの方と狸座の方々全員で襲いかかるに決まってます!」
「そうねぇ……確実に仕留めるなら、そうするわよね」
「じゃあ、オレ達も店長と一緒に一旦東棟に行くか? もし奴の言うことが本当だったら、オレ達だけで西棟に行こうぜ」
既に三人だけで結論へと向かおうとしている。身の安全だけを考えるならば、それでも良いのだが……。店長は空を見上げる。既に太陽はほぼ真上まで来ている。正午――兎の母が容態が急変してから半日経つことになる。ならばと店長は首を横に振る。
「いや、お前らは西棟に行け。俺一人で東棟に行く」
店長の独断に三人は表情を固める。兎はすぐに否定した。
「な、何言ってるんですか、危険過ぎます! 狸さんも、「悩め」って言ってました! 何か裏があるんですよ、きっと」
たしかにそうだが、狸とそそそこ付き合いの長い店長にはある程度察しがついていた。
「いや、たぶんありゃただのブラフだな。俺達を悩ませるだけのただの嫌がらせだ。それよりもお前の母親のタイムリミットが分からないんだから、スピードを優先した方がいい。奴らの言うことが本当だったとしても嘘だとしても、二手に分かれて矢部を見つけた方が即座に脱出、ってのが手っ取り早い」
「たしかにそうですが……たとえ二手に分かれるとしても、一対三なんてありえません! そんなの絶対に駄目――」
店長は兎の頭を小突く。
「何を一丁前に俺の心配してんだ。そもそもな、仮にヘビや狸座の連中が全員東棟に居たとしても問題ねーよ」
「でも……!」と食い下がる兎を押さえつけ、トラとリュウに言う。
「おい、お前ら。今は兎が雇い主なんだろ? だったら雇い主が一番得する方法を選ぶのがお前らの仕事なんじゃないのか?」
言われ、姉弟は顔を見合わせ頷く。リュウが兎の身体をヒョイと持ち上げ、肩に担ぐ。
「のわぁ! リュウさん!? 何するんですか!」
「ごめんなさいね〜。たしかに店長の言うとおりにした方がベストだと思うの。時間もないし、さっさと行きましょ」
そう言ってリュウは兎を担ぎながら正面玄関へと入っていく。後ろに続くトラも軽い口調で宥める。
「店長が大丈夫ってんなら大丈夫だろ。そんじゃ、店長、頑張れよ〜」
巨漢に担がれ抵抗する術もない兎は、離れていく店長に目で訴え続ける。しかしそんな心配を余所に店長はしっしっと手を振り、早く行くように促す。
「俺の心配よりも自分の心配でもするんだな。この中で一番弱くて殺される確率高いの、お前だそ? ……さっさと矢部を取り戻して、街へ戻れ」
そうして兎と姉弟は正面玄関へ入ると左側、西棟へ向かっていった。それを見送ると店長は一人、正面玄関前に立ち望む。辺りにはもう誰も人はいないようだ。はぁ、と大きめの溜め息をこぼし、店長は一人正面玄関をくぐる。




