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終わる世界、始まる店  作者: 梅枝
第四章

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4-7 中二病、蛇

◇◆◇◆


 一呼吸開け、男は口を開く。


「久しいな……店長」


 だから誰なんだよ……。あれほど覚えがないと言われていたのに、またこのくだりを繰り返すとは。メンタルが強いことはなんとなく分かった。


 再び沈黙が訪れるかと思いきや、リュウが「あっ!」と何かを思い出したように声を漏らした。


「思い出したわ! 店長! ほら、あの子よ! 速攻でバイト辞めちゃった子!」


「は? 誰だよ、速攻で辞めた奴なんて、何人もいるから……」


「やっぱり店側に問題があるんじゃ……。まぁそれは置いといて、ほら、あの子よ! 記念すべき初めてのアルバイト!」


 すぐ辞めたバイトの顔を思い出せる限り思い出そうとしていたが、最初のアルバイトと言われようやく記憶のピントが合った。


 あぁ、あいつか、と手を打つ。トラも思い出したらしく相槌を打った。当然だが兎だけついて行けず首を傾げているため、補足で説明する。


「前に言わなかったか? うちのバイトはお前が入る前に十一人いたって。で、あいつは記念すべき最初のアルバイトだ。雇って三分くらいで辞めやがったけどな。今のところ勤務時間の最短記録保持者だ。ちなみに最長記録保持者はお前な」


 トラとリュウが更に補足する。


「ちなみにオレ達も元アルバイトだぜ。オレは半日で辞めたけど」


「アタシは三日よ。何故か三日目に店から追い出されちゃったの。あの頃はまだ店長も(うぶ)だったから……♡」


 トラは店番にすぐに飽きたのか気がつけば店から消えていたし、リュウは俺の顔を一日中生温かい視線で眺めているだけだったのでクビにした。ま、そこまで兎に説明しなくてもいいか。


 またトラとリュウの話になってしまった。閑話休題。


「思い出したが、なんて名前だったか……蛇……みたいな名前だったっけか?」


 すると、流石に苛ついてきたのか、男は眉を少しひくつかせる。窓から身を乗り出し、下に向かって怒声を上げる。


蛇沢(へびざわ)宙仁(そらと)だ! 北の砂漠では「銀白のヘビ」と恐れられていたのを知らないのか!? ならば、脳に焼き付けておけ! それに、俺はバイトになった覚えはないっ! 仮にバイトだったとしても、貴様が俺を誑かしたんだ!!」


 蛇沢ことヘビと名乗るそいつは細い目がつり上がり、眉間にも深くしわが刻まれている。つまりはめっちゃ怒ってる。


「「誑かした」……って、店長、一体何をしたんですか?」


 兎がそう聞くと店長は頬を一掻きする。


「いや、騙したつもりはないんだが……。バイト募集してたら、あいつがやって来て、店の説明をしてやっただけだ。説明が終わって業務を開始した途端、あいつがいきなり暴れ出したんだ。んで、出ていきやがった。わけ分かんねぇだろ?」


 店長がそう言うと、ヘビは更に眼を吊り上げて吠える。


「俺は……! 最強と謳われた貴様と共に戦い巡り、世界中に名を馳せられると思っていたのに……! 貴様は、訳のわからん「店」だの「金」だのほざきやがって! どれだけ失望したか、お前に分かるか!?」


 随分と身勝手な言い分だ。そういえばこんな奴だったな。当時のことが少しずつ思い出されてきた。


「そういえば当時もなんかよく分からんことばっかり言ってたな。俺と一緒に世界征服?みたいな話だっけか。勝手にお前の妄想を押し付けやがって。またあの時みたく、ボコボコにして砂漠のど真ん中に放り投げてやろうか?」


 ぶつかり合う二人の視線。しかし、急にヘビの視線が弱まる。つり上がった目を戻し、ゆっくりと話し始める。


「あれから俺は強くなった……。貴様の方こそ妄想にフケ入り、弱くなったのだろう! あの忌まわしい過去と決別するべく、この計画を練ったのだ! さぁ、かつて最強と謳われた貴様と今現在最強であるこの俺とで、この終わりゆく世界最後・最強・最高の死合をしようではないか!」


 言い終わり高らかに笑うヘビに店長は呆れた声で問う。


「なんか段々思い出してきた。そういう喋り方だったよな、お前。歯の浮くようなセリフ並べて、こっちが恥ずかしくて居た堪れなくなるわ! 「中二病」か!」


 すると兎が問いかける。


「「中二病」ってなんですか?」


 店長が即座に解説する。


「……「中二病」っつーのはな、旧時代に流行った心というか頭の病気だ。主に十三、四歳の男子が罹る病気で症状は、あいつみたいな恥ずかしい言動を繰り返す事だ。普通は年齢と共に治るが、後遺症として「黒歴史」というそれはそれは恐ろしいものが残ってだな――」


「えぇ! じゃあ、もしかしたら本当は矢部さんに頭を治してもらうために攫ったのでは!? 致命傷じゃないのなら、母の治療を優先させてもらいたいのですが……」


「あー、まぁ、たしかにあいつの方は致命傷というか、既に手遅れだからな。頼んでみるかぁ?」


 煽りなら兎の方が得意だろう。ここは任せてみようかな。そう思った時、不意にヘビが笑い始めた。


「ふ、ふふふ。小娘。まさか貴様が裏切る(・・・)とはな。徹頭徹尾、店長の味方のような振る舞い、中々の役者じゃあないか」


 一体何の話だ? わけの分からん言葉でこちらを惑わす作戦かと思ったが、隣の兎の顔から血の気が引くのが見えた。


 ――その様子からある程度察した。


 ヘビは店長達がこの言葉の意味を理解できていないと決めてかかり、説明しだした。


「まだ気づかないのか? 長年人前に姿を現さず、現代のパンドラの箱の如く隠れ暮らしてきたドクター矢部の居場所が、何故バレたのか疑問に思わなかったのか? 呑気に惰性で生き、惰眠を貪る如き体たらくで過ごす貴様には思いつきもしなかっただろうな。そいつは――」


 ヘビが言い切る前に兎がスライディングで店長に土下座した。


「ごめんなさい! 実は店長の弱点、あわよくば店長の命を狙うように、あの人から命令されてお店に潜り込んだんです!! 私が矢部さんのお家に行ったことで、よくわかんないですけどその位置がバレてしまったようです……」


 無駄に長くなりそうなヘビの話を簡潔に話してくれたのはグッジョブだが、話を遮られたヘビの心境は如何に……。ま、どうでもいいか。


 それよりもそれなりにショッキングな告白にトラとリュウが驚き慄いている。


「うそでしょ……兎ちゃん……まさか、スパイだったなんて……」


「こんな衝撃展開、誰が予想できたか……! 店長! 黙ってないでお前も何とか言ったらどうだ! ただでさえ無表情で何考えてんだか分からねーんだからよぉ!」


 そう言われても、店長としてはなんとも反応し難い話だった。


「ぶっちゃけ、初日から狸座のスパイかもと予想してたし「まぁ、そんなもんか」って感じなんだが。もちろん、ヘビが絡んでるとまでは予想できなかったが」


 ギクリと肩を竦める兎。そんな兎を抱きしめながらトラが毒づく。


「嘘こけ! 分からなかったくせにそうやって「何でも知ってました」感を出すのダセーって!」


「んなこと言われてもなぁ……。ま、とにかく、兎に発信機やら盗聴器がついていたんだろ? それのせいで矢部の隠れ家がバレて、矢部が攫われて、母親の診療ができなくなった、と。自業自得だな」


 自分で言っておきながら、店長はあること(・・・・)が気になった。しかし、些細なことなのでひとまずスルーした。


 企みが見抜かれていたこと、そして事実ではあるが自分の犯した過ちをド直球に指摘された兎。後悔で涙する――ほど弱い人間ではないようだ。芯のある、強い眼差しで店長に言う。


「はい。だから矢部さんを助け出し、母を診てもらうためなら、私は私の持つモノ全てを投げ売っても良いと思ってるんです」


 あのオドオドした自己犠牲精神の塊みたいな少女が放つ、今までで一番自信のある強い発言。要は自分のケツは自分で拭くと。


 店長は小さくクククと笑った。もちろん無表情だが。


「その責任感と心意気は評価してやる。それに、自業自得とは言ったが……そもそもこんな世間知らずのガキを誑かして、ワンチャン俺の暗殺を企む奴らの性根の方が気に喰わねぇな。――さて、本題からまた話が逸れちまったな。おい、ヘビと狸。結局、お前らが望む人質との交換条件ってのをさっさと教えろ」


 店長が最上階のヘビと狸にそう睨みつけて言うと、ヘビは鼻で笑った。


「既に条件なら提示済みだ! 言っただろう? 「死合をしよう」と。俺が望むのはただ一つ! 店長、貴様との「一対一の決闘」だ!」



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