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好きだった幼馴染に消えちゃえと言われた俺は〜〜いまさら好きと言われてももう、あの頃には戻れない  作者: 野良うさぎ(うさこ)


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六話



「虫が多いな……、この世界の虫には魔力が宿っているのか?」


 音もなく俺の周りを飛んでいる謎虫。特に気にせず俺は廊下を歩く。もう授業が始まっているけど構わない。

 どうやら、この世界も随分と複雑な状況になっているみたいだ。


 誰もいない空き教室。俺は椅子に座り思考を巡らす。これまでの状況を確認したい。


「なあ、御剣、もう起きたんだな」


「気づいていたのですか」


 音もなく俺の横に立つ御剣。


「ああ、あれだけ魔力が漏れていたらな。……なあ、お前らはなんで魔王を殺したいんだ? 真央さんは普通の女子高生じゃないか」


「……理由なんてないであります。私は組織の一員として、世界の平和を守るだけです。たとて、いまは善良な市民だとしても、いつこの先、暴走するかわかりません。ですので――」


「そっか、でもよ。俺達が転移した世界は……本当に魔王が敵だったのか? むしろ、あの王国が歪んでいたような気もするけどな」


 御剣は俺の隣に座る。華奢な身体に、マメだらけの手。俺が最後に異世界で会ったときよりも、魔力量が上がっている。


「日本には千人を超える帰還者がいます。……ほとんどの方は、組織に属していますが、極稀にあなたみたいな人もいます。でも、共通して言えるのが――みんな魔力を持っています。あなたはなぜ魔力がゼロなのに、あの異世界で生き抜けたんでありますか? スキルの力があるといっても限度があります」


「まあなんとなく、な」


「……あなたの力は未知数です。ですが、わかりました。しばらくは学園生活を楽しんでください。私と聖女も魔王の様子を見てから上に報告します」


 御剣はそう言ってベンチから去っていった。


 いや、ちょっと待てよ。聞きたいことはまだ沢山あったのにな……。

 なぜ聖女がこの世界にいるのか? この妙な虫はなんなのか? 


 ……異世界でのほとんどの転移者は、強い魔力と特殊なスキルを持っている。俺は魔力がないが、気合で魔力を感じられるようになったけど……なんで、この世界に魔力があるんだ?


 1000人の帰還者か……。

 学園の三分の一の生徒から微量な魔力を感じる。


「自分の目的は忘れないようにしないとな。……俺は自分が殺した魔王を守る」


 ふと、思った。魔王を殺した。だが、この世界で魔王は存在していた。……元は転移者のような存在だったのか?


「とにかく、真央さんと仲良くなって――」


「ねえ、あーしがどうしたの?」


 俺の心臓が胸を突き破りそうだった。真央さんが俺の横に座っていた。そういえば、あの魔王も気配を消すのが得意だったな。


「い、いや、なんでもないです。それでは一緒に帰りますか」


「ふふ、泣き虫君、よろしくね」


 といいながら、俺の腕を取って自分の体重をのせていた? そして、ベンチから立ち上がり、歩き出す。


「あ、あの〜、真央さん?」


「ん? なんでだろ? なんか、よりかかりたくなっちゃった。歩きづらい? そういえば、君の名前は?」


「いえ、このままで行きましょう。俺は――レンヤ、牧島蓮也です」


 俺が名前を言った時――真央さんの足が止まった。そして、一瞬だけ破壊的な魔力の衝動を感じた。

 真央さんが息を吐く。


「なんだろう? 懐かしいのかな? あーし、変だね」


「違います。真央さんは変じゃないです」


「ふふっ、君、やっぱり面白いね。だってさ、レンヤは私と一緒でしょ?」


 俺は首をかしげた。真央さんと一緒? 身長? 体重? 胸板の厚さ?


 真央さんが笑った。俺も釣られて笑う。真央さんは俺の胸を軽く叩いた。そして、俺の手を真央さんの豊満な胸に当てる。


「多分、欠けてるよね? あーしの胸の奥もそうだから」


 すごく、嬉しいのに、なにか違う。真央さんの言葉が理解できてしまう。本来なら、俺は泣き叫んで大喜びをすると思うのに……。


 ただ、悲しくなって、涙が出てそうになった。


 もしかして、俺は心が壊れているのか?


「わかっちゃった? あーしたちは仲間だね。あーしね、普通の人の感覚や感情がわかんなくなっちゃったんだ。だからね……、レンヤが教えて」


 俺の耳元で囁く真央さん。


「よ、喜んで!」


 ……いや、俺は少しワクワクしているから、違うんじゃないか?


 そんなこんなで、俺は真央さんを家まで送り届けた。





「薫子? こんなところでどうした?」


「あ……蓮也、よ、良かった。ちゃんと帰ってきたんだ」


 テレビの巻き戻しのように、薫子との思い出が洪水のように流れる。なんだかんだいいながら、薫子は素直になれないだけで良い子だったと思う。


 でも、胸に手を当てても、あの頃のような気持ちが何も感じない。薫子のことは嫌だったけど、嫌いじゃなかった。矛盾しているけど、人って矛盾ばかりだと思う。


 薫子の視線は俺のスニーカーに当てられていた。

 そういえば、なんで俺はこのスニーカーを持っていたんだろう? たしか、これを買いに行こうとして、トラックに跳ねられて――


「なあ、薫子、俺、このカッコいいスニーカーは自分で買ったのか? よく覚えていないんだ」


 薫子の目から大粒の涙がこぼれた。


「あ、あれ? な、泣かないって決めたのに。……ご、ごめん、わ、私もよく覚えてないんだ。……すごく、素敵なスニーカーだね。似合ってるよ……」


 なんで泣いているんだろう? 薫子が泣いているのに何も感情が浮かばない。


「そっか、ありがとう。……なあ薫子、色々確認してもいいか? 薫子は……他の生徒とは違ういじめ方だった」


 薫子は口を真一文字にして首を横に振った。


「ううん、蓮也をいじめていた事実は変わらないの。……本当にごめんなさい」


「ああ、それは構わないが、なんで俺をいじめていたんだ?」


「そ、それは……、あなたのことが好きだったからよ」


「そっか」


 俺は本当に心がわからなくなっているのかもしれない。好意を持たれたらわずかでも感情が揺れ動くものだ。でもさ……本当に何も感じない。


「俺は、この前も言ったけど、薫子に恋愛感情はない」


 薫子は泣かないように必死で嗚咽をこらえていた。でも、なぜか彼女の感情が伝わってきた。薫子の目だ。目が絶対に逃げない、って言っている。


「……あははっ、やっぱり振られちゃったね。自業自得だから仕方ないもんね。というか、蓮也って黒瀬先輩みたいな人がタイプだったんだね」


「そ、それは――」


 薫子は俺の顔を見て――胸を押さえた。


「……すごく良い笑顔だよ。……よしっ、蓮也、明日からまたよろしくね!」


「あ、ああ」


 そういって、薫子はこの場を立ち去った。何度も何度も振り返って手を振っていた。

 子どもの頃、一緒に遊んだ時みたいに――


 でも、俺は懐かしい気持ちというものがよくわからなくなっていた。





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