第二章幕間 ある作業員が残した手記2
4月9日
俺は天国に居た。天国って言っても死んだ訳では無い。だが、そこは確かに天国と呼べる場所だった。洞窟から少し離れた場所にある天国。
そこにはバカでかいお風呂、まっさーじキカイ?と言われる謎の気持ち良い物、最高級の美味い飯、ふかふかベッド、まんがと呼ばれる迫力ある絵が描かれた書物があった。
端的に言えば最高級の場所だった。王国中を探したって、ここより凄い所は無いと言い切れるほどに心地のよい場所であった。
そんな心地よい場所に、なぜ俺みたいな庶民がいるのか?
その訳なのだが、どうやら俺みたいな魔石を発見した人間を隔離するためらしい。隔離って言っても、誰かに病気を移すとか危険な理由からしている訳では無く、単に俺が魔法を使わないか監視する為にしているらしい。
そのため、魔石発見者が逃げ出したり、魔法を使う気にもならないように、考えられる最高の娯楽や食事を用意したと、昨日、上司が自信満々に言っていた。
だから、俺みたいな庶民がこんなに素晴らしい設備を過ごすことが出来るのだ。
まぁ、その代わり、魔法を少しでも使おうとする素振りを見せるだけで、十数人の職員が飛んでくるんだけどな・・
でも、そんなことがどうでも良くなるぐらいここは最高だぜ!! 最高すぎて脳が溶けるぅぅ!!!
ただ、物凄く違和感を感じるのが、ただの1企業がこのような桁外れた設備がある部屋を用意できるのだろうか?
この施設だけで国家予算並の資金が掛かっているようにも見える。
その上、そんな凄まじい設備が揃った部屋がたった1部屋だけで無く、何部屋もあるのも奇妙な話であった。
しかし、そんな違和感がなくなるぐらいここでの生活は快適だった。その快適さは昨日怯えて暴れていた俺が、この部屋に入るなり、一瞬にして落ち着きを取り戻し、上司と普通に会話出来るぐらいに回復する程だ。とにかく快適。恐怖が溶けてなくなるぐらいの気持ちよさなのだ。
ただ、一つだけ嫌なことがあって、それは快適さとは程遠いことを1日に1回、やらなければいけないことだった。
それはちゅーしゃ?ちゅうしゃ? 呼び方はよく分からないが、ちゅーしゃというものだ。ちゅーしゃと聞いてピンとくる者は恐らく居ないだろう。だが、これはとんでもない拷問であった。
想像してみてほしい。皮膚に針を勢いよく突き刺す痛みを。針が刺さっている光景を。
どうだ? 想像したか・・・・・?
痛いだろ?
泣き叫ぶ者もいるかもしれない。痛みに吐きそうになる者もいるかもしれない。
だが、ちゅーしゃとはそれをする拷問であった。しかも、それだけでは無い。その突き刺した針を使って、俺の血液を抜くのだ。
想像してみて欲しい。チクッとした痛みがした後、何か吸われるような感覚が襲う気持ち悪さを。とても平常心でいられなくなるような拷問である。だが、それをこの施設にいる間は1日1回しなければならないらしい。要するに後5回はこの拷問をしなければならないのである。本当に最悪であった。
だが、これを聞いて皆も思ったはず、何故こんな拷問をするのか? そんな拷問をしたら、この施設から逃げ出したくなる者も出るのではないか? と。俺もそれがとにかく気になった。
そのため、初日になぜこんなことをするのか、そこの職員をぶん殴って聞いた。(殴ったことは悪いが、いきなりなんの説明も無いまま、ちゅーしゃをしたからおあいこだ!! )
そうすると、職員は殴られた頬を抑えながら、
「お前の血液から体に異変がないかどうか確認しているんだ。俺達もやりたくてやっている訳ではない!! 」
と言った。それと同時に俺を心配するように見ている。その姿はとても俺を痛めつけるために、嘘をついているようには見えなかった。そのため、殴ったことを謝り、他にも気になったことを質問してみた。
「なんでそんなことをする必要があるんだ? 魔石にはやっぱり何か危険な力があるのか? だから、俺をここに閉じ込めているのか? 」
とこの仕事をしてから気になっていることを聞いた。そうすると、職員は
「上から君たち作業員に詳細な情報を伝えることは禁止されている。だけど・・・・ あの魔石は本当に君が思っているような物では無いんだ。みんなが言っている通り、魔力さえ流さなければ安全なんだ!! 」
と涙ながらに訴えた。いきなりの涙に流石の俺も呆然。いくら俺でも泣いているヤツに厳しくいくことは出来ない。そのため、その後は魔石について聞き出すことができず、ちゅーしゃの時間は終わり、天国みたいな部屋に戻された。
結局、魔石については何も分からなかった。ただ、再三言われてきた魔力を流してはいけないという命令は本当のようだった。
(昨日の日記の終わり方すごくない? ホラー小説みたいだよね。俺、小説家目指そうかなぁ)
4月10日
今日も天国〜
ちゅーしゃは嫌だぁ〜
4月11日
まんが? という物がとてもおもろい。部屋中のまんがを読んでしまった
4月12日
俺が初日に殴った職員が、俺の血液に異常はないと教えてくれた。よかった
それでも、15日まではちゅーしゃはあるらしい。最悪。あれ痛くて気持ち悪いだけじゃなくて、あれやった後も頭がぐわんぐわんするからガチで嫌い
4月15日
今日でこの天国みたいな部屋ともお別れらしい。とても悲しい。まんがやマッサージきかいとお別れなんて悲しすぎる。唯一、嬉しいことはあのちゅーしゃとお別れできることだ。よっしゃあああ!!
でも、この部屋ともお別れだと思うと悲しいね。金貨全部渡すから住ませてくれないかな? まぁ、多分それをするには金貨が何十枚も必要なんだろうけどね・・・・・
とにかく、明日から仕事を頑張ろう!!!
4月16日
きょう、ひさしぶりのしごと。たいへんだったけど、すごとあとのさけうまかった。頭はたらかない
4月17日
昨日の日記酷すぎだろ。シラフになった瞬間、顔が真っ赤になったよ。
消したかったけど、それは俺のポリシーに反するから消せない。クソ〜、そんなポリシー立てなければよかった。
まぁ、仕方ないんですよ。昨日はね。
だって、俺の復活祝いってことで上司も混ぜて、宴をしたんだからね。
仕方ないよね。酔ってたから。うん、仕方ない。
酔ったまま書いたから、あんな文になったんだよ。
酒当分禁止にした方がいいかなぁ?
まぁ、どうせ禁酒は出来ないだろうけど、明日からは真面目に日記を書きます。
4月28日
やばい。やばい。やばい。やばいことがあった。
なんでこんなに日記が遅れたかって?
そんなのは今はどうでもいいんだよ!
とにかく、やばいんだ。今もあいつらが眠っているからこうやって日記を描ける。
でも、もしあいつらにこのことがバレればまずい。
だから、とにかく急いで書く。
時は10日前、俺はいつもの通り仕事場に行き、真面目に働いていた。
すると、突然叫び声が聞こえた。うぎゃーとか、うわーとかだ。
それと同時に何か鉄臭い匂いが洞窟中に広がった。
その匂いに俺も驚き、後ろを振り返る。
そうすると、あいつらがいたんだ。
奴らだ・・・・・・
そう、ゴブリン達だ。そこにはバンダナを巻いたゴブリンと、2匹の普通のゴブリンがいた。3匹とも斧を持ち、そこに立っていた。
普通の平民なら少し驚くだろう。
だが、俺たち作業員の多くは大抵、冒険者に憧れた者が夢やぶれて、しぶしぶ作業員になる場合が多い。
そのため、当然の知識として、ゴブリン達が弱いってのは知っている。
それに、辺境の村に1度でも住んだことがある者なら、ゴブリンの弱さを知っているため、この場面で怖がることはない。
だから、俺たちは正直油断していた。油断していたんだ。確かに、その時は洞窟にいるせいで魔法を使えないのだから、油断するべき状況では無いのは間違いないが、その時はゴブリンが相手と言うことで油断していた。
だって、あのゴブリンだぞ。魔法を使えない村人でも簡単に倒せるゴブリンだぞ。
そんな魔物のたかだか数体に、成人男性数十人が負ける訳ないだろ!!
だが、現実は違っていた。
そこにあったのは殺戮であった。
最初、筋肉ムキムキの作業員がゴブリンに油断して近づく。少しニヤニヤしながら、腕を鳴らしていた。俺たちもそいつに冗談で
「ほんとに倒せるのか〜? 」
「負けたらかっこ悪いぞ」
など野次を飛ばしていた。その時の俺たちは正直悪ノリしていた。魔物がやって来るという非日常感がたまらなく楽しかったのだ。
それはゴブリンに近づいた作業員も同じなようで弱そうなゴブリン達を煽ったり、挑発していた。
そんな彼に、バンダナをつけたゴブリンは斧を振るう。いつものようにゴブリンがする単純攻撃かと思い、彼は軽く躱そうとする。いや、実際躱したのだ。躱したはずなのだ。
だが、数秒後、そこにあったのは足を切断され、悶え苦しむ作業員だった。
余りのことに理解が苦しむ俺たち。全く理解ができなかった。
なぜ?なぜ? なぜ彼の足が切られている?
頭に???が浮かぶ。彼は確実に避けたはずだった。それなのに、そこにあるのは足と体が別れた男の姿だった。それに呆然とする俺たち。中には、恐怖で動けない作業員も居た。すると、バンダナをつけたゴブリンが
「イうごトぅキケ イゥ子トぅキケ」
と足がない作業員を指さしながら、言葉に近い何かを何度も繰り返す。最初は何を言っているのか訳が分から無かった。ただ、何回も繰り返されるうちに、何を言っているのか気づく。
言うこと聞け
次第にそう言っているように聞こえてきた。そして、足がない作業員を指さしている理由も、言う事聞かなければ、お前らもこうなるぞと脅していることが分かった。
それがわかった俺はすぐさま、まだ分かっていないような作業員に伝えようとする。だが、遅かった。俺が叫ぶ前に、2人の作業員がツルハシを持って、ゴブリンに襲いかかる。
「ゴブリンごときに負けるかぁぁ!! 」
と叫びながらツルハシを振りかぶっていた。すごい勢いだ。その上、連携も凄かった。
それは歴戦のパーティのように洗練された動きであった。
それもそのはず、この2人は元冒険者で、訳あって今作業員をしているらしい。そのため、作業員とは比べ物にならない連携攻撃を繰り出すことが出来たのだ。
それなのに、バンダナゴブリンに攻撃は一切当たらない。
全ての攻撃を躱している。
そして、それを嘲笑うようにニヤニヤと笑い続けている。
その顔を見て、ムキになる作業員。どうにかして攻撃を当てようと必死にツルハシを降る。彼らも元冒険者のプライドがあるようだ。
だが、次の瞬間、ツルハシを持った彼らの腕は、彼らの体から離れ、遥か彼方へと吹き飛んでいた。ツルハシと一緒に吹き飛んで行った。
その腕は、あの薄気味悪い笑顔をしているバンダナゴブリンが斬った訳では無い。
斬ったのはバンダナゴブリンの後ろについてきていた︎︎ ︎︎ ︎︎"︎︎普通のゴブリン︎︎ ︎︎ ︎︎"︎︎だった。
それは一瞬のことだった。作業員達がムキになり始めた瞬間、示し合わせるように、それまでバンダナゴブリンの後ろにいたゴブリン達は、すぐさま2人の作業員の横に付き、武器を持った腕を切り落とした。凄まじい速さと連携だった。
「うぁぁぁぁぁ、、、」
鈍い音と共に叫び声が洞窟中に響き渡る。苦痛に歪んだ顔を2人は浮かべていた。とても苦しそうだった。
だが、ゴブリン達はその姿を見て、気持ち悪く笑っている。今すぐにもぶっ飛ばしてやりたくなる気持ち悪い笑顔を浮かべていた。
本当に倒したかった。
でも、体が思うように動かない。恐怖で体が動くのを拒否していた。他の作業員も同様のようであった。中には震えを抑えられていない奴もいた。
そうしていると、バンダナゴブリンが腕がついたツルハシを拾い上げた。体から離れた腕なのに、しっかりとツルハシを握っていた。そして、バンダナゴブリンはその腕をツルハシから離して、口の中に放り込んだ。
そして、クチャクチャとその2人に見せつけるように腕を食べていた。ゆっくりと舐め回すように腕を噛み砕いていた。時折、鳴る筋肉を押しつぶすような音がとても気持ち悪い。
そんな物を見た2人は痛みも忘れて、怒りの目をゴブリンに向けていた。これ以上ない程の憎しみだ。
だが、ゴブリン達はそれすら笑い物にしている。ギャッギャツと気持ち悪い笑い声を響かせていた。
俺達も怒りが湧いてきた。だが、体は動かない。あんな連携を持った2人ですら勝てない魔物。そんな化け物に勝てる訳が無かった。それがわかっているから、動くことが出来なかった。
そうしていると、バンダナゴブリンは握っていたツルハシで、洞窟の壁を指しながら
「ホォレぇ、帆Oレ」
と訳の分からない言葉を繰り返していた。だが、俺達も流石に何を言っているのか理解出来た。
ツルハシでこの壁を掘れ。
そう言っていることが理解出来た。要するに俺たちを働かせたいということだった。
俺達はすぐにツルハシを持って壁を掘り始めた。懸命に壁を掘り続けた。足を失った作業員の悲痛な叫び声が洞窟に響いていたが、そんなことを気にせず掘った。
その様子すらゴブリン達は楽しそうに見ている。憎たらしかった。今すぐにでも殺してやりたかった。だが、出来ない。俺にはそんな力がないから・・・・
すると、腕を切られた作業員の1人が雄叫びを上げる。
「ウオオオオ!!! こうなったらやけだぁぁぁ!! 」
そう言いながら、切られていない方の腕をゴブリン達の方に向ける。魔法陣が浮かぶ。
不味い。あいつ、魔法を使う気だ。止めないと。その時の俺はすぐにやめろと叫んだ。皆も叫んでいた。だが、その声は雄叫びによって消える。全く届かない。
俺たちがあたふたしていると、遂に彼は
「いっけぇぇぇ!!!!!! 必殺の火炎弾!!!!! 」
鼻血を出しながら、炎の弾をゴブリンに向けて放った。凄まじい大きさの炎がゴブリン達、目掛けて襲う。
これは倒せる。そう確信できるまでに大きい炎だったのだ。
俺はこの洞窟の禁忌を破った彼を責める気持ちもあったが、それよりもあのゴブリンを倒すという偉業を成し遂げる彼を褒めたくなった。あのウザイゴブリンを倒すことに拍手を送りたくなった。他の作業員達も同じような気持ちだったと思う。
だが、現実は違った。あの炎は確実にゴブリン達を喰らおうとしていた。倒す寸前だったのだ。しかし、バンダナゴブリンが斧を一振した瞬間、その炎の弾は消滅した。あんなに大きな炎が一瞬にして消えたのだ。
俺たち唖然。驚きすぎて体を動かすことが出来なかった。だが、1番衝撃を受けていたのは炎を放った張本人だった。彼の顔はまさに何が起きているのか理解できないという現実を受け入れることができていない顔だった。
それすらも、ゴブリン達は笑っている。ケケケケと気持ち悪い声を響かせていた。そこには絶望しか無かった。そこに居た作業員全員がこいつらに勝てないことを確信した。反撃を画策していた者、逃げる準備をしていた者、恐怖で動けない者、その全てがこいつらには勝てないことを確信した。
そんな俺達に更に悪いことが起きた。それはゴブリンの数が更に増えたのであった。入口から、ぞろぞろとゴブリン達が入ってきたのだ。数にして、百は容易に超えていたと思う。中にはローブを被ったゴブリンや甲冑を着たゴブリンなど、バンダナゴブリンより強そうな奴らも何匹も居た。
絶望であった。俺たちは完全に希望を絶たれたのであった。逃げるという考えすら湧かなくなった。
こうして、俺たちの地獄の日々が始まった。
5月8日
ようやく日記を書くことが出来た。俺たちの監視役が毎晩、交代交代で俺達を監視しているため、余り書ける日を見つけられない。
今日もたまたまゴブリンが寝てくれたから、書くことが出来た。
そんな事は置いていて、今俺たちは相当やばい状況にいる。
ゴブリン達はどうやら、俺達を殺す気はないようだ。ドブのように不味いが、一応飯もくれるし、クソみたいな泥水だってくれる。このことから最低限俺たちを生かす気はあるようだった。
だが、同時に奴らは俺達を過労死させる気もあるようだった。
それぐらい、奴らは俺たちを長時間働かせている。
奴らが俺達にやらせることは、大抵の場合、俺達の普段の仕事と同じで、洞窟を掘らせることだ。(恐らく、魔石が狙い? )
だが、いつもと仕事量が全然違う。
寝ている時間以外は働かせてくる。
その寝る時間も5時間程で、しかも凸凹だらけの洞窟の地面がベッドだ。
勿論、枕や布団などはない。
だから、ぐっすり眠ることなどできない。
それでいて、それ以外の時間は壁を掘ったり、洞窟の近くにある森林での木の伐採(用途不明)
もう限界だった。
体も精神もボロボロで動くことすら辛かった。
しかし、少しでも仕事をサボろうとすると、見張りのゴブリン達にバレて、サボった奴を痛めつける。
死なない程度にボコる。
奴らも俺らのことを労働力として扱っているため、殺さないようにしているようだ。
だが、中には加減を間違え、殺してしまうゴブリンもいた。
だから、辞められない。辞められないのだ。
痛いのは嫌だから必死に働いている。
死にたくないから必死に働く。
例え、飲み物がドブのように不味い物でも、食事が吐瀉物のように不味くても、必死に働き続けた。
そうするしか、ここでは生きる道が無いから・・・
5月14日
今日は魔法使いのようなゴブリンが魔法で冒険者を殺した。
冒険者は見たところ、駆け出しの冒険者だった。
完全に彼らが対応出来る魔物のレベルを超えていた。
どうやら、冒険者本部も今の現状を大変甘く評価しているようだ。
そんなミスのせいで死ぬなんて本当に冒険者達が可哀想だった。それと同時に申し訳なく思った。
だが、彼らの死のおかげで分かったことがある。
それはこの洞窟内で魔法は使用できるということだ。
ゴブリンが襲撃してきた1日目もそうであったが、やはりこの洞窟内で魔法を使用しても死ぬことはない。
恐らくだが、この洞窟で取れる魔石に魔力を流すとやばいだけであって、この洞窟自体には魔法を使うことでのデメリットは無いと思われる。(長期にわたる副作用があるかもしれないが・・・・ )
その事実があるなら、ひょっとしたら逃げれるのかもしれない。
5月20日
とうとう洞窟を囲むバリケードが完成してしまった。
以前からゴブリン達が洞窟の外で何かしていることはゴブリン達の雰囲気から分かった。だが、洞窟の外に出ることは出来なかったため、奴らが見張り以外の時に何をしているのかは知らなかった。
だが、今日は珍しく、奴らが作業員全員を洞窟の外に集めた。久しぶりの太陽に皆、目を輝かせていた。とても綺麗だった。しかし、その輝きは一瞬にして消えた。
俺たちの目の前には洞窟を囲むようにバリケードが出来ていた。バリケードと言っても村にあるような簡易的な物ではなく、3mぐらいある大きく、そして太い物だった。
とてもよじ登って脱出など出来るはずが無かった。
どうやら、俺たちは自分達を閉じ込めるためのバリケードの素材集めをしていたようだ。沢山の木を切っていたのもこのためのようだった。最悪だ。
バリケードの大きさに絶望する俺たち。強化魔法でも飛び越えるのは難しい代物だ。その事実に絶望して泣き出す者も居た。
だが、それすらも奴らは面白可笑しく笑っている。何十体ものゴブリン達が俺たちを笑っていた。奴らは俺たちの心を折るために、わざとバリケードの素材集めをさせ、そして、最後にこのバリケードを見せたようだった。
知能の低いゴブリンの作戦。こんな奴らの思い通りにはなりたくなかった。だが、そんな奴らの作戦は大成功だった。
そのバリケードを見た瞬間から、作業員達は逃げる気力など完全に消えていた。
当たり前である。どんなに監視が厳しい洞窟を逃げ出したとしても、その先に待っているのは3mを超えるバリケード。よじ登って逃げるのは不可能。かと言って、出口も北、南、西の3つだけ。その上、その出口には何体もの見張りがいる。
誰がどう見ても、逃げるのが不可能だった。どんな馬鹿でもその事が分かった。
だが、俺は逃げるのを諦めなかった。絶対諦めたくなかった。ほかの皆が諦めても、俺だけは諦めなかった。
だから、俺はその日が来るのを静かに待つ。
6月7日?
今日は大量に村人や冒険者が連れてこられてきた。その数は30人を超えると思う。ただ、彼らの中の数十人は腕が無かったり、足がなかったり、俺たちの仕事をするのには、絶対適していない人達が何人も居た。
だが、ゴブリン達もそれをわかっているようで、その怪我人達を働かせることなく、どこか別の場所に連れて行ってしまった。
彼らを何処に連れてったかは不明。
恐らく洞窟の外だろうが、本当のところは俺達のような作業員には分からなかった。
何故なら、バリケードが完成してから、一度も洞窟の外に出てないからだ。
俺たちは、長い間陽の光を浴びていない。
暗い洞窟内で何日も過ごしいている。
頭が本当におかしくなりそうだった。
バリケード完成前なら木の伐採などで外に出る機会もあった。だが、バリケードが完成してからというもの、一切俺達を外に出すことは無くなった。
恐らくだが、ゴブリン達は俺たちから、逃げる機会と逃げる気力を完全に奪いたいようだ。
そのために、奴らは、今俺達を外に出さないようにしているんだと思う。敵ながらアッパレだ。奴ら、人間の精神の折り方をとことん知ってやがる。
多分、奴らの上には相当頭が切れる奴がいるんだとおもう。
6月8日
今日はとうとう過労死した作業員が出てきた。当たり前だ。
あんな過酷な労働環境で死なない方がおかしいのだ。
みんな限界に近かったのが今日で爆発した。
発狂して、逃げだす者も居た。ゴブリンに抵抗する者も居た。
だが、そうなったヤツは全員、目の前で処刑された。
見てられなかった。
思い出すだけで吐きそうだ。
6月17日
今日も冒険者が殺された。彼も中々の実力者のはずなのにだ。もう何人殺されたか分からない。冒険者が殺される度に、ゴブリン達が自慢そうに冒険者の武器を振り回しているのが、本当に気色悪い
6月21日
ごめんなさい。
7月1日
遂に作業員が魔石を見つけた。
今回は俺じゃない。
別の作業員が見つけたのだ。
前と同じように辺りを魔石の輝きが照らしていた。綺麗だった。久しぶりの強い光に目から涙が溢れた。
だが、それと同時に甲冑を着たゴブリンがその魔石を作業員から奪い取り、外に出て行った。
ゴブリン達も魔石を見つけて、心の底から喜んでいるようだった。
余程嬉しいのか、宴を始めようとしてた。酒を用意し、何かの肉を持ってきていた。
ご丁寧にフォークなども持ってきていた。
勿論、俺たちにくれることはないが・・・
ただ、俺はこの時を待っていた。今夜が逃げるチャンスだ。
ゴブリンが魔石を見つけたことにより、魔法が使えず、宴を始めている今こそチャンスだ。絶対に逃げ切ってやる。
不味い。まずい。
奴らは俺の思っているよりやばかった。
作業員如きの俺が逃げられるような魔物じゃなかった。俺の生活魔法如きじゃ、勝てる訳がなかったんだ。
今は幸いアイツらを巻くことが出来て、隠れられているが、それも時間の問題だ。こんな場所じゃ、すぐ見つかるだろう。
まぁ、どの道、俺は数分後に死ぬ。
投げナイフが刺さって出血が止まらないからだ。
あいつが投げたナイフが刺さっちゃダメな所にに刺さったようだ。
もう無理なようだ。視界も霞んでいるし、ぺんもふるえる。意識だっていつまで持つか分からない。
だから、俺が伝えたいことを書いておく。この日記を見つけた者の為に助言を残しておく。
洞窟内では魔法が使える。
ゴブリンの数は百を超える。
ゴブリンを舐めるな。
あいつらは異常に強い。
絶対に普通のゴブリンでも舐めるな。
ゴブリン達は街を作っている。気をつけろ。
バンダナゴブリンの斧には何か細工がある。射程に気をつけろ
ゴブリンの親玉は相当頭が切れる奴だ。
絶対に侮るな。
洞窟の入口は無視しろ。
もうどうしようも無い
魔石に触れたら魔法を使うな。
恐らく使ったら死ぬぞ。
ゴブリン達は人間と取り引きしている。
バンダナゴブリンが魔石を人間に渡しているのを見た。
今日見つけたあの石をだ。
人間側はフードを被っていたため、性別すら不明。
もしかしたら、冒険者組合、王国騎士団もこの件に関わっているのかもしれない。
だから、誰も信頼するな。
洞窟の奥には絶対来るな。
ゴブリンよりもヤバい奴らがいる。
絶対来てはダメだ。
来たら死ぬぞ。
あれは恐らく奴らの奥の手だ。
最後に、母さんごめん。喧嘩したまま出て行って。先に逝くことを許して欲しい。
とにかくだ。
これを読んだ奴はゴブリンを止めてくれ
お願いだ。
それだけが




