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アトレイシアともう一度  作者: 長原玉乙
6下
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長年放置していた表記の変更をしました。いまさら。

「――これは……どうなっているんだ? あの列はなんだ、まるで敗残兵だ」

 朝になり、食事を済ませたわたしたちは、ケイトの案内で最寄りの味方陣地まで戻ってきていた。

 そこで目にしたのは、ぼろぼろになって西に向かって歩いていく兵隊の列。夜は戦場から離れ過ぎていてわからなかったけど、味方は酷くやられたらしい。

「おい君、おれは歩兵13師団のリベックシャー四等位准将だ。君たちの所属を教えてくれないか?」

 リベックシャーは人列に駆け寄って、下士官に声を掛けた。背後を振り返って悔しそうな顔をしてたから、気はしっかりしてるだろう。リベックシャーはその点よく見てる。

「我々は、歩兵第14師団所属のマーシーン・ベーレー連隊、第2戦士団です。団長はハルマン三等位准将。この先にいらっしゃいますよ」

「14? そうか……。済まないな、先日来たばかりで部隊の見分けが付かなかったんだ。それと、ブレイブジャダル将軍――13師団は何処か知らないか?」

「13師団なら後ろです、第3線で敵を食い止めていますよ。ですが、長くは持たないでしょう。敵は大群です」

「あっちか。有り難う、助かったよ。この先も油断するなよ。奴等は何処からでも襲って来るからな」

「第3線に行く気ですか? これは骨のある貴族さまだ、どうかご無事で」

 下士官は感心した様子で敬礼し、リベックシャーは再び礼を言うと背を向けて歩き出した。

「アトレイシア、ケイト、面倒ばかり掛けて悪いがついてきてくれるか?」

「ん。――いい? わたし、戻った方がいいかな?」

 もともと与えられてた仕事から考えるとかなり余計なものに付き合ってる。いまごろヘッドはわたしたちがいなくて困ってるかも。ケイトが連れて帰るように言われてるなら帰らないと。

「アトレイシアと合流してからの指示はない。護衛しよう。前線にいけばスズリカたちもいるはずだ」

 なるほど、よかった。ついでにスズリカたちと合流できて一石二鳥ってやつだ。迷うことはない。

 いざ、東へ。わたしたちがついてくるとわかると、リベックシャーは喜んでくれた。

「将軍だって護衛の獣人はひとりのところを、二人もいてくれるなんてな、おれは恵まれてる」

「肝心の部下には恵まれてなかった」

「言うなよ……」

 リベックシャーはため息をついた。ブレイブジャダル将軍は大変な目に遭ってるだろうに、颯爽と駆け付けておいて「自分ひとりです……」なんて言ったらなんて思われるやら。あきれて怒られもしないかも。

「ブッチの野郎、おれより上手く人をまとめやがって、本当だったらもっとこう……」

 なんかぶつぶつ言い始めた。そっとしておこう。

 それからしばらく、心なしか歩みの遅くなったリベックシャーの横でケイトと二人、昨日別れてからのことを話ながら歩いていると、後ろから車が近付いてきた。しかも戦車だ。

「トミオカか……? ――いや、フランス軍だ」

 フレンチさんか、最近数が増えてきたからひとまとめにされたって話だけど、戦車まで配備されてたんだ。

 その戦車が先頭を走っているのが見える。隊員たちに合わせてフランス製の戦車だ。えっと……R35だっけ。後ろには2両のFTと3両の馬車が続いてる。

「アトレイシアとケイトだな。――あなたは?」

「神聖連邦軍四等位准将のハマル・リベックシャーだ。この娘たちと、急ぎベーレーレン第13歩兵師団に合流しなければならん。乗せてくれないか」

「馬車はいっぱいだ。戦車の上なら良いでしょう。わたしはジャン=ユーグ・ペール。ペールで結構です」

 車長はペールさん、戦車乗りの中じゃ最年長のおじさん、もといお爺さんだ。階級は知らない。

「ありがとう。助かるよ」

「なに、獣人が一緒なら心強いので。――そこを掴んで。そう、しっかりと。落ちたらタダじゃ済まない」

 耳当て締めて、準備よし。フランス戦車の乗り心地はどんな感じかな。自分が車内の乗員になってと言われたら全力で断るし、そうそう乗れる機会はないと思う。

 リベックシャーは車体の前に、わたしたちは砲塔に腰掛けると、エンジン音を一際響かせて戦車は出発した。

「どうだ、我々の戦車も存外悪くないだろう」

「……こうして乗るぶんには、れっきとした戦車だ」

 同意を求められたケイトの反応には含みがあったけど、ペールはそうだろうと得意気。

 この戦車の評判は微妙だ。装甲はそれなりで、口径の小さな対戦車砲なら耐えるけど、足が遅いし主砲も貧弱。そして二人乗りってところもきびしい。車長はひとりで操縦以外の全てをこなす。小柄な獣人ならもうひとり乗れなくもないけど、いまじゃ獣人を乗せるなら機動戦や対戦車戦闘向けの車両っていうのが通例で、真逆の道を往くフランスの軽戦車は獣人に扱わせるにはもったいない。

 ただし、戦車なんて乗るのは初めてのリベックシャーにとってはだいぶ印象が違うらしい。主砲を眺めて、装甲板を撫で回し、目を輝かせてる。

「これはいいな。槍騎兵もいいけど、戦車兵も捨て難い。ベーレーレンでも、師団に配備されるようならおれが指揮したいな。戦車隊では、四等位准将ってどのくらいの立ち位置なんだ?」

「階級的には、マツダが同じくらいだと思う。それくらいしかわからない」

「マツダ? そりゃそうか、知らないよな」

 リベックシャーが知ってるわけないけど、マツダはトミオカに次ぐ戦車隊の重鎮で、他の戦車長よりひとつ格上。ベーレーレンで戦車兵がどういう扱いになるかによるけど、戦車1両くらい任せてもらえるはず。日本軍以外では戦車長くらいもっと階級低くてもやってるし。

「ベーレーレンなら、もう戦車師団があるぞ」

「え、そうなのか? 指揮官は?」

「おじいさんの方のレファイガン将軍だ」

 モルトネの麾下に入ったばかりのリベックシャーは、第2軍の編制に疎い。情報通のようでそうでもない……いや、最前線じゃ部隊が消えたり増えたり忙しいから、何処にどんな部隊がいるかなんて知ってるの将軍クラスでも一部だけか。

「流石はモルトネ閣下、先見の明をお持ちだ。歩兵師団にも配備してほしいな……」

 戦車が配備されると聞いたらどんな部隊だって大喜びするだろう。そして配備された戦車の面倒でわけわかんなくなってブチ切れる。整備作業に慣れてる戦闘団の人だって悲鳴上げるくらいだから。

「それ、たぶん、整備が追い付かない」

 モルトネ将軍なんて、部下が匙を投げた車両の整備をマツリに投げたとか。リベックシャーも内証で戦闘団に整備してもらおうと、貢物を持ってわたしに口添えを頼むようになるかも知れない。

「整備? そうか、困るよな、機械らしいものは錠前くらいしかいじったことが……いや、ということはだ、それさえ覚えてしまえば戦車を都合してもらえるか?」

 前線での経験が少ないせいか、むしろポジティブなリベックシャー。うーん、まあ……いいんじゃない?

 そんな若さ溢れる前向きな将校と、対照的に陰鬱な曇天の下、戦車の上で東を目指していると、ものの数分で空から嫌な音が聞こえてきた。

「あ。おじいさん、飛行機」

「なにっ、敵機か? 何処だ。――あっ、あれか。降りろ降りろ。道から離れるんだ」

 ペールさんはわたしたちを戦車から降ろすと、道を外れて南側に戦車を並べた。街道を守る塹壕から驚いた様子の兵士が顔を覗かせて、戦車は注目の的になってるけど、これは気休め程度の初歩的な欺瞞戦術だ。いくらか発見される確率が下がるらしい。

「どうしたんだ、敵がいるのか?」

 リベックシャーはまだ飛行機を知らないらしい。もといた戦線には出没しなかったんだろう。空を指差してあげてもピンときてない様子。

「なんだあれは?」

 飛行機です。

「近付いてきた。爆弾は――見えないな……」

 戦闘機かな。車両の区別はそれなりにできるけど、飛行機は見てもよくわからない。取り敢えずプロペラが一つでお腹に何も抱えてないなら大体戦闘機。

「発見されたか!?」

 敵機が降下してきた。見たところ、狙いは戦車らしい。戦車と戦闘機の真っ向勝負だ。

 奥に並んでる馬車は逃げる以外に為す術ないけど、戦車の方は正面装甲なら機銃くらい防げるはず。成り行きを見守っていると、互いに機銃を撃ち合って一合目が終わった。戦車から何か吹き飛んだように見えたけど、大丈夫かな。馬車の方はなんとか列から逸れて逃げ惑ってる。

「あの国籍マークは、日本軍だな……」

「左右で音が違うから……一式?」

 一式戦闘機は左右の翼に別の銃を積んでることが多いから、結構わかりやすい。でも、わかったところでわたしたちができることなんてない。

「旋回してる。また来るぞ!」

 なんとか戦車も動ける状態で片付いてほしいところだけど、旋回した敵機が今度は背後から襲い掛かってきた。さっきより角度がきつくて、戦車は機銃の仰角が足りずまともに撃てない。天板を貫通されて、最後尾の戦車が煙を上げた。

「うわっ、やられたぞ。あれはあれで凄いな! 鉄車の次は鉄鳥か、乗ってみてぇ〜!」

 ひとり呑気にはしゃぐなか、塹壕の兵士はみんな縮こまってるのか姿を隠し、戦車の乗員は大慌てで転げ出て草むらに倒れ込んだ。車長が出血してるけど程度は軽そう。

 敵機はその後逃げ回ってた馬車を一つ大破させると、興味を失ったように真っ直ぐ飛び去っていった。

「終わったみたいだな。くそったれめ、1両やられた。――おいみんな、大丈夫か。3号車どうだ?」

「エンジンをやられています。乗員は軽傷」

「2号車は操縦手が負傷。かなり良くない」

「乗員交代だ。応急処置を済ませたら、お前たちは帰還しろ。動ける馬車で負傷者を運べ」

「親父さん、嵌っちまった。1号車はスタック」

 2号車の操縦手は破片にやられたのか、脚が血まみれで職務を果たせそうにない。1号車の乗員が代わりに乗り込んで、スタックした1号車を牽引する準備を始めた。

「あの馬車、歩兵を乗せたままやられてる……」

 ペールさんたちが乗車をスタックから脱出させようとわちゃわちゃしてる傍ら、随伴歩兵は壊滅だ。生き残りはみんなで別の馬車に乗り換えて、来た道を帰っていった。

「戦車乗りは思ったより大変かも知れないな。――戦車隊長! 手伝おうか?」

「将校さんはそこで見物していてくれ。戦車ってものはな、これが現実だ。勉強になるだろう?」

 飛行機の前じゃ戦車だって大きな顔できない。ペールさんは不貞腐れて、装甲板を平手打ちした。今日という日はどうにも幸先が悪い……。

「よぅし、ぶん回せ! 戦いはこれからだ!」

 わたしたちはスタックから脱したR35の上に戻って、再び東へと揺られ進んだ。周りは砲撃か爆撃か、穴だらけ。戦車は時折窪みを避けて道を外れた。ああ、帰りたい。

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