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「うわぁっ、撃て、撃て!」
「馬鹿ッ、味方に当てるつもりか!? 銃兵は下げろ!」
離れていてよかった。ジャオの連れてる銃兵が撃った弾は数発が弾かれて、近くにいた運の悪い戦士に当たった。
「斬れ、タタッ斬れ!」
こういうときのための歩兵たち。若干腰が引けてるように見えたけど、守備隊の面々はなんとか勇気を出すと長剣を振り上げて斬りかかり、殴られ踏まれで次々死んで、残ったのは逃げ出した。驚きの弱さ。そもそも安物の剣で石のゴーレムなんか切れるのかな。銃で撃つ方が正しい気がする。
「ええい、逃げるな――ギャッ!」
あ、守備兵の偉いさんが死んだ。駄目だこれ。
ジャオのことはさておいて、助太刀したい気持ちもなくはないけど、わたしはゴーレムの相手苦手だし、出ていったところで何ができるってわけじゃない。地中にいる残りのペスティスは何故かもたもたしてて出てこないから、いまならまだ自分たちでなんとかしてほしい。
「このままじゃ俺たちまで全滅する!」
「撃つんだよぉッ! 岩なんて切れるわけないだろ!?」
「銃兵、前に出ろ!」
対抗できる武器を携帯してる歩兵はひと握り。んー、やっぱり……正直ゴーレムの相手もままならない感じだし、このまま見殺しは戦闘団の印象を悪くする気がする。ちょっかいだけ掛けてあとは思うように頑張ってもらう感じでいこう。
ゴーレムに効きそうな武器がいるから、取り敢えず使えそうな銃を拾ってみた。使い方は知らないけど見よう見まねでなんとかなるかな。紙の筒齧って、火薬から先に入れて、弾を落として、あの……あの棒は何処? つつくやつ。銃身つつくやつ。何度も相手してきたけどちゃんと見たことないや。ああ、こうしてる間にも兵士が減っていく。
「何をしている、情けない奴らめ。この程度の石巨人に手間取りおって! この俺が叩き割ってくれるッ!」
見かねて傭兵らしい戦士が飛び出して、ハンマーでゴーレムの胸を叩き割った。重くて頑丈なゴーレムもたまらずよろめく強烈な一撃。こういう武闘家さんはちゃんと訓練したのか怪しい正規の兵士より頼れるな。
ハンマー使いは奮戦して、ゴーレム1体を粉々に叩き壊した。残るは5体だ。わたしも戦闘が得意と自慢の獣人として、もうちょっとそれらしきことをしたい気もする。この銃を使うのは諦めよう。
何かいいものは……杭打ち用のハンマーとかないかな。物置何処だろう。
「おい獣人、何をうろうろしてる!? お前も戦え!」
わ、なんか兵士に絡まれた。面倒だな。
「こいつ、戦う気がないのか? なんて奴だ、ハズレにも程がある」
「ふざけやがって、気に食わない奴だ。捕まえて奴らの前に放り投げてやる。おら、こっちに来い」
兵士は口で言っても聞かないと見るや変なことを言ってきた。周りにいた他の兵士も同調して集まってきてる。下手に反抗すると返って面倒が増えるだろうし、言われた通り近付いて、剣を奪い取ってゴーレムに投げ付けることにした。
「何をしやがる!?」
「戦えって言うから、攻撃した」
わたしがそう言うと、直後に兵士はわたしに殴り掛かってきた。逃げよう。
「待て!」
「馬鹿ッ! ゴーレムがこっちに来るぞ、逃げろ!」
「クソッ、おれは何も――」
わたしを殴ろうとした兵士は文句言いながらゴーレムに殴られてバラバラになった。周りに集まってた兵士も殲滅されて、これで煩わしいことはない。
兵士たちに時間を取られている間にハンマー使いは頭を握り潰されて倒され、兵士たちはいよいよみんなして逃走を始めた。ゴーレム6体に襲われるなんてなかなかないし、獣人だって大抵逃げる。仕方ない。
「逃げるな! 足を狙って撃て!」
ジャオが捕まえた銃兵を指揮して、なんとか持ちこたえようとしてるけど、1体転ばせるので精一杯。別のゴーレムが銃兵のたちの列に突っ込んで、ジャオが撥ね飛ばされた。
「わっ! たっ、助けてくれ――」
あ、ジャオも踏み潰されて死んだ。
「ジャオ、そんな……! ――お前たち、この玉無し野郎ども、さっさと弾を込めろ! この場に残って戦ったら褒美をくれてやる! 逃げたら死刑だ、銃殺するぞ!」
「黙ってろ、退け!」
ジャオと仲のよかった将校は兵士からまともに相手にされず、突き飛ばされて地面に倒れた。幸い怪我はないけど持ってた銃は奪い取られて、死刑執行は後日に見送り。
「後が面倒だ、殺っちまえ!」
死刑にすると言われたら生かしておけないと、兵士二人が倒れた将校に近付いた。ゴーレムは空気を読んで別のところで暴れてるし、だからといって足を止めて助けようとするのもいない。大ピンチ。
不憫な気がするから助けようとすると、将校はさっと立ち上がってサーベルを持ち直し、近付く兵士を難なく斬り捨てた。武門の出なのか鮮やかな手並み。
「このっ、畜生め、なんて奴らだ。――あ、獣人、まだこんなところにいたのか」
「将校さん、やるね」
「でもゴーレムは斬れない。な、なあ獣人、おれたちがどうなってもいいって思うのはわかるけど、なんとか力を貸してくれ。このままじゃ大変なことになる!」
確かに、こんなところにペスティスがうろつくようになったら大変。北から地上の群れが寄ってきてるし、いまだに地下でもたもたしてるのがかなりいる。今のうちにゴーレムを倒さないと。
「わたしの武器でもあんなゴーレム倒せない」
「それでも、そこをなんとか! おれは連発銃を取ってくるから、時間を稼いでくれ!」
「……じゃあ、1体くらいなら、惹き付けておく」
連発銃なんてあるのかな。あるならとっくに出てきてそうだけど。
……あ、そうだ、ハンマー使いのハンマーもらおう。なんだかんだであと3体だし、残ってるのも銃弾で削れていくらか脆くなってそう。いまなら殴ればわたしでもひとりで全部倒せるかも。
そう思ってハンマーを拾ってみると、重い。振り回すには重過ぎる。頑張って跳び上がって、重さに任せて一撃。危ないと思ったら直ぐ捨てて退避。これしかない。よし、ゴーレムさん、いつも通り大振りで殴って。
ゴーレムに石を投げてケンカを売ると、いつも通り腕を大きく振りかぶって殴り掛かってきた。いまだ、ジャンプ。振りかぶって、振り落とす。ゴーレムの頭が頭と認識できない程度に砕けた。
何処かに核があるはずだけど、取り敢えず頭にはなかったらしい。動きが止まる気配がないから、わたしはひとまず逃げることにした。こうなると、核は胴体か。胴体は大きくて砕くのが大変。たぶん、先にわたしの腕が動かなくなる。ここはわたしも足を狙おう。
腕の痺れが取れてから落としたハンマーを拾って、狙うはひざ。ジャンプして狙うのは厳しいから、軽めにちまちま叩こう。その方がわたしの性にも合ってる。
ハンマーの柄を短く持って、叩いては離れるのを何度か繰り返していると、ゴーレムは手足を振り回してわたしの相手をするのに躍起になった。言った分の働きはできてる。焦らずにじっくりやれば恐くない。
「なんだあいつ、その気になればできるじゃねーか。おれたちは大変な思いしてたのに、根性腐ってるな」
「保護者さまたちに抗議してやろう。メシ抜きにでもされればいいんだ」
「それよりあいつも踏み潰されちまえ」
さっきまで逃げ回ってた兵士が、ゴーレムの気が逸れたのをいいことにお喋りしてる。兵士たちは何やら文句があるらしい。あとで面倒なことはどうすればいいか、さっき別の兵士が教えてくれた。もう疲れてきたし、撃っちゃえ。
拳銃を抜いて2発。1発跳弾させて兵士をひとり黙らせると、残りは逃げていった。もう1発はちゃんと当てて、ゴーレムのひざが砕けた。太くて重々しい胴体を支えるには心許ない太さだからか、ある程度欠けるとあとは勝手に壊れる。仕事完了。
「獣人のくせにいいもの持ってるじゃないか。もうひと押しだ、撃ち切ってやれ」
何処にあったのか小銃片手に戻ってきた将校が調子に乗ってるけど、全部撃つなんてもったいない。戦闘団でも拳銃弾なんて作ってないし、こんなところでまともな拳銃を使いたくない。そんなのより、どうせ使い捨てにする銃を使っちゃった方がいい。
将校が数回引き金を引くと、また1体ゴーレムが転んだ。あの銃、アメリカのガーランドだ。こうしてみるとマスケットなんかとは比べ物にならない精度と連射性能は頼りになる。やっぱり頼れる銃はライフル。
これで残るは1体になったけど、土の下でもたもたしてたのがいまになって這い出してきてる。ペスティスなりに考えてモグラ戦術使ってるんだろうけど、ゴーレムにくっついて地下から這い上がる必要がある雑魚たちの身になってみるとまあまあ辛いんだろうな。そこそこ深くからほぼ垂直によじ登るから、ペスティスなら落ちてもしばらく動けなく程度だとしても普通のニンゲンとかじゃ諦める。みんなで登って穴崩れたら生き埋めになるしかなり危ない。
「獣人、あいつを頼めるか? 新手の雑魚はおれが足止めするから、ゴーレムを片付けてくれ!」
「え。疲れた。あの人たちに任せよ」
「は? とにかく、頼んだからな!」
……将校は気付かず走っていっちゃったけど、増援が到着したのはペスティスだけじゃなく、こっちも騒ぎに気付いた友軍の騎兵が救援に駆け付けてくれてる。防具は胴鎧以外身に着けてない軽量の騎兵で、全員何かしら打撃武器を持ってるところ、たぶんモグラ戦術に対応するための遊撃部隊だ。モルトネ将軍、ちゃんと対策してくれてる。
「侵食者め、このビエンキが相手だ!」
援軍を率いる将軍は分銅付きの鎖鎌を手に自ら先陣を切ってゴーレムに挑み掛かり、馬上からひざに一撃を加えた。何処かで名前を聞いたことのあるこの将軍、かなりの使い手。
頼りになりそうな人が来てくれたし、あとのこと全部任せちゃおう。それでわたしのお役目は終了。
しかしどうしよう、ブレイブジャダル将軍は今頃何処にいるんだろう。いっそもう帰っていいかな。
「おおっ、味方か!? 助かった! ――援軍が来たぞ! 誰か爆薬を持ってこい! 動いてる奴は爆破するんだ!」
帰っていいか訊きたいけど、ひとり残された将校は興奮してて話が通じるかちょっと怪しい。
「……ねえ」
「守備隊は? ここの指揮官は誰だ、誰もいないのか!?」
「おい貴様ッ! よく頑張ったな、あとは邪魔だから引っ込んでろッ!」
「なんだと!? ――うわっ、馬がっ」
連れてた兵士たちは守備隊の生き残りと一緒に逃げ去って、将校はそれに気付かず周囲をきょろきょろ。普通に考えて駆け抜ける馬群の只中に突っ立ってるのは危ないし、騎兵からしたら邪魔なのは当然。幸い騎兵の将校さんが通り過ぎざまに頭を叩いて正気に戻してくれた
「こっち、きたほうがいい」
「ひぃ、ひぃ……ベーレーレン騎兵はトメクスレン人に容赦がないな。……歩兵は何処に消えた?」
将校は騎馬の合間を縫って、わたしのいるところまで退避してきた。足の遅いベーレーレン騎兵だから避けるにはラクな部類な気が……襲歩に入ったポーランド騎兵だったら縮こまって向こう避けてくれるの祈るしかないよ。
「連れてた人なら、みんな逃げた」
「嘘だろ? こんなことがあっていいのかよ?」
「知らない。わたし帰っていい?」
「えっ。帰るって……えーっと、待ってくれ。こんなところでひとりにされると困る。あぁっと……逃げた兵は何処だ? 兵士を集めないと。部隊を再集結させて、本隊に合流する」
……それってわたし必要? 将軍の護衛として呼ばれただけで、将軍と別行動になった時点で任務はおしまい。この場でもういいよって言ってもらえたら帰っても大丈夫のはず。たぶん。ケイトがいないからもうやる気ない。
「逃げたやつなら、あっちに集まってる」
「そうか。呼び戻してくる」
将校はわたしの指差した方に駆けていった。ここにいたらペスティスの相手しなくちゃいけないし、ついていこう。
……あーあ、楽なお仕事もらえてたはずなのに、どうしてこうなっちゃたかな……。




