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氷炎護リ人  作者: 有麻環
幕間
83/95

5章 18 静かな炎

「それで、俺達は何をすればいいんスか!?」

 

「えぇえぇ、とても気になりますね!」

 

「どーどー落ち着け蓮夜くん。私さっきちゃんと言ったろ?『思いの丈を届けましょー』って!」

 

「それじゃあわかんないっス!あとストーカー研究員は口を挟むな!!」

 

「おや手厳しい」


 シアン達が激しい戦闘を繰り広げる中、一度部屋の隅に寄ったライア達。丁度ライアによって例の繭をリザイア本人の手で()()()()開けさせるための作戦を説明されるところであった。

 しかしその輪に異物が一人、否、一つ。此度の黒幕とも言えるギルドー=ガンド本人、その顔を映したモニターが混ざっていた。


「あ、(ワタクシ)のことはお気になさらず。(ワタクシ)もう既にその大陸にはいませんので、最早結果のデータを処理することしかできませんし、妨害なんて以ての外!」


 蓮夜がガンガンとモニターの破壊を目論むが、案外硬い素材らしい、少し傷がついただけで画面向こうの本人は気にもしない。むしろ、悔しがる蓮夜に対する勝ち誇ったような高笑すら聞こえてくる。

 そんなギルドーの様子に首を傾げる葉が彼に問い掛けた。

 

「貴方はリザが神になるのを止めたくない側の人でしょ?何を興味津々にその妨害作戦を知ろうとするの?普通もっと引き止めない?」

 

「ふむ。最新の迷イ人(ニューサンプル)のお嬢様?貴女は何か勘違いをしているようですね」

 

「勘違い?」

 

「まず一つ。貴女方が来ることはこの実験を成功に導くための重要な要素の一つです。まさに今貴女たちがやろうとしていることこそ、(ワタクシ)が丁度期待していたことですからね」


 その問いに対する答えを、画面の向こうでたいそう機嫌のよい声が饒舌に語り始めた。

 

「そして二つ、(ワタクシ)の研究テーマはあくまで『神と人間の魔力の違いについて』。人の体を利用して神が作れるかどうかはその過程に過ぎないのです。つまり、貴女の問への答えはこうなります――『リザイアお嬢様が神になってもならなくても、(ワタクシ)は結果を得る。前代未聞の実験ですからね。失敗も成功も、全てが(ワタクシ)の利益となる』」


 淡々と言ってのけたギルドーに葉達は言葉を失ったようだ。比較的思考回路が早かったシャナの顔が、悔しさとも憎悪とも見える形に歪んでいた。

 それもそうだろう。これは単純に勝った負けたの話ではない。

 

 こちらの勝利条件が「リザイアの救出」と明確であるのに対し、ギルドーのそれは「人と神の融合実験によるデータ収集」。彼が実験を始めた時点で、彼の勝利は確定しているということだ。

 かといって。ならばこちらは初めから負けているかと言われればそれは違う。これら二つの勝利は同時に得られるものである。


「まーそう怖い顔しなさんな。このヤローの存在は一旦無いものとして、私達は今やるべきことを確実にこなす。じゃなきゃ本当に負けちまう」


 ライアは固まったシャナと葉の頭を豪快に撫で、それぞれに指示を出す。

 二人はハッと正気に戻り、その目は今をしっかり見据え、その決意に満足したライアの眼光も鋭く輝いた。


「まず確認だ、シャナ。お前の魔力否定は特定の相手にのみ作用させることは可能?」

 

「うん。可能。弓矢が当たれば」

 

「おーけー次。葉姉、空の薬莢はまだ持ってるか?予備とかない?」

 

「えっ……と、あるよ。一個だけ。でも空だから撃っても何もできないけど……」

 

「なーに、空なら中身を入れてやればいいだけの話だ。ちょっとそれと銃貸してくんない?」


 葉から透明でガラス細工のような薬莢を受け取り、ライアは自身の中でも確実にリザイアに届くであろう魔力を込めた。そして一丁の銃にそのたった一つの希望を託す。


「俺は?俺は何すればいいっスか!?」

 

「お前は一番声がでかいから最後のトドメ役」

 

「声がでかいから…………?」


 ライアへ詰め寄る蓮夜。まるで自分のできることが増えて親の手伝いをしたがる子供のようだ。それを言えば確実に怒るのでライアは口を閉ざしたが。

 非常にざっくりとした説明に宇宙を背負った蓮夜。

 そんな彼を放って、ライアは次なる流れを示す。


「まずシャナ。もう少しすれば多分シアンが一撃くらい繭に切り込みを作るだろう。その直後、間髪入れずに魔力否定を繭に食らわせろ」

 

「まって。それはシアンが今の相手を倒せる前提で言ってる?」


 シャナの不安はもっともだ。

 現在のシアン達は天使らしき巨大物体に苦戦を強いられている様子。更に、彼女の神壊術を持ってしても繭には傷がついただけ。神に近しい敵との戦闘中に他の事を為す余裕があるのかと疑問を抱くのは当然と言える。

 しかしライアは一切表情も声も変えずに、ただ当たり前のことを述べるように口を開いた。

 

「勿論。アイツはやるよ、必ずやる。だからその一瞬を逃すな」

 

「…………うん。了解」


 それは長年共に過ごした信頼故か、それともシアンの執念の理解者故か。どちらにせよ、ライアにとってその予測は確定した未来として見えていた。


「で、その後私がこの弾ぶっ飛ばす。多分その後私は一切反応できなくなるから、蓮夜は思い切りリザに声をかけろ。アイツが帰ってきたいと思えるようなお前の心の内を、正直に。そういうの得意だろ?」

 

「うーん、なんだかよくわかんないっスけど了解です!」

 

「よし。じゃあその時が来るまでシャナは集中。葉、蓮夜……そんでそこに隠れてるメイドちゃんは、お姉様の足止めだな」

 

「うえぇ…………気づかれてるし……」

 

「トーンさん!!」


 ライアの指の先に視線が集まった。切り崩された天井の瓦礫。その裏から居心地悪そうに一人のメイドが顔を出す。

 気怠げに葉へ会釈する彼女は、シアン達と共に天井の崩落によって落ちてきていた。多方、その後出るタイミングを失ったのだろう。

 トーンを含む葉達の視線は次に「お姉様」と呼ばれた者への注がれた。


「そのお姉様というのは、もしかしてわたくしのことですの?」

 

「他に誰がいるってわけ?大嘘つきの薄情者」

 

「ディ、リシア様…………」


 葉はトーンに、蓮夜とシャナはサヴにでも聞いていたのだろう。彼女達は案外驚きを見せなかった。ただその目を見るに、「本当にそうだったのか」と信じたくなかった感情の方が大きいようだ。


「お前だろ?この家にギルドー呼んだのは」

 

「呼んだ……?なんのことですの?わたくしはただ『神を作る研究をしている方がいる』と、お父様に教えただけですわ」

 

「だから私は無罪ですってか?あっはは!お嬢さん、共犯者って言葉ご存知?」


 ライアは、基本的に怒りを抱くことが少ない。常に何かしらに腹を立てているシアンの真逆である。

 しかし、今だけは違った。


「百歩譲ってギルドーの野郎と手を組んだことが親父さんの独断先行、お前はただのきっかけだったとして、だ。今のお前って妹を贄に出したも同然だろ?だって何も止めようとしなかったんだから」


 淡々と、それでいて轟々と燃える炎のように。ライアは笑みの裏に確かな怒りを抱いていた。不殺を貫く片割れ(シアン)がこの場にいなければ、一目散に目の前の女の首を掻っ切ってしまうほどに。


「だって…………だって仕方が無いじゃない!!」


 そんな命の危機も露知らず、ディリシアはヒステリックに声を荒らげた。


「元は……わたくしが神になれと言われていたのよ?!嫌ですわそんなの絶対に嫌!!だって人間でいたいんですもの!神になるなんて嫌、天使に食われるなんて嫌、死ぬなんて嫌よ!!」

 

 数少ないライアの地雷。大抵の事はどうでも良いと笑い飛ばす彼女にとっての譲れないもの。その一つ。


 ――自身の利益のために人を神へ堕とす愚行


 それをディリシアは踏み抜いた。

 彼女は誰も言い返さないのをいいことに、尚も言葉を続ける。まるで自分の言うことが全て正しいというように。誰も否定できないと確信しているように。


「だからリザが選ばれてホッとましたわ。なんとしてでもあの子に神になって貰わなきゃ…………!!」

 

「そんなの……あまりに自分勝手っス!!リザの気持ちはどうなるんスか!」


 しかし、いつまでも大人しく黙っている蓮夜ではない。彼も負けじと声を張り上げた。


「知りませんわよ、そんなの!……何?わたくしに代われって?わたくしに死ねと申されますの?できませんわよね、そんな事。人間のまま真っ当に生きたいと思うことは、何の罪にもなりませんもの!!」


 ――が、ディリシアの金切り声は更に怨念のように強く、深く刺さるように鼓膜へ届く。

 どうだ言い返してみろ。そう言いたげな彼女の歪で狂気的な笑み。

 確かに彼女の言うことは一理ある。が、しかし。それがまかり通るなど許されない。許されてはいけないのだ。


「いーやなるね。それとこれとは話が違うぜ。お前が被害者でいたいなら、親父の狂乱が始まった時点で軍や騎士に懸念を相談するべきだった」


 フーフーと唸るディリシアに、ライアの殺意が刺さる。人ではない哀れな化け物を見下すような冷たい視線。怒りのあまり、内蔵が冷えるような感覚が襲う。

 ライアの中で燃え盛る溶岩は一周まわって冷ややかに流れ、固まった。――つまり、既に噴火は起きている。


「生きていたいと願い抗うことは罪じゃない。ただな、ディリシア=カルヴィテリア。お前みたいな他に選択肢があった中で、思考を止め、他者を容易く贄に出すやつは――――紛れもない罪人だ」

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